COLUMN
私が地方のパレードを応援する理由
東北の4県で5月21日から6月12日までの毎週末、パレードが行なわれました。東北出身のゲイとして、使命感に駆られ、無謀にも4つのパレード全てに行って取材しました。「私が地方のパレードを応援する理由」について、コラムをお届けします。
(2018年の青森レインボーパレード)
仙台のパレードがとても感動的な、いいパレードで、ひさしぶりにコミュニティセンター「ZEL」にも行って楽しい時間を過ごし、充実した気持ちで帰りの新幹線に乗ったのですが、Twitterを開いたら、プライド月間によくこんなこと…と驚くような、げんなりする出来事があり、悲しみや憤りの声がたくさん上がっていました(みなさんご存じの通りです)
はっきりした「差別」ではないとしても、世間にゲイをネタにしたり笑ってもいいという風潮がはびこっている間は、パレードは続けられなくてはいけないと思うし、PRIDEってそういうことでもあるんじゃないかなぁと思います。
今年はかつてない頻度でパレードが開催されていますが、特に、5月21日から毎週末、東北の4県でひさしぶりにリアル開催されたり初開催されたりしています。自分自身東北出身だからということもあり、毎週行くのは大変だとわかっていたけど、頑張って取材をしてきました。私はまだまだLGBTQが生きづらい地方のパレードをこそ応援したいし、みなさんにも応援してほしいと思ったからです。そこで、私自身が体験してきたパレードのあれこれや、地方のパレードで感じてきたこと、今回の東北の取材などを振り返り、「私が地方のパレードを応援する理由」について(半ば衝動的に、眠い目をこすりながら)コラムを書きました。
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私にとってのパレードは、もともと、「楽しいお祭り」でした。1996年、ドラァグクイーンをやりはじめてちょっとした頃に東京でパレードがあって、友達たちと「レインボー隊」という6色のレインボーカラーのクイーン集団で参加することになり、クラブでショーをやるのも楽しいけど、外で友達とキャーキャー言いながら歩いて、ハナエモリビルの前で記念写真を撮ったりするのが本当に楽しかったのです。そのパレードの後、原宿のどこかのクラブでパーティがあり、MCのマーガレットさんがパレードの始まりの話(ジュディ・ガーランドが亡くなって、みんなでバーに集まって悲しんでいたところに警官が来て、暴動が起こり…なので、パレードのテーマソングは「オズの魔法使い」の「Over The Rainbow」なのだという、あの有名な物語です。今は史実が検証されてジュディ・ガーランドはそんなに関係なかったようだと言われていますが)を聞かせてくれて、素敵だなぁと思って。それが最初のPRIDEの体験でした。
翌年の6月には、札幌のパレードにも参加して、パーティでショーもやらせていただいてとても楽しかったし、1999年の札幌のパレードには初のDJフロートが出て、クラブみたいだ!と興奮したし、友人の某クイーンが、親に勘当されて、うちに泊まっていたのですが、パレードの時に、そんな悲しみを吹っ切るかのように全身全霊で頑張っていて、その姿に涙し…忘れられないパレードになりました。その99年の時に砂川秀樹さんが「来年東京でパレードやります」と宣言して、おお!となって(東京ではしばらく開催されなくなっていたのですが、砂川さんがやるなら応援しなくちゃね、という空気感でした)
そして2000年の、あのパレードと、レインボー祭りです。パレードの後、砂川さんが泣きながら参加者のみなさんにお礼を言ってたのももらい泣きでしたし、レインボー祭りで仲通りがクラブ状態になって最後にみんなで一斉に風船を夜空に放ったそのとき…まさかの花火が上がって、その素敵すぎるサプライズにみんな号泣して抱き合ったりしてた、あの感動はずっと忘れません…。「ゲイに生まれてよかった」と心から思えました。
翌年は福島光生さんに「あんたもやるのよ」と腕を掴まれて実行委員をやることになり、「どうせやるなら」と、たくさんのみなさんのご協力のおかげで(特に、今考えると本当に恐れ多いのですが、クイーンのみなさんを取りまとめてくださったシモーヌ深雪さん、舞台監督を務めてくださった吉田利信さんには、心からお礼を申し上げます)、パレードの前日に、全国から集まったゲイやレズビアンのインディーズミュージシャンとドラァグクイーンのみなさんがライブとショーを繰り広げる「GLORY」という「ウィッグストック」のようなフェスをやらせていただき、(いろいろ大変でしたが)素晴らしい1日になったと自負しています。
