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レポート:第20回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭(2)

表参道のスパイラルホールで開催中の第20回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭。あるいは華やかに、あるいは感動的に、20回目を記念する数々の催しが企画され、素晴らしいイベントになっています。3日目以降の様子をお伝えいたします。

レポート:第20回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭(2)

(『ボクらのはっちゃけウィークエンド—Eating Outシリーズ』上映後のトークセッション。左からレイチェル・ダムールさん、監督のQ・アラン・ブロッカさん、ザック役のアーロン・マイロさん)



※初日〜2日目のレポートはこちら


3日目:10月9日(土)

 この日も、前日と同様、秋晴れのいい天気で、昼間からたくさんのゲイの方たちが会場に詰めかけていました。
「ドキュメンタリーは全部観てる」という方もいましたし、「意外にビアンものやトランスものもいいよね~」と語る方もいました。ある聾者のゲイの方は、上映後のトークセッションに手話通訳があると友達に聞いて、来ることにしたと語っていました。

 朝イチの上映はオープニング作品『ロミオ』でしたが、昼過ぎには『Coming Out Story』が上映されました。京都の高校の先生をしているトランスジェンダーの土肥いつきさんのドキュメンタリーでしたが、土肥さん以外にもたくさんのトランスジェンダーの方(あるいはそう呼んでいいのかどうかもわからないくらい揺らいでいる方)が登場していました。そしてなぜ監督さんが土肥さんに魅了され、映画を撮りたくなったのかがわかる気がしました。上映後のトークセッションで土肥さんが「講演はネタです。少しでも笑って帰ってくれれば」と語っていたように、とても面白い方だったのです。それでいて、ジェンダーの揺らぎみたいなことの相談に親身にのってくれるような、強くてしなやかで軽やかで、素敵な魅力をもつ方でした。周りに人が集まるのもよくわかります。ああいう先生がたくさんいてくれたら、セクシュアルマイノリティの生徒が自殺することもないだろうな…と思いました。

 その次の『あの頃、僕らは——いま語られるエイズの記憶』という作品は、サンフランシスコのコミュニティがいかにエイズ禍に立ち向かい、闘ってきたかを描く物語でした。カストロの街角で花を売っていた黒人のゲイの方、奇跡的に生き延びた陽性のアーティストの方、献身的に患者を支援したゲイの方、治療にあたったレズビアンの方などが当時を振り返って語ります。サンフランシスコだけで何万人もの方が亡くなったことはこの上ない悲劇でした。治療法がまったくわからない初期の頃、治験に参加して亡くなった方もいたそうです。たくさんの方がボランティアで支援にあたり、これは知らなかったのですが、その中にはレズビアンの人たちもいて(貧血症の人のために輸血に協力したり)、コミュニティが団結と行動を強め(ゲイやジャンキーの病気だとして放置したレーガン政権の下、Act Upを展開。また患者を隔離しようとした州知事候補に抗議)、少しずつ治療もできるようになり、死者も減っていったのでした。
 上映後のトークには、aktaのジャンジさん、JaNP+の長谷川さん、ぷれいす東京の生島さん、デリヘルボーイズのみなさんが出演しました。長谷川さんが、映画の中でバスハウス(サウナ)の強制閉鎖をめぐってコミュニティ内でも議論になったということに触れて「SEXは尊厳」と語ったのが印象的でした。生島さんは、サンフランシスコの陽性者の方たちのオープンさに驚いたと語りました。日本でもこれまで1000人近い人たちが亡くなりましたが、多くはひっそりと、誰にも言わず亡くなったそうです(お骨になってから親が来たという方もいたそうです)。これまで陽性者支援や陽性者が生きやすい状況作りのために活動してきた方たち、そしてその若さが希望の象徴であるようなデリヘルボーイ(二丁目でコンドームを配っているボランティアの方たち)に、大きな拍手が贈られました。あんなにシリアスな映画なのに会場が満員だったことにも感動しました。


