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ダムタイプ『S/N』@六本木クロッシング2010展

六本木ヒルズ森美術館で開催中の「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」において、ダムタイプの作品『S/N』(1994)がビデオ上映されています。ゲイであること、HIVポジティブであることを前面に打ち出した故・古橋悌二さんの思いが表現された、奇蹟のような感動作で、ゲイコミュニティにも(世界にも)影響を与えた伝説の作品です。7月4日までなので、まだ観たことのない方は、この機会にぜひ、ご覧ください。

ダムタイプ『S/N』@六本木クロッシング2010展

ダムタイプ『S/N』とは?

 ダムタイプは1984年に京都市立芸術大学の学生を中心に結成されたアーティストグループで、ビデオ・アートやコンテンポラリー・ダンスを組み合わせた「マルチメディア・アート・パフォーマンス・グループ」と呼ばれることが多く、海外公演も多数行い、芸術的に高い評価を得ています。
 1994年に初演された『S/N』は、ハイパーメディアなダムタイプの作品の中でも異彩を放っており、故・古橋悌二さんの思いが強く反映された作品です。文化庁メディア芸術祭10周年企画アンケート日本のメディア芸術100選【アート部門】の30位に選ばれています。

 『S/N』はまず、パフォーマンス作品の定石に反し、人々の予想を裏切って、ゆるいトークでスタートします。聴覚障害を持つ方や黒人の方とともに登場した古橋悌二さんのスーツには「ゲイ」「HIV+」といったラベルが貼られており、初演された当時、このカミングアウトは本当に衝撃的だったと思います。
 そこから爆音のノイズや閃光が炸裂する中「私は夢見る。私の性別が消えることを」といったテキストがプロジェクターでステージ上の「壁」に映し出され、ダンサーたちがどんどん衣服を脱ぎ捨てながら壁の後ろにダイブするというハイテクなパフォーマンスが繰り広げられます。
 再び古橋悌二さんがゆるい関西弁でトークしながら舞台上でメイクを始め、ドラァグクイーン(ミス・グローリアス)に変身し、シャーリー・バッシーの「PEOPLE」(もともと映画『ファニーガール』でバーブラ・ストライザンドが歌った曲)に合わせてリップシンク・ショーを披露します。そのシーンでずっと悌二さんと対話していたブブ・ド・ラ・マドレーヌさんはセックスワーカーの方で(悌二さんからHIV感染したことを打ち明けられた翌日、彼女は「あなたの子どもを産みたい」と言い、それが叶わないことを知るや、セックスワーカーになったという感涙のエピソードが伝えられています)、ラストではこのうえなく美しく、気高いパフォーマンスを、体を張って見せてくれます。涙なしでは観られない、素晴らしいシーンです。
 心の底から人間ばんざい!と思えるような、自分の全存在をまるごと肯定されるような、これから自分がどう生きていけばいいかを指し示してくれるような、本当に特別な意味を持つ、奇蹟のような作品です。 
 どのようにゲイになるか(ゲイであることに囚われるのではなく)、HIVという病とどう向き合うか、差別とか偏見を取り払っていくうえでコミュニケーションや人間性がいかに重要か、芸術は可能か?など、この作品は、観る者に多くのメッセージを投げかけてくれます。
 今、ゲイシーンでHIV予防啓発やHIV陽性者支援に携わっている方たちの多くは、ダムタイプの『S/N』に、古橋悌二さんに多かれ少なかれ影響を受けています。彼の肉体は消えてなくなっても、「思い」は伝播するのです。

 

「六本木クロッシング」での上映について

 「六本木クロッシング」は、日本のアートシーンの「明日」を見渡すべく、多様なジャンルのアーティストやクリエイターを紹介する企画展で、今回が第3回目となります。今回は「芸術は可能か?」という古くて新しい問いを出発点に、エネルギーに溢れ、力強く明日に挑む日本のアートの「今」をご覧いただけます。
 この「芸術は可能か?」というサブタイトルは、実は古橋悌二さんの言葉です。バブル経済崩壊直後、1990年代のアートを考え、アートがアートの枠の中に留まらず、社会に影響を与えることにより成立する可能性を問いかけたのだそうです。

 『S/N』はビデオ化もされておらず、こうした上映企画の際に観ることしかできません。とても貴重な機会です。
 六本木クロッシングでは計19組のアーティストの作品が展示されていますが、『S/N』は、展覧会場のルートのいちばん最後に設けられているそうです。
 上映時間は約85分で、上映開始後の途中入場はできません。
 上映スケジュールは以下の通りです。映画のように、何日の何時から観ようという計画を立ててご覧になることをおすすめします。

毎日:11:00、13:00、15:00 
火曜を除く毎日:17:00、19:00、20:30

 7月4日(日)までですので、まだご覧になったことのない方は、この機会にぜひ! 

(後藤純一)

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