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レポート:「Reality&Fantasy The World of Tom of Finland」

渋谷「PARCO」の「Gallery X」で始まったトム・オブ・フィンランドの初めての個展の様子をレポートします。

レポート:「Reality&Fantasy The World of Tom of Finland」

 9月18日からいよいよ「Reality&Fantasy The World of Tom of Finland」が始まりました。トム・オブ・フィンランド生誕100周年を記念する、国内初となるトム・オブ・フィンランドの個展です。
 ぜひ映画『トム・オブ・フィンランド』もご覧いただきたいのですが、トムはゲイ・エロティック・アートの大家であるだけでなく、ゲイの中でもマイノリティだった人たち(ヒゲを生やし、ジムで体をバルクアップさせ、レザーやケツワレや制服などを着たり、BDSMなどのハードプレイを好む男たち)に自信とパワーと輝きを与えた素晴らしい人です。とりわけ80年代のエイズ禍の時代には、トムの作品は「生命」であり「愛」であると言われました。 
 そんなゲイ史に燦然と輝く偉大なアイコンの初個展を(先週の連休中、すでに行かれた方も多いと思いますが)レポートいたします。







 会場は、昨年再オープンしたばかりの渋谷「PARCO」のB1にある「Gallery X」です(ちなみに、同じフロアにCampy!Barがあります。もし19時頃に行かれた方は、ハシゴもできちゃいますね)
 そんなに大きなスペースではないですが、カラーのポートレート作品が壁一面に展開されていたり、キラキラのシルバーのフリンジ状のカーテンで仕切られた(ちょっと懐かしいテイストですね)18禁コーナーがあったり、平台に写真集が置かれていたり(触れることはできなかったです。残念)、映像が流れていたり、立体的でなかなか良い展示でした。
 トムの生涯や作品を詳しく説明するというよりも、その思いや生き方が伝わってくるような印象的な言葉(例えば、「かつては、ゲイは自分の気持ちやセクシュアリティを恥ずべきことだと感じていた。自分の絵を通して、それを打ち消し、ありのままの自分でいることを幸せに感じ、前向きでいるべきということを伝えたかった」など)とともに作品が数点ずつのコーナーとして展示されていて、パッと読めてパッと観れるようになっていました。
 典型的なレザーマン(バイカー)やセーラーのマッチョだけでなく、ちょっと太めのおじさん(珍しい)や普通の服装の男の子が混ざってる絵もあれば、1940年代の初期の頃の作品のコーナーもあったりして、バラエティ感ありました。あと、あの時代の人にしては素晴らしいと思うのですが、白人だけじゃなく黒人も描かれてました。
 変に自主規制とかされず、ギンギンにおっ勃ったデカいモノがリアルに描かれたような作品もしっかり展示されていて、よかったです。ちゃんとトムの作品がどういうものかが伝わるような展示になっていました。
 作品の年代なんかもチェックしながらゆっくり観ると、「乳首ピアスって80年代からあったんだなぁ」とかっていうこともわかりますし、面白いと思います。
 80年代にカリフォルニア芸術大学で行なった講演のビデオも流れていました(モニターも小さいですし、字幕がないので、BGMとしてなんとなく聴いていただければ、という感じです)
 個人的に、今回、いちばん魅かれたのは、大きく引き伸ばされてもいた「Portrait of Pekka」というカラーのポートレート作品です。「ゲイの考え方を変えるためにゲイに影響を与えたかった。異性愛者にも、ゲイが持つべき権利と彼らの美しさを理解し、受け入られる影響を与えたかったんだ」という言葉とともに展示されていたのですが、この絵には、トムのゲイピープルへの愛のようなものが込められているように感じました。キャップをかぶり、口にタバコをくわえ、幸せそうに微笑んでいるヒゲのハンサムガイは、恋人かもしれないし、セクフレかもしれないし、もしかしたらエイズで亡くなった友達かもしれません…この絵はたぶん、愛するパートナーや大切なゲイの仲間たちの幸せな瞬間を切り取りながら、その幸せが永遠に続くことを祈るような作品なのだろう、あるいは、かつてそうやって微笑んでいたけど今はもうこの世にいない方たちへのメモリアルな意味合いを持つ作品なのかもしれない、と思いました。ゲイはずっと昔から世界にいて、時代によっては、恋愛やセックスすら難しかったり(トム自身、そういう時代を生き抜いてきました)、警察に逮捕されたり、エイズで友人たちが次々に亡くなったり…という苦難を乗り越えながら、それでも勇気をもって愛し合い、ゲイであることを受け容れ、認め、プライドを持ち、愛する人と手をつないだり、一緒に暮らしたり、体を鍛え、ゲイゲイしい格好でクラブに繰り出し、パーティやセックスを楽しんだり、パレードを歩いたり、それぞれに人生を謳歌しながら、また次の世代にバトンを渡していって、というようなゲイの人生への讃歌であり、愛を描いている気がしてなりませんでした(というか、考えてみたら、トムの絵はすべてそういうものですよね)
 とてもとても気に入ったので、この絵の缶バッジを買って帰りました(Tシャツがあれば、と思ったのですが、この絵のTシャツはありませんでした)