 この日の最後のプログラムは『LAに恋して』。ハリウッドスターを夢見てLAにやって来たイケメンが、なかなか俳優の仕事にありつけず、お金に困ってゲイポルノの世界に足を踏み入れ、そのうちエスコート(売り専)の仕事も紹介されたが、なんと相手はハリウッドの大物俳優で…というストーリー。キャラの立った登場人物のオンパレードで、グラマーでゴージャスなLA/ハリウッドが大げさに描写され、笑いとエロスが満載な、極上のエンターテインメント作品でした。それでいて、予想外の結末は、ゲイプライドに裏打ちされた、感動的なものでした(ラストシーンでは親友のキャンディが思いっきり笑わせてくれましたが)。「あんなイケメンに生まれて、グラビアとかビデオとかGO-GOとかでスターになって、それでカッコいい大物俳優とつきあえたら…本当に夢のよう」と思った方も多いハズ。現代のゲイ版シンデレラストーリーとも言うべき、最高に素敵な映画でした。有名なゴシップ・ブロガーのペレズ・ヒルトンがカメオ出演し、「ゴシップってひどいよね」「僕は真実しか言わないよ」と言っていたのもウケました。
 上映後には、主演男優のマシューさんが登場し、熱烈な歓迎を受け(「So Cute!」というかけ声がかかったり)、トーク終了後もロビーで撮影大会になったり、アイドルのようなもてはやされようでした。マシューさんはアメリカ各地の映画祭を回ったけど、東京も負けないくらいとても反応がよくてうれしかったと語ってくれました。Q&Aではマシューさん自身のセクシュアリティについて何度か質問が出ましたが、彼もこれからキャリアを積もうというところなのでシークレットにしておきたいという話でした(本気でリアル。映画の内容とシンクロしてます)。それにしても、日本にわざわざ来てくれたこと、本当にうれしいですね。


公式パーティ『Le Grand Bal』

 9日の夜には、ひさしぶりにスパイラルで(地下の「CAY」というレストランで)公式パーティ『Le Grand Bal(ル・グランバル)』が開催されました。
 20周年特別企画「ベストクィアムービー 総選挙」の結果発表を、豪華キャスト陣が映画のイメージでショーを繰り広げるというかたちで盛り上げ、本当に素敵な夜になりました。(写真はこちら
 L&G映画ファンのみなさんが選んだベストクィアムービーは、以下の通りです。みなさんが投票した作品は入っていたでしょうか?
1位:『ブエノスアイレス』
2位:『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』
3位:『ブロークバック・マウンテン』
4位:『トーチソング・トリロジー』
5位:『プリシラ』


最終日:10月10日(祝)

 4日目(最終日)も秋晴れの行楽日和。たぶんスタッフの方たちの日頃の行いor心がけがよいせいでしょう、映画祭の期間中、見事にいい天気が続きました。
 前夜にたくさん遊んだ方も多いことと思います。会場の雰囲気も少し落ち着きを見せていたのですが、やっぱりたくさんの方たちが詰めかけました。

