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レポート:TOKYO AIDS WEEKS 2019

TOKYO AIDS WEEKS 2019のいくつかのイベントのレポートをお伝えします。行政や医療機関、メディアなどとも協力し、広く、有意義なキャンペーンを展開しているなぁという印象です。

レポート:TOKYO AIDS WEEKS 2019

 今年はTOKYO AIDS WEEKSのいくつかのイベントに参加できたので、レポートをお届けできそうです。ここで紹介した以外にも、Visual AIDS短編映像集「STILL BEGINNING」上映会もレポートしています(直接は関係ないかもしれませんが、「コカ・コーラ presents LIVE PRIDE 〜愛をつなぎ、社会を変える。〜」や、展覧会「ダムタイプ|アクション+リフレクション」もレポートしております)。12月22日にはまだ「Living Together のど自慢」が残っていますので、興味のある方はどうぞ。

 それから、以前は、世界エイズデーといえども、メディアにaktaやぷれいす東京のこと(ゲイコミュニティをベースとしたHIV/エイズの活動)がたくさん取り上げられるということはなかったと思いますが、今年は「「生きていなくていいと言われたのと同じ」。HIVを理由に治療を断られ続けた男性が訴える、社会に残るHIV/エイズ差別」でJaNP+創設者の長谷川博史さんが、「「日本がやらないといけないのは検査の普及」新宿二丁目でHIV検査キットを配り続けて分かったこと」でaktaの岩橋恒太さんが、「本当に立ち直ったのはHIV感染から5年目のこと。人目をはばからずにわんわん泣いた。 医療現場で体験した差別や偏見」でぷれいす東京の佐藤郁夫さんが、「HIV陽性者は絶望の存在ではない。僕が体験を発信し続ける理由。カミングアウトできても、恋愛とセックスはまだ怖い」でHIV陽性の奥井裕斗さんがフィーチャーされるなど、ゲイの方たちが前面に出て語る記事がたくさん掲載されています(まだまだ登場するかもしれません)。これも東京のHIVコミュニティのパワーといいますか、TOKYO AIDS WEEKS的な現象だなぁと感じました。
 


◎Gay Men’s Chorus for TOKYO AIDS WEEKS 2019

 今年も恒例のゲイメンズコーラスのコンサートが国立国際医療研究センターで開催されました(国立国際医療研究センターは、HIV感染症に対する高度かつ最先端の医療を提供するとともに、新たな診断・治療法開発のための臨床研究・基礎研究を行っている「エイズ治療・研究開発センター(ACC)」が設置されている病院で、SH外来もここで行われています)。コンサートを聴きに来たゲイの方も病院の患者さんたちも一緒に見守る空間は、とても温かくて、癒されます。
 最初に国立国際医療研究センターのセンター長である岡慎一さんからご挨拶がありました。U=Uのこと、たぶん来年の今頃には1日1回の服薬が月1回でよくなるだろうと見られていること、「HIV陽性者への差別・偏見は全く要らない」というたいへん心強いお言葉もあり、素敵でした。
 合唱が始まりました。最初の「恋するフォーチュンクッキー」は、ちょっと矢野顕子さんの曲みたいな、JAZZっぽいコードを使ったアレンジが加えれていて素敵でした。ユーミンの「A HAPPY NEW YEAR」という歌、知らなかったのですが、すごい名曲。グッときました(泣いた)。ディズニー・メドレーでは、単にみんながよく知ってる曲だから、というだけではなく、『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』『リトル・マーメイド』『アラジン』『美女と野獣』にも参加した作詞家のハワード・アッシュマンが、1992年に『美女と野獣』で2度目のアカデミー賞を受賞したのですが、式典では、パートナーのビル・ローチが代わりにオスカーを受け取り、スピーチの中でパートナーのハワードがエイズで亡くなったこと、周囲のサポートを受けながら、最後まで創作を続けたことなどを語るという涙なしでは語れないお話が紹介されました。歌は、ちょっと何曲入っていたか数えきれないくらいのなかなか本格的なメドレーで聴きごたえがあり、また、アナ雪のゆきだるまの歌のときに、ゆきだるまっぽい体型の方が前に出てきておちゃめな演技をしてくれて、ラブリーでした。もちろん、恒例の「Climb Ev’ry Mountain」(『サウンド・オブ・ミュージック』より)も感動的でした。指揮者の方が、終始明るく、楽しく話してくださって、素敵でした。今年はFtMの方もコーラスに加わっていたそうで(パッと見ではわかりませんが)、そういう意味でも広がりがありました。
 そして今年は、日本初のオープンリーゲイの参議院議員になった石川大我さんが陽性者の手記のリーディングを行う時間もありました。HIV陽性の方と陰性の方がおつきあいをしていて、もう検出限界値以下だから心配はないと思うけど年1回検査を受けていて、だけど不安で、受けてきたよ、大丈夫だよってメールをして、ファミレスで会って、心配かけたねって言って、涙が出てきて、こっちももらい泣きして、みたいな、こっちももらい泣きするようなストーリーを、読んでくれました。石川さんは「あったかい気持ちになりました」と語り、U=Uによって、世の中のHIVに対する偏見やスティグマがなくなっていくことを願う、「あたたかさの輪が社会の強さになっていくといいな」と語りました。
 本当に素晴らしいTOKYO AIDS WEEKSの幕開けとなりました。



