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ゲイ用語の基礎知識

同性パートナーシップ証明制度

 地方自治体が、戸籍上同性であるカップルに対して、二人のパートナーシップが婚姻と同等であると承認し、自治体独自の証明書を発行することで、公営住宅への入居が認められたり、病院で家族として扱ってもらえたりという一定の効力を期待できるようになる制度のことです。法的な拘束力はありません。

 同性パートナーシップ証明制度は2015年11月5日、東京都渋谷区と世田谷区で同時にスタートしました。
 渋谷区は、2015年3月に成立し4月から施行した「男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」という新条例によって、同性パートナーシップ証明制度を実現しました(条例には、区内の事業者にも理解を求めるといった記述も盛り込まれていました)。なお、証明を受けるためには、カップルが任意後見契約書と準婚姻契約書という公正証書を提出する必要があります(世田谷区などに比べてハードルが高くなっています)
 世田谷区は、要綱という内規(事務をするうえでのマニュアル)によって同性パートナーシップ証明制度を規定しました。証明書は、同性カップルが区にパートナーであることを宣誓し、区が押印した宣誓書の写しと受領の証書を交付するという形をとります(議会の承認を経ずに首長判断で策定できるということもあり、導入がしやすく、広く全国に普及しました)
 なお、両区における制度の発端から成立に至るまでの経緯や、両区の証明書の違いなどについて、『同性パートナーシップ証明、はじまりました。』(エスムラルダ:著、ポット出版)という本にたいへん詳しく、わかりやすく書かれていますので、読んでみてください。
 
 2015年に渋谷区が初めて同性パートナーシップ証明制度のことを発表した際、LGBTQコミュニティでは、証明書の持つ効力自体というよりも、同性カップルの権利がようやく初めて公的に承認されたということの喜びのほうが大きかったように見受けられました。90年代から同性結婚式を挙げるカップルがいて、『バディ』誌の特集で金山神社での同性結婚式が行なわれ、NLGRのフィナーレで毎年同性結婚式が行なわれ、感動を呼んできましたが、日本で実際に結婚が認められるのはまだ何十年も先だろうなとあきらめていた方たちも多かったでしょうから、たとえ法的な効力はなくとも、二人のパートナーシップを承認し、祝福してもらえる、その証として証明書を授与されるようになったというのは、やはりうれしいことでした。
 その後、全国の自治体に制度が浸透していくにつれ、一部、「パートナーシップ制度があれば、同性婚は要らないのでは」的な反応も見られるようになりました。結婚が認められない限り、パートナーが亡くなっても葬儀にすら出られず、二人で築いた財産を親族に持って行かれ…といった悲劇は無くなりません。世間の人たちに、この制度は結婚の平等(同性婚)というゴールのはるか手前の「はじめの一歩」に過ぎないということをきちんと認知していただかないといけないですよね。
 以下、かなり図式的ではありますが、大まかに同性カップルの権利保障の制度について整理してみると、こんな感じになるでしょう(色の濃度で達成の度合いを表現しています)
 
結婚の平等(同性婚):完全に異性の夫婦と同等に結婚が認められる

シビルユニオン(準同性婚):相続や遺族年金など結婚に関する権利のほぼ全てが認められる(ただ「結婚」でないだけ)

その他の同性パートナー法(ドメスティック・パートナー制度など):結婚に関する権利の一部が認められる法制度

同性パートナーシップ証明制度:法的な拘束力はなく、自治体が証明書を発行することで、家族と認められるケースも期待できる(日本独自の制度。一時期は台湾の一部の自治体でも採用)
 
