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ローランド・エメリッヒ監督の映画『ストーンウォール』が今冬、公開決定

2016年08月29日
 レインボーリール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)でCMをご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、話題の映画『ストーンウォール』が今年の冬に日本で公開されることが決定しました。


 映画『ストーンウォール』は、『インデペンデンス・デイ』『デイ・アフター・トゥモロー』『2012』などディザスタームービーのヒットメーカーとして知られるローランド・エメリッヒ監督が『インデペンデンス・デイ: リサージェンス』の前に手がけた作品です。その名の通り、警察から日常的にいやがらせを受けていたゲイやレズビアンやトランスジェンダーたちが、1969年6月にニューヨークのゲイバー「ストーンウォール・イン」で初めて抗議を始めた歴史的な「ストーンウォール暴動(Stonwall Riots)」を題材にしています。

 インディアナ州の田舎町の高校生・ダニーは、アメフト部の男子と恋をしていたが、そのことが親にバレて、彼氏にも両親にも見放され、故郷を追われるようにニューヨークにやって来る。孤独な彼を迎え入れたのは、グリニッジ・ヴィレッジのクリストファー・ストリート。プエルトリコ人で女性のような格好をしている美しいレイが、ダニーを仲間に入れてくれた。レイが束ねているゲイのハスラー(男娼)たちは、歌ったり踊ったり、セックスを楽しんだりしながらたくましく生きている。ある日、ヤクザが経営しているゲイバー「ストーンウォール・イン」で、ダニーは年上の魅力的なトレヴァーと出会い、恋に落ちるが、お店が警察のガサ入れに遭い、女装したレイが逮捕されてしまう…(参照:the guardian「Stonewall review: There's a riot going on! Pity Roland Emmerich missed it」)
 この映画は、白いTシャツを着た50年代風の(まるでノンケみたいな風貌の)青年・ダニーというが田舎からニューヨークに出てきて、ゲイタウンでいろんな人たちと出会い、マタシン協会(ゲイの権利擁護団体)の活動家であるトレヴァーに恋をして、そして、あの「ストーンウォール暴動」を経験して、成長を遂げていく、そういう物語になっています。「社会的に認められないことに傷つきながらも必死で自分の居場所を探そうとひたむきに生きる少年・青年たちとその時代を」描いた作品だそうです。
 
 舞台となった「ストーンウォール・イン」は今年6月、オバマ大統領によって国定史跡に指定されています(詳しくはこちら

 この映画は、自身もゲイであることをカミングアウトしているエメリッヒ監督が、ロサンゼルスのゲイ&レズビアンセンターを訪れた際に「ストリートチルドレンの約4割がセクシュアルマイノリティの若者である」という統計に衝撃を受け、そのことをきっかけに、自費を投じて製作したものです。この問題をより広く知らせるために「映画人としての技術をいかに用いるかを考えた」、そして「自分自身がゲイだから、すべての疑問に自分が答えられると思った」と語っています。

 主人公の青年ダニーを演じるのは『戦火の馬』などで知られるジェレミー・アーヴァイン。ストリートで美貌を武器に体を売り、自分と同様の身寄りのない男娼のキッズたちの面倒も見ているレイを演じたのは、共演者が口をそろえてその才能を賞賛する新人のジョニー・ボーシャン。さらに、ダニーが憧れ惹かれていくハンサムで聡明な活動家・トレヴァーを『ベルベット・ゴールドマイン』のジョナサン・リース・マイヤーズが、「ストーンウォール・イン」の経営者・エドを『ヘルボーイ』『パシフィック・リム』のロン・パールマンが演じているほか、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』のケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、「第2のクロエ・グレース・モレッツ」と呼ばれるジョーイ・キングらも出演しています。
 ヒッピーカルチャー、反戦運動や公民権運動の昂まり、ストーンウォール暴動の2ヶ月後に開催されたウッドストックなど、1960年代末のアメリカの空気感も活き活きと再現されており、 “I Say A Little Prayer”や“Venus”、“Crackerjack”、“A Whiter Shade of Pale”、“it's your thing”、“Just Be Yourself pretenders”などの魅力的なヒットサウンドも、当時の様子を彩ります。
  
映画『ストーンウォール』Stonewall
2015年/アメリカ/監督・製作:ローランド・エメリッヒ/出演:ジェレミー・アーヴァイン、ジョナサン・リース・マイヤーズ、ジョニー・ボーシャン、カール・グルスマン、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ジョーイ・キング、ロン・パールマンほか/2016年冬、 新宿シネマカリテほか全国ロードショー