 早く観ようと思えば10分くらいで観れますし、ゆっくり観ようと思えば30分くらいは楽しめる展示です。
 最初は予約も受け付けていましたが、今は普通にふらりと行く感じで大丈夫です。
 可能であれば、映画「トム・オブ・フィンランド」をご覧になった後で、余韻が残っているうちに、この展示をご覧いただけると、感慨もひとしおといいますか、最高に素敵な体験になると思います。
 10月5日までにぜひ。
 サテライト展にもぜひお出かけください。
  
★フォトアルバムはこちら


■Reality&Fantasy The World of Tom of Finland
会期:2020年9月18日(金)〜10月5日(月)
会場:GALLERY X (B1F, Shibuya PARCO)
営業時間:11:00〜21:00 ※最終入場は営業終了時間の30分前です ※10/5(月)は18:00に終了いたします
入場料:500円 ※未就学児の入場はお断りいたします
主催・企画制作:パルコ、The Container
協力:フィンランド大使館、フィンランドセンター、TOM OF FINLAND財団
 
■映画「トム・オブ・フィンランド」上映​
9月18日(金)~9月24日(木)
@WHITE CINE QUINTO(渋谷パルコ8階、ShibyaPARCO 8F)
9月25日(金)~10月8日(木)
@UPLINK​ 渋谷

■サテライト展「Tomへの頌歌」​
会期:9月21日(月)~11月30日(月)
会場:The Container(東京都目黒区上目黒1-8-30、Nakameguro)​
・共同主催者The Containerによる関連展覧会​
・TOM OF FINLANDに影響を受けた日本人作家による展示​
・参加予定作家:田亀源五郎、三島剛、Jiraiya​

■オンライン・レクチャー
 関連プログラムとして、フィンランドセンターによるオンラインプログラムが実施されます。多彩なアーティストの作品を様々な視点から議論するレクチャー形式で、参加者の皆様には各講義の後に質疑応答にご参加いただけます。
 レクチャーは、各回18時~19時30分でZoomを使ったオンラインで行います(レクチャーは18時〜19時でその後30分間は質疑応答)。レクチャーは英語で行われ、日本語の通訳がつきます。参加費は無料です。
・9月18日(金)※当レクチャーは17時開始となります。
欲望の天の生き物 〜トム・オブ・フィンランドの作品における男性の身体〜
Pro Artibus Foundation(フィンランド)キュレーター ユハ=ヘイッキ・ティヒネン
・9月23日(水):
意味のなさそうなところにいつも意味がある 〜トム・オブ・フィンランドの作品における国民的ロマン主義〜
フィンランドセンター所長 アンナ=マリア・ウィルヤネン
・9月25日(金):
アート界の中心へと続くトム・オブ・フィンランドの長く険しい道のり
ヘルシンキ大学文化学部 上席講師 レーナ=マイヤ・ロッシ
・10月2日(金):
「グッチやゴルチエ以前に、トム・オブ・フィンランドがあった」
ファッションにおけるトム・オブ・フィンランドの遺産 
アアルト大学デザイン学部非常勤講師 アンナマリ・ヴァンスカ
・10月5日(月):
カウンターの下からギャラリーの壁へ 〜トム・オブ・フィンランドが残した影響〜
フィンランドセンター プロジェクトマネージャー パシ・ヤルヴィネン
◎ディスカッションイベント
・9月30日(水):
あなたの幸せは、私の幸せ 〜日本におけるLGBTの権利をとりまく議論〜
登壇者:Georgie Ichikawa、かずえちゃん
司会:アンナ=マリア・ウェイルヤネン
会場:ComMunE(コミューン/渋谷パルコ10F)


レポート:サテライト展「Tomへの頌歌」​

 中目黒の「Container」というギャラリーは、美容院の中にあるまさにコンテナの中のギャラリーです。どこから入るのか迷っていたら、店員さんがドアを開けて案内してくれました。トムの個展と同様、銀色のフリンジ状のカーテンがかかっていて(その横に田亀さんの絵も)、中に入ると、たぶん身長180cm以上の方は頭がぶつかってしまうようなコンテナの中に田亀さん、児雷也さん、三島剛さんの作品が展示されていました。
 右手は児雷也さん。『G-men』の表紙や「Eagle Tokyo」の壁画でもおなじみです。がちむち男児のセクシーさをハイパーリアルなデジタル画が、目を楽しませてくれます。
 奥の方が三島剛さん。『さぶ』の表紙絵で有名な、ファンも多いであろう作家さんですが、刺青+六尺の日本男児や緊縛モノというおなじみの作風だけでなく、おそらく晩年の作品だと思いますが、レザーの吊りパンのようなスタイルの絵もあって、新しさを感じさせました。興味深かったです。
 左手が田亀源五郎さんの作品。おそらくトムとの関連でアメリカ人がS役という作品だったり、あの『銀の華』の1シーンだったり、かなり嗜虐性の強い絵なども展示されていました。
 入り口辺りにはトムの絵も数点、飾られていました。
 小さいスペースながら、見応えがあって、よかったです。









「トムに寄せて」An Ode to Tom
会期:9月21日(月)~11月30日(月)
時間:月〜金11:00-21:00、土日祝10:00-20:00
会場:The Container(東京都目黒区上目黒1-8-30、中目黒駅から徒歩数分)​
作家:田亀源五郎、三島剛、Jiraiya​

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