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特集:トム・オブ・フィンランド生誕100周年

2020年5月8日は、世界のゲイシーンに多大な影響を与えたゲイ・エロティック・アートの大家、トム・オブ・フィンランドの生誕100周年の日です。これを記念し、トム・オブ・フィンランドの功績や、生誕100周年関連の世界の動きについて特集します。

特集:トム・オブ・フィンランド生誕100周年

トム・オブ・フィンランド生誕100年を祝い、世界中のゲイたちがオマージュを捧げていますというニュースでもお伝えしたように、この5月8日、世界で最も有名にしてゲイシーンに多大な影響を与えたゲイ・エロティック・アートの大家であり、ゲイ・カルチャーのアイコン的存在であるトム・オブ・フィンランドが生誕100周年を迎えました。駐日フィンランド大使館が「今、彼の社会的影響力とその重要性が世界で認められつつあるんだ」とツイートしているように、トムはただのエロ画家ではなく、ゲイの中でもマイノリティだった人たちに自信とパワーと輝きを与えた素晴らしい人です。ここでトム・オブ・フィンランドの功績がどのようなものであったかということ、世界のトム・オブ・フィンランド生誕100年関連の動きについて、お伝えします。





トム・オブ・フィンランドとは
 
 世界で最も有名にしてゲイシーンに多大な影響を与えたフィンランド出身のゲイ・エロティック・アートの大家であり、ゲイ・カルチャーのアイコン的存在です。
 短髪に髭という男くさい風貌のマッチョなゲイたちが、鋲や鎖などメタリックな装飾をあしらったレザーのコスチューム(バイカーのような感じ)、軍人が履いていたようなブーツ、警官の制服や海軍服、労働者風のスタイル、サポーター(ケツ割れ)、ボディピアス、タトゥなど、男らしさとセクシーさを強調するようなファッションに身を包み、股間を異様にもっこりさせ、バイクにまたがったり、ハードなプレイに興じたりする作風です。
 トムのドローイング作品は、それまでのなよなよしたゲイのステレオタイプなイメージを刷新し、野郎系ゲイのスタイル(ファッション)のグローバル・スタンダードを確立しました。現在でも世界中のゲイシーンで、トム・オブ・フィンランドの絵に出てくるようなタイプの野郎系ゲイたちがたくさん活躍しています。
 彼の本名はトウコ・ラークソネンと言い、イラストレーターを本業としていましたが、プライベートでトムというペンネームでゲイ・エロティック・アートを描くようになり、やがてアメリカの『フィジーク・ピクトリアル』(おおっぴらにゲイ雑誌を出版することができなかった時代に、ボディビルダーを隠れ蓑にしてゲイに「オカズ」を提供していた雑誌)に掲載される際、「トム・オブ・フィンランド」というペンネームをつけました。
 トム・オブ・フィンランドの作品は、アメリカで個展が開催されたりするなかで次第に広く認知されるようになり、今ではニューヨーク近代美術館にも所蔵されるほどになっています。
 母国フィンランドは、トム・オブ・フィンランドを世界的なアーティストと認め、彼の作品をデザインした記念切手も発売されています。また、政府公認の「トム・オブ・フィンランド エクスペリエンス」というツアーも用意されています(フィンランド政府観光局公式サイトにも掲載されています)


映画『トム・オブ・フィンランド』で描かれたトムの功績

 トウコ・ラークソネンはどうしてゲイ・エロティック・アートを描くようになったのか、どのようにして世界的なアーティストとなっていったのか、その生い立ちや私生活はどのようなものだったのか…映画『トム・オブ・フィンランド』は、フィンランドが誇る世界的アーティストの半生を描く伝記映画として、2017年に制作され、第90回アカデミー賞外国語映画部門のフィンランド代表にも選ばれた作品です。2018にトーキョーノーザンライツフェスティバルで日本初上映され、昨年には念願の一般公開を果たしました。

 フィンランドといえば、同性婚も認められ、ゲイに寛容な北欧の国というイメージでしたが、トウコ(トム)があの絵を描きはじめた戦後間もなくの頃は、ビックリするくらい苛烈な同性愛差別があり、ゲイだとバレることは社会的死を意味していました。そんな時代に、彼があの絵にどんな思いを込めて描いていたのかということが、如実に、ヒシヒシと伝わってきます。
 たった一枚の絵が、命取りになるかもしれない…という状況の恐ろしさ。それでも描き続ける、描かずにはいられない彼の姿には、アートというもののある種の真実が宿っていると感じました。