 2015年当初は「同性パートナーシップ証明制度」と称されていましたが、その後、自治体によって、この制度の呼び名は、「同性パートナーシップ宣誓」「パートナーシップ宣誓制度」「パートナーシップ制度」など、様々に変化してきました。一般的にこの制度を何と呼ぶべきか?ということについては、g-lad xxでは「同性パートナーシップ証明制度」を採用したいと考えます。理由を述べます。
・「パートナーシップ制度」ですと、行政がNPOや企業とパートナーシップを結ぶような既存の制度(環境パートナーシップ制度やこちらなど)と区別がつきにくく、まぎらわしいですし、何のパートナーシップなのかが不明瞭です。また、一般メディアで、海外の同性パートナー法と混同した書き方も散見されるようになり、あたかもこの制度が実現すれば同性カップルの権利保障はOK的な誤解が世間で広がることが懸念されます→こちらをご覧ください
・「パートナーシップ宣誓制度」ですと、渋谷区や港区のような宣誓方式ではない制度には使えません
・「同性」とする理由は、そもそもこの制度が、法的な権利が全く保障されていない同性カップルに対して、せめて証明書だけでも発行しましょう、という趣旨だからです。2019年1月に千葉市で施行された「パートナーシップ宣誓制度」が、事実婚の異性カップル※も利用できるという点で(性別を限定しないところが素晴らしいというニュアンスで)ニュースになり、これに倣う自治体も増え、次第に「同性」が取れて「パートナーシップ制度」という名称がデフォルトになりつつあるように見受けられます。「同性」が取れることは、そもそもの権利擁護の対象が(婚姻制度から排除されている)戸籍上同性のカップルであるということを不可視化することにつながる面もあると危惧するものです(なお、たまにトランスジェンダーを包摂する意味で「同性」を取るべきとおっしゃる方がいますが、ちょっと不思議な主張だと思います。初めからトランスジェンダーとシスジェンダー・ストレートのカップルなども含めた「戸籍上同性のカップル」が対象で、申請したカップルに対して「あなた同性愛者ですか」などと問い質すことはないので…)
 ・「証明」を謳う理由は、海外の同性パートナー法のように相続などが認められるわけではなく(法的な効力はゼロで)、現状、証明書を発行してもらえるにすぎないからです。あたかも海外の同性パートナー法ができたように誤解され、「パートナーシップ制度があれば、同性婚は要らないのでは」と言われてしまうのでは、本末転倒です。今後もし、国として同性パートナーシップ法を制定する運びとなった暁には、胸を張って「同性パートナーシップ制度」と言いましょう
 
 なお、2020年9月現在、この制度が○○市で導入されることになったというニュースを見ると、その多くが「LGBTなど性的少数者のカップルを公的に認める」といった記述になっていますが、正確ではありません。戸籍上同性であるカップルの中には、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、パンセクシュアルなど性的指向のマイノリティだけでなく、トランスジェンダーで戸籍性を変えていない方とそのパートナー(シスジェンダー・ストレートを自認)というカップルもいらっしゃるからです。また、事実婚の異性カップルも利用できる場合もあります。
(何でもLGBTと言ってしまうメディアにありがちな雑さ、あるいは、「この制度を利用するのはLGBTという特殊な人たち」という偏見の表れではないでしょうか)
 あくまでも基本は、「法的に結婚が認められていない戸籍性別上同性のカップル」に対して、せめて証明書を発行し、公的に承認しようとする制度であるということを、今一度ご確認いただきたいです。
 
※ 事実婚(内縁関係)は、婚姻届こそ出していないものの事実上結婚していると制度的に認められる関係で、内縁関係を築くと、法律上、結婚した夫婦と同じような権利・義務が発生します。権利としては、離縁時に財産分与請求や慰謝料請求などが認められます。義務としては扶養義務や貞操義務があります。事実婚と認められるための要件は、当事者に婚姻の意思が認められること、かつ共同生活をしていることです。異性カップルはこのように、一緒に住んで、結婚の意思があれば、財産分与請求も慰謝料請求も認められ(パートナーが外国人であれば、在留資格も得られます)、準婚姻制度として国の手厚い保護を受けているのに対し、同性カップルには何も保障されておらず、その差は天と地ほどもある、ということは踏まえておく必要があります。なお、フランスでは同性婚が認められる以前、同性カップルも、事実婚を選択したい異性カップルも利用できる準婚姻制度(シビルユニオン)が制定され、意義ある制度として機能していました。千葉市の制度設計の考え方は、これに近いものがあると思われます。

 

★同性パートナーシップ証明制度を導入している/導入予定の自治体の一覧はこちら

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