 しかし、すでに聞き及んでいる方もいらっしゃるかと思いますが、この映画『ストーンウォール』は、エメリッヒ監督の思いとは裏腹に、公開されるやいなや、当時を知る人々から「本当はトランスジェンダーや有色人種が最初の行動を起こし始めたのに、なぜ白人の青年がやったことになっているのか。歴史の改ざんではないか」と一斉に非難され、ボイコット運動すら起きました。
 例えば『Stonewall: The Riots』という本の著者として知られるストーンウォール暴動の第一人者、デヴィッド・カーター氏は、こう語っています。「史実に基づいてドラマを作った方がもっとパワーのある作品になっただろう。私にとってはつまらない、不正確な描かれ方だった」「レイのキャラクターはとても気に入った。でも、レイの元になっていると思われるレイモンド・カストロは女装していなかった」「トレヴァーはマタシン協会のクレイグ・ロドウェルを参考にしていると思うが、彼は最初に「ゲイパワー!」と叫んだ人物だ。ダニーを止めたりはしない」「最悪なのはストーンウォール以前のマタシン協会の描かれ方だ。彼らは若者に向かって夢を壊すようなことは言わなかった」(参照:the guardian「Gay rights activists give their verdict on Stonewall: 'This film is no credit to the history it purports to portray'」)
 こうした批判に対してエメリッヒ監督は「ストレートの人たちも感情移入しやすいように、こういう作品にした」とコメントしています(同上)
  
『VARIETY』誌のレビューは、もう少しいい部分も見ています。「予想したよりはひどくなかった。政治的な問題はあるものの」
 例えば、ゲイのハスラーの集団が、女物の服を着ていたり、ホームレス状態だったり、といった辺りの描写や、警官が棍棒を持って度々現れるが、なかにはゲイに対して性行為を要求するような警官もいたり、「ストーンウォール・イン」がヤクザの経営する違法営業の店で、警官がワイロを受け取っていたこと、男装したレズビアンや女装者から逮捕していったことなど、当時のアンダーグラウンドさ、人々の生き生きとした感情、そして危険をリアルに切り取っている、としています。(VARIETY「Toronto Film Review: ‘Stonewall’」)

 有名な映画批評サイト「ロッテントマト」では、観客の支持が88%だったのに対し、プロの映画評論家で高い評価を出した人が9%しかいませんでした(8/30現在)。それでも観客の支持が高かったのは、エメリッヒ監督の「ストレートでも感情移入できるように」というねらい通りだったと言えるかもしれません。

 日本では(世間では)、ストーンウォールのこともほとんど知られていないでしょうから、ディザスタームービーの巨匠が描く迫力ある戦いのシーンや、男らしいイケメン青年の成長譚を、素直に観て楽しめる観客も少なくないでしょう。過去にこういう出来事があってゲイ解放運動がスタートしたということが知られることには一定の意義もあるでしょう。しかし、本国のLGBTや批評家からは決して支持されていないということは知っておいていただければと思います。

 この(いい意味ではないながらも)大変な話題を呼んだ『ストーンウォール』が日本で公開されること自体は、とてもいいことです(まずは観てみないと、ですよね)。そして、上記のような批判を踏まえたうえで、当時のリアリティの一端に触れたり、レイ(ジョニー・ボーシャン)の演技に魅了されたり、といった楽しみ方ができればいいのではないでしょうか。公開後、当サイトでもレビューをお届けしたいと思います。

 なお、この映画に先行して2010年に『Stonewall Uprising』というドキュメンタリー映画が製作されていました。(パトリック・リネハンさんがいらした頃(2013年)に駐大阪・神戸米国総領事館で上映会が行われたそうですが、それ以外では)まだ日本では上映されていないようなので、いつかこちらの作品も観ることができたらいいですね。


 

ローランド・エメリッヒ監督が描くゲイの愛―映画『ストーンウォール』が日本公開決定(T-SITEニュース)
http://top.tsite.jp/news/cinema/i/30239338/

『インデペンデンス・デイ』監督が描くゲイバーの反乱!今冬日本公開(シネマトゥデイ)
http://www.cinematoday.jp/page/N0085560

R・エメリッヒ監督が同性愛者権利活動の転換点を描く「ストーンウォール」今冬公開(映画.com)
http://eiga.com/news/20160826/10/

エメリッヒ監督がセクシュアルマイノリティの社会運動の原点となった事件をもとに描く人間ドラマ『ストーンウォール』今冬公開(AOL)
http://news.aol.jp/2016/08/26/stonewall/

【予告編】60’S、セクシュアル・マイノリティ運動の原点描く『ストーン・ウォール』公開へ(cinemacafe.net)
http://www.cinemacafe.net/article/2016/08/26/42959.html

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