その後も2005年まで東京と札幌のパレードで『バディ』のフロートの出展に携わりました(そちらもアラタさんやM☆NARUSEさん、ホッシー先生、吉野さんなどにお世話になりました。ありがとうございます)
パレードが「楽しいお祭り」というだけでなく、「泣けるほど感動する」イベントだと思い知らせてくれたのは、レインボーマーチ札幌でした。
2003年、上田文雄市長がパレード会場に来場して「札幌はみなさんを歓迎します」から始まってセクシュアルマイノリティの人権について熱く語るスピーチをして、参加者のみなさんがスタンディングオベーション…泣いてた方も多数(私も)でした。まさか市長さんがわざわざゲイパレードに来てくれるなんて…という感動。「僕ら、公に認められたんだ」と思えました。
それだけでなく、2006年に(実はビューティフル・ジュエリーズというドラァグ・ユニットの一人であった)ゲイの息子さんを自死で亡くしたお母様である西沢和子さんが、パレードの日、親の会のブースで参加者のためにおにぎりを握ってくれて、パレード後の集会で「みんな私のかわいい息子です」と語るという、涙なしでは見られない、号泣モノの回もありました。西沢さんはその後もずっと、親の会のイベントに参加し、おにぎりを握ってくれています。
ほかにも、90年代当時としては本当に稀有なことだったと思うのですが、HIV陽性者の方がパレード後の集会でスピーチすることもありました。
最初のパレード体験が楽しいお祭りだったので(「刷り込み」ですね。「卵」から孵って最初に見た光景が楽しすぎたのです)、そして、札幌で号泣するほどの感動ももらえて、パレードは自分にとって「生き甲斐」や「ライフワーク」のようなイベントになりました。
あ、大阪でもやるんだ、名古屋でも始まったね、神戸のパレードのやり方はすごい、発明だね!といった感じで、できるだけ現地に足を運び、取材するようになりました。パレードで必ず会う友達もできて。そういう友達と、あまり人がたくさん集まる感じではないような地方のパレードにも行って、夜はその土地のゲイバーに一緒に行ったりして。それもいい思い出です。
私が地方のパレードに参加する意味をはっきりと悟ったのは、2018年の青森のパレードでした。青森は自分の出身地で、本当に保守的で閉鎖的で男尊女卑で、とてもじゃないけどここでは生きていけないと思って高校を卒業すると同時に家を出たので、そんな土地で、たった3人で歩き始めた仲間がいたことに胸を打たれましたし、「故郷を帰れる街にしたい」というスローガンに共感して全国から青森に集まってくれていることもうれしかったですし、翔子さんのマイクでのスピーチにも胸が引き裂かれるような思いがしました。青森でちゃんとゲイとして生きている若い子たちがいることにも安心しました。いろんな意味で、このパレードを応援したいと思いました。まだまだ青森では生きづらさが解消されてないということも本当によくわかるし、カミングアウトはまだできないけどそれでもパレードを応援したいという方たちの気持ちにも触れて、自分は幸い恵まれた環境にいて、顔を出して歩けるのだから、そんな方たちの代わりにパレードを歩こうと思いました。自分はある意味「故郷を捨てた」人間ですが、せめて、同じ青森のゲイの方たち…碇ヶ関でリンゴを作っている方や、五戸で牛を育てている方、外ケ浜でイカを釣っている方が、世間の圧力に負けず、堂々とゲイとして生きていける未来が訪れますように、という願いを込めて…。
今年は緊急事態宣言などもなく、故郷の青森や、不運にも2回目が台風で中止となった岩手、3年前にパレードをやるよとアナウンスしていたのにずっと開催できずにいた秋田、同じくやるよとアナウンスしながらオンライン開催になってしまった宮城という東北の4県で、5月21日から始まって6月12日までの毎週末、パレードが行なわれることになり、無謀にも、全部行こう!と思いました。東北出身のゲイとして。使命感に駆られて。
そうして今日、仙台の、とても感動的で、胸がいっぱいになるような素晴らしいパレードを終えて、私の「東北プライド月間」はひと段落しました(まだレポート作成が残ってますが)。途中、母親が入院したり、私自身も疲れて体調を崩したりして、思った以上に大変だったのですが、無事に終えることができてホッとしています。
なお、今日発表がありましたが、秋には福島でもパレードが開催されるそうです。また、山形でもやりたいという方たちがいらっしゃいました。もし実現したら東北の全県です。なんと素晴らしい…ちょっと前までは考えられなかったことです。声を上げ、行動すれば、応援してくれる仲間が現れるし、そんな方たちがいっしょに力を合わせて頑張れば、いろんなことが実現するし、世の中も変わっていくというPRIDEのストーリーを、ほかでもない東北の各地のみなさんが、お互いに応援しあいながら現実のものにしていっていることに、今とても感動しています。
