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最高裁が性同一性障害の男性を正式に父と認定しました

2013年12月14日

 最高裁は12月11日、性同一性障害で戸籍上の性別を女性から男性に変えた夫が、第三者から精子の提供を受けて妻が出産した子を、法律上の夫婦の子と認める画期的な判決を出しました。一審、二審の判決を覆し、最高裁は、一般の夫と同じように「妻が婚姻中に妊娠した子は夫の子と推定する」という民法が適用されるという初めての判断を示したのです。 

 2009年、戸籍上の性別を男性に変えた兵庫県宍粟市在住だった会社員・前田良さん(28)が、実の弟から提供された精子による人工授精で妻(28)との間に男の子をもうけ、市役所に出生届けを出しましたが、宍粟市は前田さんの性別変更を理由にこれを受理せず、男の子は無戸籍状態になっていました。
 法務省は「特例法は生物学的な性まで変更するものではなく、生物学的な親子関係の形成まで想定していない」「遺伝的な父子関係がないのは明らか」として、お二人の子を「嫡出子とは認めない」との見解を示しました。この見解に則り、宍粟市は「非嫡出子」と書き改めて届け出るよう、前田さんに通知しました(これに関して、朝日新聞は「民法には夫が生物学的な男性であるべきだとの規定はない」「同じ人工授精でも夫が生来の男性の場合は嫡出子として受理しており、法の下の平等に反するとの指摘が出ている」と報じました)
 その後、民主党の井戸まさえ衆議員が朝日新聞の記事を読んで前田さんにアドバイスをくださり、前田さんは「ジー・アイ・ディーKAZOKUの会」を立ち上げました。そして2010年2月に千葉景子法務大臣に署名を持って申し入れを行い、同年11月には大阪市内で初めて講演会を開催(詳しくはこちら)、12月には記者会見を開き、法務省の事務官とも面会しました。
 翌2011年、なかなか動きがないため、前田さんは裁判を起こすことにして、弁護士と準備を始めました。2012年、前田さんは東京に本籍を移し、新宿区に出生届を出し直しました。新宿区は「夫と子に血縁関係がないのは明らか」としてやはり「非嫡出子」扱いとし、父親欄を空欄としたため、夫婦は「子を嫡出子として扱い、父親欄に夫の名前を記載すべきだ」として東京家庭裁判所に申し立てを行い、同時にマスコミに向けて会見を行いました。同年10月、一審で申し立てが却下され、上告。同年12月、二審(高裁)でも同様に棄却され、特別抗告しました。今年3月、最高裁に自分たちの思いを言う場を設けてもらえました(要請行動)
 そしてこのたび、最高裁判決によって戸籍が訂正され、空白だった「父」の欄に夫の名が記載されることになります。晴れて前田さんは公に父親と認められたのです。
 
 最高裁決定の要旨は、以下の通りです。
「性同一性障害特例法4条は、『性別変更の審判を受けた者は、民法その他の法令の規定の適用について、法律に特段の定めがある場合を除き、他の性別に変わったものとみなす』旨を定めている。
 従って、特例法3条1項の規定に基づき、男性への性別変更の審判を受けた者は、以後、法令の規定の適用について男性と見なされるため、民法の規定に基づき夫として婚姻することができるのみならず、婚姻中に妻が子を懐胎したときは、民法772条の規定により、当該子は当該夫の子と推定されるというべきである。
 もっとも、772条2項所定の期間内(婚姻成立から200日経過後、または婚姻解消から300日以内)に妻が出産した子について、妻がその子を懐胎すべき時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、または遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係をもつ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合は、その子は実質的には772条の推定を受けないことは、これまでの最高裁判例の通りである。
 だが、性別変更の審判を受けた者については、妻との性的関係によって子をもうけることはおよそ想定できないが、一方、そのような者に婚姻することを認めながら、他方で、婚姻の主要な効果である772条による嫡出(ちゃくしゅつ)の推定※についての規定の適用を、妻との性的関係の結果もうけた子でありえないことを理由に認めないのは相当ではない。
 そうすると、妻が夫との婚姻中に懐胎した子につき嫡出子であるとの出生届が出された場合、戸籍事務管掌者が、戸籍の記載から夫が性別変更の審判を受けた者であり、当該夫と当該子との間の血縁関係が存在しないことが明らかであるとして、当該子が民法772条による嫡出の推定を受けないと判断し、それを理由に父の欄を空欄とするなどの戸籍の記載をすることは法律上許されない。
 これを本件についてみると、A(長男)は、妻が婚姻中に懐胎した子であるから、夫が性別変更の審判を受けた者であるとしても、民法772条の規定により夫の子と推定される。
 また、Aが実質的に同条の推定を受けない事情、すなわち夫婦の実態が失われていたことが明らかといった事情もうかがわれない。
 従って、Aについて民法772条の規定に従い嫡出子としての戸籍の届け出をすることは認められるべきで、Aが同条による嫡出の推定を受けないことを理由とする本件戸籍記載は法律上許されない。戸籍の訂正を許可すべきである。」
 寺田逸郎(裁判官出身)、大橋正春(弁護士出身)、木内道祥(同)の各裁判官の多数意見。岡部喜代子(学者出身)、大谷剛彦(裁判官出身)の両裁判官は、多数意見に反対しました。

 非嫡出子(婚外子)は明治以来、遺産相続が嫡出子の半分となるなどの差別的待遇を受けてきましたが、今年9月、やはり最高裁でこの民法の規定を違憲だとする判決が示されていました。
 今回の最高裁判決も、父親がトランスジェンダーであってもシスジェンダーと同等に扱うことを社会に要請する、画期的なものでした。また、この最高裁の決定について早稲田大学大学院法務研究科の榊原富士子教授は、「生殖補助医療の進歩で家族の形が多様化しているのに法律の整備が追いついていない。国は家族に対する法律の整備に慎重になっているが、法整備を急ぐべきだ。今回の決定はその後押しになるのではないか」と語っていますが、今後、AID(非配偶者間人工授精)が技術的にも法的にも整備が進み、欧米のように同性カップルの子づくり・子育てができるのではないかと、そういう意味でもとてもいい影響を与えることと思います。さまざまな意味で、今回の判決は、セクシュアルマイノリティにとって希望となるようなものでした。

※嫡出推定
民法772条は妻が婚姻中に妊娠した子は夫の子と推定し、婚姻成立200日経過後、もしくは離婚300日以内に生まれた子は婚姻中に妊娠したと推定すると規定。法律上の父子関係を早期に確定させるのが目的で、離婚後に前夫以外を親とするには裁判が必要。前夫と連絡が取れないと出生届が受理されず、子が無戸籍となります。法務省は2007年5月、離婚後の妊娠が証明できれば前夫を親とする必要はないとの通達を出しました。



性別変更の夫婦の子で初判断(NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131211/t10013753581000.html

性別変更の元女性と、精子提供の子は父子 最高裁初判断(朝日新聞)
http://www.asahi.com/articles/TKY201312110293.html

性同一性障害:性別変更の男性は「父」 最高裁初判断(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/news/20131212k0000m040059000c.html

性同一性障害の男性を「父」と認定、最高裁 第三者から精子提供(Huffingtonpost)
http://www.huffingtonpost.jp/2013/12/11/story_n_4423781.html?utm_hp_ref=japan

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