 様々な危険な目に遭いながら、母国で自作を公にすることの困難を思い知ったトムは、アメリカの出版社に作品を送り、雑誌の表紙を飾り、「トム・オブ・フィンランド」が誕生します。トムの人生だけでなく、世界中のゲイたちの人生をも変えるようなきっかけとなった瞬間でした。
 そして、トムの絵を、やはりこっそりと、貪るように眺め、熱狂する一人の若者がいました。彼の名前はダグ。のちにトムの崇拝者として、トムを助けたりもして、この映画の後半で重要な役割を果たします。
 あまり詳しくは書きませんが、80年代のエイズ禍の時代、トムの絵がどんな意味を持っていたか、ということも描かれます。この辺りからもう、涙腺が崩壊します。ラストシーンまでずっと、泣きっぱなしです…

 絵描きとしてのストーリーと並行して(たぶんあまり知られていない)トムのパートナー、ニパとのエピソードもしっかり描かれています。
 二人はあるとき、とあるお宅で開催された秘密のゲイパーティに招かれるのですが、トムはニパに「あの男、君をねらってるよ」とささやき、さりげなく出会いをお膳立てします。「彼氏を公然と浮気させるなんて、信じられない」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、ゲイが安心して出会える場所などどこにも無く(ハッテン公園に行けば、警察に逮捕され…)、果たして一生に何度セックスできるのだろうか…という時代でしたから、若い彼を思えばこそ、心から愛しているからこそ、だったのです。凡百のラブストーリーとは一線を画すような、素晴らしいシーンだと感じました。
 世の中には、恋愛は男と女でするものだ(同性愛なんて汚らわしい、異常だ、変態だ、倒錯だ)とか、恋愛は一対一でするものだ(浮気や不倫など言語道断だ)とか、ポルノなんてけしからん!とか、伝統でもなんでもない「道徳」を振りかざし、誰かをバッシングすることで快感を得るような人たち(一体どちらが「下品」なのでしょう…)が少なからずいると思うのですが、そういう人たちにこそ、この映画を観てほしいと思いました。
 
 レザーマン(日本では「ハードゲイ」と言われたりしますが、欧米では通じません)は、アメリカのゲイコミュニティの中でも差別されてきたという歴史があります(それゆえに「レザープライドフラッグ」というシンボルが作られました)。見た目も「普通」で品行方正でエグゼクティブで、ただパートナーが同性であるだけ、といったタイプのゲイは社会に受け入れられやすいのですが、レザーを代表とする過剰にセクシャルなイメージの服装や、SMをはじめとするkinky(ヘンタイ)なプレイを好む人たちは、侮蔑や嘲笑を受け、周縁化されてきました。トムの作品は、そんな彼らにとっての「生命」であり、「愛」であり、勇気を与えるアイコンでした。
 トムは、ゲイに対する苛烈な差別(ホモフォビア)と闘っただけでなく、ゲイのなかでもマイノリティで差別されやすい人々に勇気を与えました。ゲイ解放(誰を愛するかは自由だ)とともに、性解放(どんなセックスをするかは自由だ)にも貢献した偉人だと言えるでしょう。
 日本でも、レザーや制服やスポユニやケツワレや六尺やぜンタイ等々が好きだったり、露出やSMやフィストや足舐め等々が好きだったりする僕らは、時に蔑視や嘲笑を受けてイヤな思いをしたり、周囲に言えなかったり、コンプレックスを感じていたりするかもしれませんが、ぜひ、トム・オブ・フィンランドの生き様やスピリットに触れて、自信やプライドや勇気を持てるようになっていただけたら…と願うものです。
 
 「誰もが、トム・オブ・フィンランドの絵のような男には、なることができる」というフレーズも印象的でした。たとえ有色人種でも、差別されがちな出自だとしても、貧しくても、不遇な人生だとしても、体を鍛えたり、トムの絵に出てくるような服に身を包んだりして、セクシーな男になれるというのは、誰もが平等に見ることができる夢です。そしてそれは十分、叶えることができる夢なのです。
 
 なお、開催が延期されている(今秋になるそうです)日本初のトム・オブ・フィンランドの個展「Reality&Fantasy The World of Tom of Finland」が晴れて開催されたあかつきには、映画『トム・オブ・フィンランド』の記念上映が予定されています。ぜひ、トムっぽい格好で観に行きましょう!