◎東京都エイズ予防月間講演会「働く世代に多いHIV/エイズ ~誰もが働きやすい職場とは~」

 12月4日(水)19:00から、ビジョンセンター新宿で東京都エイズ予防月間講演会「働く世代に多いHIV/エイズ ~誰もが働きやすい職場とは~」が開催されました。
 今年、HIV陽性であることを理由とした就職差別事案が問題となりましたが、HIV陽性の方たちは実際、職場でどうしてるんだろう? カミングアウトして働けている方がいるのだろうか? HIV陽性者が働きやすい職場にしていくためには、どうしたらいいんだろう?という関心があったのと、ぷれいす東京の生島さん、永野・山下法律事務所の山下弁護士、ジョンソン・エンド・ジョンソン人事部の田口周平さんという、知った顔が並ぶ講演会だったので、聴きに行ってみました。
 正直、東京都が主催する講演会ってなんだかカタそう…という先入観を持っていたのですが、結構たくさんの方たちが来られていて、熱い雰囲気があり、印象がだいぶ変わりました。
 最初に、実際にHIV診療に携わっている東京大学医科学研究所附属病院の四柳先生からHIV/エイズに関する最新の医療事情についての講演がありました。U=UやPrEP、90-90-90など、HIV/エイズの基礎知識や最新情報について、割と知っているつもりになっていたのですが、実は長きにわたって治療を続けている方の中には、心血管障害や糖尿病、腎疾患、神経認知障害、悪性腫瘍などの合併症を患う方もいらっしゃるというお話は、知らなかったことでした。ずっと元気に生きていけるようになったとはいえ、陰性の方よりもっと健康管理・予防をしっかりやらなければいけないということ、たいへんだなぁと感じました。また、世間のHIV陽性者への偏見ゆえに、苦しみ、周囲に相談できない方も多いということ、ずっと薬を飲み続けなければいけない心理的負担や、将来に対する不安などもデータで示され、説得力がありました。
 続いて、ぷれいす東京の生島さんの方から「企業における障害者雇用の取組み」についてお話がありました。安定した服薬と通院が必要であるというお話、HIV陽性であるとの告知を受けた後、職場で誰にも言わずに離職する人が結構多いという話、主治医から仕事の時間や内容について制限して働くよう言われた(または働かないほうがよいと言われた)方は全体の7.6%で、ほとんどは普通に働いているというお話、などでした。
 産業医の加藤哲朗氏、山下弁護士、田口さんによるパネルディスカッションでは、HIV陽性者を差別しない社内ルールがあり、実際に一定数の陽性者の方が働いているというジョンソン・エンド・ジョンソンの実例について、通院の支援(本人と話し合って希望を聞き、平日に休みを取れたり、プライバシーが保護されたり)や、採用の話などをお聞きできました。現実としては、障害者の採用は会社にとってもメリットがあるはずなのに、HIV陽性者は門前払い(入社お断り)という会社もかなり多いとか、HIV陽性であることが職場(病院)にバレて即解雇されたというひどい実態もあるようです。山下弁護士は「これだけ社会が差別を放置しているのはおかしい。私も闘っているが、並行して、HIV陽性でも安心して働ける社会にしていく活動を」「HIV陽性の方が一緒に働ける会社のほうがプラスですよ、いろんな人がいて全ての人が安心できるほうがいい会社ですという認識が広まってほしい」とおっしゃっていました。
 田口さんが最後に「今日このように大勢の方が集まって、熱心に話を聞いてくださったこと、胸が打たれました」とおっしゃっていましたが、私も同じ気持ちでした。世間ではまだまだ差別事案がある一方で、こんなにHIV陽性者の就労について関心を持っている方がたくさんいるということ、胸アツでした。
 本当の最後に、都の担当者の方がご挨拶したのですが、「Living Together」という言葉も出てきたりして、「お役所仕事」ではなく、HIV陽性者のことを親身に考えてくれる方、という印象でした。