これからも、お金と体力の続く限り、地方のパレードを応援したいと思っています。
2022.6.12
後藤純一
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【追記】2022.6.17
ハートネットWebサイトに「地方のプライドイベント」についての記事を寄稿させていただきました。レインボーマーチ札幌のことから始まって、ピンクドット沖縄まで、地方のプライドイベントの始まりや広がりについて書かせていただいております。そちらもぜひ読んでみてください。
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<備忘録:これまでに参加してきたプライドイベント>
そういえば、これまで何回くらいパレード(やピンクドットなどのプライドイベント)に参加してきたんだっけ…と気になり、備忘録として書き留めておこうと思いました。すでに記憶が曖昧な部分もありますが…だいたいこんな感じです。
決して日本一ではありません。少なくとも、岐阜のVENさんという方が私よりもたくさん参加しています(二人とも“パレードばか”であることは確かです)
今年は3ヵ月ですでに8つのパレードに参加…しばらく休んで、また9月から各地のパレードに行こうと思っています。
◆1996年
8月 第3回「東京レズビアン・ゲイ パレード」
◆1997年
6月 第2回「セクシュアルマイノリティプライドマーチ札幌」
10月 「ダイクマーチ」(東京)
◆1998年
8月 第3回「セクシュアルマイノリティプライドマーチ札幌」
◆1999年
8月 第6回「東京レズビアン・ゲイ・パレード」※1
9月 第4回「レインボーマーチin札幌」
◆2000年
8月 第1回「東京レズビアン&ゲイパレード」
◆2001年
8月 第2回「東京レズビアン&ゲイパレード」
9月 第5回「レインボーマーチin札幌」
◆2002年
8月 第3回「東京レズビアン&ゲイパレード」
9月 第6回「レインボーマーチin札幌」
◆2003年
9月 第7回「レインボーマーチin札幌」
◆2004年
9月 第8回「レインボーマーチin札幌」
11月 第1回「立命館大学学園祭レインボーパレード」(京都)
◆2005年
8月 第4回「東京レズビアン&ゲイパレード」
9月 第9回「レインボーマーチin札幌」
◆2006年
8月 第5回「東京レズビアン&ゲイパレード」
10月 第1回「関西レインボーパレード」(大阪)
◆2007年
8月 第6回「東京プライドパレード」
◆2008年
8月 キャンディ・ミルキィさんのパレード※2
10月 第3回「関西レインボーパレード」
◆2009年
5月 第1回 TOKYO Pride Festival
10月 第4回「関西レインボーパレード」
◆2010年
3月 「セクシャルマイノリティ学生プライドパレード」(東京)
5月 第4回「KOBEふれんどりーマーチ」
8月 第7回「東京プライドパレード」
9月 第14回「レインボーマーチ札幌」
10月 第5回「関西レインボーパレード」
◆2011年
4月 「差別発言に「NO」と言える日本を! 石原都知事の同性愛者差別発言に抗議する」デモ
8月 キャンディ・ミルキィさんのパレード※2
◆2012年
5月 第1回「東京レインボープライド」
8月 「緊急開催!Save the Pride!」(東京)
11月 第1回「沖縄市レインボーパレード」
◆2013年
5月 第2回「東京レインボープライド」
9月 第16回「レインボーマーチ札幌ファイナル」
10月 「関西レインボーパレード2013&RAINBOW FESTA!」
◆2014年
5月 第3回「東京レインボープライド」
10月 「RAINBOW FESTA! PARADE×PARK 2014」
11月 「福岡レインボーパレード」
◆2015年
5月 第4回「東京レインボープライド」
10月 「RAINBOW FESTA! 2015 × 10th KANSAI Rainbow Parade」
10月 「横浜レインボーフェスタ」
11月 第1回「九州レインボープライド」(福岡)
◆2016年
4月 「小倉でレインボーパレードするっちゃ!」(北九州)
5月 第5回「東京レインボープライド」
9月 第5回「虹色どまんなかパレード」
10月 「レインボーフェスタ!2016&関西レインボーパレード2016」