 この日3本目となる『ボクらのはっちゃけウィークエンド—Eating Outシリーズ』は、お色気シーン満載で能天気なコメディかと思いきや(実際、そうなのでしょうが)、意外にも考えさせられる(リアル過ぎて笑えない、シャレにならない)内容でした。ゲイコミュニティで昔から繰り返されてきた「1対1のつきあいにこだわるべきか、オープンリレーションシップを許容すべきか」みたいなテーマがど真ん中に据えられていて。フリーSEXに抵抗があったはずの主人公が、いろんな誘惑を受けたり、元カレに会ったりで、どんどん気持ちが揺らぐ…という、ある意味、社会実験のような展開がドキドキもので。観客であるゲイたちに「あなたならどうする?」「どこまで許せる?」と突きつけるような。ちょっと冷や汗ものだったかも。それでいて、ゲイとなかよしな女の子(FAG HUG)とかトランスジェンダーの女の子が登場したり、同性婚に言及したり、いろんな目配せが利いていました。
 上映後のトークセッションでは、レイチェルさんがMCを務め、残念ながらめちゃカワイイ主人公(ベンジー)は来日できなくなったのですが、その彼氏(ザック)役のアーロン・マイロさんと監督のQ・アラン・ブロッカさんが来場。大きな拍手で迎えられました。Q&Aコーナーではやはり、オープンリレーションシップについてどう思うか?という質問が出てきました。監督さんは「ジャッジしないようにした。その人の状況や合う合わないで決めていけばいいと思う」と、男優さんは「僕には合わないかな」と答えていました。また、監督さんは「1週間で撮影した。こういうゲイ映画はみなさんがこうして観に来てくれることで支えられている。今日は本当にうれしい」と、男優さんは「日本の人々がこんなに親切だなんて…東京が大好きになった」と語ってくれました。
 ちなみに、終わったあとで感想を聞いてみると、「ピーターがカワイイ!」というようにビジュルに反応してた方や、「うらやましい」「僕なんかずっとオープンにせざるをえない(笑)」といった声が多かったです。


 そしていよいよ最後のプログラム『カブーン』。上映前に、マーガレット&レイチェルさんが登場し、代表の宮沢さんを紹介。宮沢さんがちょっと目を潤ませながら感謝の言葉を述べ、大きなあたたかい拍手が贈られ、思わずジーンとくるようなクロージングイベントになりました。また、来年1月15日に開催される「LGBT成人式」というイベントの告知が行われました。
 映画のほうはというと、バイセクシュアルの大学生・スミスが繰り返し見る不思議な夢を端緒として、不可解な出来事に巻き込まれたり、その謎を解くために奔走しているうちに、だんだん恐ろしい真実が明らかに…というストーリーで、よくあるSFモノとかサイコスリラーのパロディでした。レズビアンの親友・ステラ、ルームメイトのバカノンケ、セックス大好きな女の子、スミスのセクフレとなるダンディな色男、スミスの恋人候補となるインド系?の男の子、ステラの恋人の魔女、メサイアと呼ばれる風変わりな研究者など、キャラの立った登場人物も楽しく、ラブシーンも満載で、シリアスさと笑いの絶妙なミクスチュア(ここぞというところでスカすあたりがアラキ節)がたまらないエンターテイメント作品でした。終盤、一気に結末に向かってドライブしていくのですが、何じゃこりゃ?っていう映画史上類を見ない「脱力」なラストでした(なんと壮大なハシゴはずし。会場からは乾いた笑いが悲鳴のようにあがりました)。でも、なんだかパンクバンドのLIVEの後みたいな爽快感を覚えましたし、「ウケる」「超面白かった」と言いながら帰る人たち多数、でした。

 こうして、4日間、表参道のスパイラルという高級感あふれる会場で、世界の(主に欧米の)ゲイ映画やレズビアン映画、しかもそれぞれクオリティが高い作品ばかりを東京にいながらにして楽しむことができ、お楽しみが満載で、連日、多くの方たちでにぎわい(中には初めて参加する方も)、本当に素敵な連休になりました。わざわざ大阪から来たというある観客の方は「この映画祭が1年でいちばん楽しみにしているイベント」と語っていました。そうしたファンの方に支えられて、多くの企業や団体の支援もあって、そして何よりも、スタッフの方たちの尽力で(本当におつかれさまでした!)、今年も映画祭が開催され、成功したことを本当にうれしく思います。そしてあらためて、20歳の誕生日、おめでとうございます!
 宮沢さんはクロージングのスピーチで「今年は震災の影響で延期となり、期間も短くなりましたが、来年はまた以前以上に盛大にやりたいと思います」と語っていました。来年、第21回の映画祭を楽しみに待ちましょう。

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