◎日本におけるPrEPの普及と課題 〜見守りネットワーク作りを目指して〜

 12月11日(水)18:30から、ビジョンセンター新宿で「日本におけるPrEPの普及と課題 〜見守りネットワーク作りを目指して〜」という報告会が開催されました。
 いよいよ日本でも、PrEPの承認を求める声が高まりつつあるのを感じますが(メディアでも少しずつPrEPのことが取り上げられるようになってきていますが)、先行してジェネリック薬を輸入している方への医療の見守りや、いざPrEPが国から承認された際に病院やクリニックでサポートしていく体制づくりが求められます、というテーマで、さまざま、多岐にわたるお話があり、質問も活発に出てくる、熱い会でした。
 最初に、「SH外来の取り組みから」ということで国立国際医療研究センターの水島さんからお話がありました。今年2月の「PrEPと日本~今とこれから」でも、SH外来のことが紹介されていましたが、今回は、SH外来で(日本での導入に向けての基礎データとすべく)PrEPを実施してHIV感染率を経過観察する研究を行ってきて、2年間で感染はゼロだったというお話があり、実現の可能性が高いとお墨付きをいただけました(アドヒアランスと言いますが、ちゃんと薬を毎日飲める方がほとんどで、とても優秀だとおっしゃっていました)。ただし、レアケースではありますが、感染していることに気づかずにPrEPの薬を飲んでいて耐性ウイルスができてしまった方もいるというお話があり、気になりました…要は、PrEP用のツルバダ(あるいはそのジェネリック薬)は治療のための薬より弱いので(治療にはもう1種類飲む必要がある)、ウイルスが死ななくて耐性ができてしまうということでした。PrEPを始める前に陰性であることを確認すること、始めたらきちんと薬を飲み続けることが大事ですね。
 次に、ぷれいす東京の生島さんから「MSMを対象にしたPrEPの調査から」ということで、9monstersなどでのゲイ・バイセクシュアル男性へのアンケート調査の結果についてご報告がありました。PrEPイコールゲイだと思われるとやりづらい…という声がある、というお話が、なるほどなぁ…という感じでした。
 続いて、海外でのPrEP導入事例を視察した千葉大学医学部附属病院の谷口先生によるレポートがありました。台北や高雄でもすでに始まっている(高雄ではChemsexのカウンセリングも実施している)、ロンドンでは自分でオートマチックに検査できる施設があって1日300人が利用している、メルボルンでは保険が効いて月に3000円くらいでPrEPができる、サンフランシスコでは製薬会社が協賛して安く薬が手に入るようになった、バンコクはプリンセスプログラムという王室の支援があって、経済的に余裕がない方も受けられるようになっている、外国人も受診できるクリニックもあって、日本人も行っている、などなど、実に興味深いお話がたくさん聞けました。
 それから、東京の性病専門パーソナルヘルスクリニックの塩尻先生から、都内の見守りクリニックの実践について、お話がありました。ジェネリック薬を個人輸入している方の相談に乗ったりしているそうですが、LINEでも相談を受け付けているというのがイマドキで新しいと思いました(ちょっと遠方の方なども、何かあった時にすぐ相談できますし、画期的かも)
 最後が、ACCセンター長の岡慎一先生の総合コメントでした。ずっとHIV診療に携わってきた方だからこその、聡明にして力強い、ハッとさせられる言葉で、感銘を受けました。岡先生は、国がPrEPを認可してくれるよう、先頭で交渉してくださっている方だそうです。

 質疑応答、ものすごく活発でした。
 多くの方が気にしていたのは、やはり、実際に始めようと思った方が、現実的な値段で薬を入手しようとしたとき(国の承認がない現状では、正規品のツルバダを買うのは月10万くらいかかりますので)、海外からジェネリック薬を個人輸入することになりますが、1ヶ月分しか買えない(それ以上買うと税関で没収されるそうです)、英語サイトだとハードルが高い、海外で売られているジェネリック薬が安全なのかどうか不安(日本語サイトで販売されている薬は血中濃度を測定する品質保証チェックがなされていないそうです。ちなみに現在、SH外来の方でこの測定を実施中で、年明け早々には結果がわかるそうです)、といった話でした。個人輸入するとして、どの薬をどこから買えばいいのか、現状では何とも言えないものがあり(認可されていないがゆえに)、情報が明らかになるためには、もう少し待たないといけない、ということでした。
 それから、あおぞらクリニックの院長さんが「ジェネリック薬を処方したいと思っているのですが」とおっしゃってて、塩尻先生は「自由診療なので大丈夫だと思う」と、そこにいらしていた日本エイズ学会の方は「行政に確認中。まだ整理できていない」とおっしゃっていました。(現状、病院では薬事承認されないと処方できないのですが)クリニックで品質的にOKなジェネリック薬を処方してもらって、医療の見守りにつながるというのが、やはり理想ですよね(海外もそうなっています)
 最後に、登壇したみなさんから一言ずつお話がありましたが、谷口先生が「PrEPができるということは権利の一つ。したい人ができる環境を整えることが大事」とおっしゃっていて、本当にそうだなぁと感じました。


 
※上記以外にもVisual AIDS短編映像集「STILL BEGINNING」上映会もレポートしております。

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