10月 「横浜ダイバーシティパレード」
11月 第1回「レインボーパレードくまもと」
◆2017年
5月 第6回「東京レインボープライド」
9月 第5回「ピンクドット沖縄」
10月 「RAINBOW FESTA!」
◆2018年
5月 第7回「東京レインボープライド」
6月 第5回「青森レインボーパレード」
9月 第1回「いわてレインボーマーチ」
9月 第6回「ピンクドット沖縄」
10月 「RAINBOW FESTA! 2018」
10月 「TOKYO LOVE PARADE」
11月 第4回「九州レインボープライド」
◆2019年
5月 第8回「東京レインボープライド」
9月 第2回「さっぽろレインボープライド」
9月 第7回「ピンクドット沖縄」
◆2020年
11月 第2回「明石プライドパレード」
◆2021年
4月 第1回「京都レインボーパレード」
10月 第1回「金沢プライドパレード」
11月 第1回「Tokyo Trans March」
11月 第1回「ももたろう岡山 虹の祭典」
12月 第9回「ピンクドット沖縄」
◆2022年
3月 「レインボーフェスタ和歌山2022」
4月 「京都レインボープライドパレードフェス2022」
4月 「東京レインボープライド2022」
5月 「名古屋レインボープライド2022」
5月 「いわてレインボーマーチ2022」
5月 「Akita Pride March」
6月 「青森レインボーパレード2022」
6月 「みやぎにじいろパレード」
※1 南定四郎さんが始めた「東京レズビアン・ゲイ パレード」は、96年にステージ上に団体の人が乱入して紛糾する事件があって、以後、実質的な広報を行わず、数十人くらいで歩くものになっていました。97年〜99年は、たぶん誰もパレードが続いてると知らなかったと思うのですが、何かのきっかけで南さんたちが細々とやっていることを知り、「あの事件以降どうなったんだろう…」と気になっていたので、『バディ』編集部として取材に伺いました。
※2 東京でパレードが開催されなくなったのは寂しいと言って、キャンディ・ミルキィさんがmixiで「パレードが開催されるはずだった日、同じコースを一人で歩こうと思います」と表明し、それに賛同した6〜7人くらいの方たちがキャンディさんと一緒に歩きました。
★「第○回」という通算回数は、例えばレインボーマーチ札幌が16回開催されて日本最多であるということや、今年ピンクドット沖縄が10回記念であるということが見てわかるという意味があるため、つけることにしました。ただ、主催団体が公式に通算回数を謳っていない(年号だけ表記されている)場合はそのように記述させていただきました。厳密ではないですが…。
INDEX
- ゲイの世界におけるルッキズムとは?
- 2024年6月のHIV検査キャンペーン
- TVドラマ史上最もLGBTQが花盛りだった2024年1月クールを振り返って
- 2023年の世界エイズデーキャンペーン
- エムポックス(サル痘)のワクチン接種について
- 2023年6月のHIV検査キャンペーン
- サル痘(mpox)が感染拡大しています。予防に努め、みんなで力を合わせて感染拡大を防いでいきましょう
- PrEPユーザーのリアリティ――2022年の現在地
- 2022年の世界エイズデーキャンペーン
- サル痘への偏見や感染者への差別を克服しながら予防に努めましょう
- 私が地方のパレードを応援する理由
- クラブパーティのオーガナイザーさんへの感謝とリスペクトを込めて
- 先行き不透明な状況でもメンタルヘルスを良好に保っていくためのヒント
- 2020年の世界エイズデーキャンペーン
- 私たちを分断する様々な「ダメ。ゼッタイ。」——コロナ禍の今だからこそ真剣に考えたいこと
- 6月1日〜7日は「HIV検査普及週間」。緊急事態宣言が明けた今こそ、検査・相談を!
- コロナ禍のLGBTへの影響についての緊急アンケートの結果が報告され、病院や医療従事者によって「家族」の定義が異なる現状や、緊急連絡先カードなど今できる対策が示されました
- コロナ禍による困り事や不安を解消するためのヒント
- 世界のLGBTはパンデミックに対してどのような影響を受け、どのように動き出しているのか
- RUSH裁判のこれまでとこれから
SCHEDULE
- 09.20PINKHOUSE X vol.157 -25th ANNIVERSARY PARTY-
- 09.21DAYDREAM
- 09.21ジューシィー!
- 09.21デブも専ナイト -15th Anniversary-
- 09.21前髪系ナイト in OSAKA