 

トム・オブ・フィンランド財団の生誕100周年特設ページ

 駐日フィンランド大使館も紹介していましたが、トム・オブ・フィンランド財団が生誕100周年特設ページを開設しています。
 こちらの内容をざっとお伝えしてみます。

 まず、世界各地で開催予定の100周年記念の個展の案内です。
 「Tom of Finland: The Darkroom」という写真展が2月から(現在は閉館中)、英国で初となるトムの公の個展「Tom of Finland: Love and Liberation」(こちらも現在は閉館中)、それからオンライン個展「Tom of Finland: 100 Years」が5月12日まで開催中です。東京の個展にも触れられています。

 新たに2冊、本の出版も予定されているそうです。
 Like社の「Tom of Finland」は、トムの私生活やアート、喜びの精神についてフィランド語で書かれた本をアップデートしたものです。
 Cernunnos社の「Tom of Finland: The Official Life and Work of a Gay Hero」はイラスト作品集で、トムのアート、喜び、解放の人生を明らかにするものです。文章はトム自身、そして序文をジャン・ポール・ゴルチェが書いています。以下のような文章です。
「70年代初期、Kakeで何点かのドローイングを見た。とても面白いストーリーだった。「なんだこれは?」と思った。とても印象的で、ショックを受けた、いい意味で。もっと見たいと感じた。男たちはセクシーで、美しくて、洗練されていて、紳士的で、フェミニンですらあった。みんなが愛するべき人物がそこに描かれていた」

 それから現在、トムがヘルシンキで住んでいたアパートにメモリアル・プラーク(作品やゆかりの品を額に入れて飾るボード)が展示されていて、道行く人たちが見ているそうです。微笑ましいですね。
 
 
 
トム・オブ・フィンランドの世界観にインスパイアされたゲイビデオ・シリーズ企画

 上記のトム・オブ・フィンランド財団の特設ページでも紹介されていますが、アメリカのゲイビデオメーカー「MEN」が昨年末から、トム・オブ・フィンランド財団とコラボして、トムの作品にインスパイアされたポルノビデオを毎月制作するシリーズ企画を展開してきました。
 
 このコラボ企画の2番目に制作されたのが、トップモデルのトニー・ウォードが出演してセンセーションを巻き起こした『ハスラー・ホワイト』で知られるブルース・ラ・ブルースが監督した作品です。『Service Station』というタイトルで、トムの『KAKE』という作品集のキャラクターにインスパイアされたもの。車でガソリンスタンドにやってきた紳士が、ジャンプスーツに身を包んだセクシーな店員とデキちゃうというファンタジーで、『ハリウッド』に出てくるガソリンスタンドと違うのは、その場でセックスを始めちゃうところ。ゲイビデオアワードで黒人として初めて最優秀男優賞に輝いたDeAngelo Jacksonや、Matthew Campという人気俳優も出演しています。


 そして最新作『Tom of Finland - Future Erotica』は、世界的に有名なフランソワ・サーガ(頭に髪の毛のような刺青が入っているのが特徴的な、すごいマッチョなポルノ男優。ブルース・ラ・ブルースのホラー・ポルノ『L.A. Zombie』にも主演。来日して『fancyHIM』にゲスト出演したことも)が監督しています。「Future Erotica」というタイトルの通り、CGを駆使したフューチャリスティックでファンタジーな映像になっています。

 
 ほかにも『Tom Of Finland: 1957』『Tom Of Finland: Leather Bar Initiation』といった作品が制作されています。ただのポルノではなく、トム・オブ・フィンランドの作品の世界観にインスパイアされたハイクオリティでアーティスティックな作品になっています。
(4月以降、新作が発表されていないのは、おそらくロックダウンの影響と思われます…残念ですが、また落ち着いたら制作が再開されることを期待します)

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