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『AERA』がLGBTを大特集

2017年06月06日

 現在発売中の『AERA』2017年6月12日号で、メイン特集としてLGBTがフィーチャーされています。『AERA』は2015年9月14日号でも「LGBT あなたに会えて未来が開けた」という小特集を組みました(表紙の『AERA』のロゴのAがレインボーに彩られたほか、ティファニーがゲイカップルをフィーチャーした広告も掲載されていました)が、今回は満を持しての大特集となっています。
 
 しかし、これまでの雑誌でのLGBT特集とは趣が異なり、黒い物体が降り注ぐ(あるいは舞い上がる)「闇」感のある表紙に「LGBTブームの嘘」という刺激的なコピーが大きく載っていて、目を引きます。実際にページをめくってみると、特集のタイトルは「LGBTブームという幻想 虹のふもとにある現実」、そこに「企業はこぞって多様性の重視を喧伝、制度整備が進む自治体も増えつつある。だが、虹色の輝きに、見落としているものはないか。LGBTフレンドリーの正体を探る」というリードがつけられています。
 
 19ページにわたる読み応えある特集です。簡単に内容をご紹介しましょう。
 
 冒頭は、テレビでも活躍しているMtFトランスジェンダーの能町みね子さん(某番組でオネエタレントとして紹介されたことに対して「私はオネエではありません」と抗議して一石を投じた方でもあります)と、『世界一周ホモのたび』などで知られ、「非キラキラ系」を自称するゲイライターのサムソン高橋さんのお二人による対談「私たち「夫婦(仮)」はじめました」。お二人が「契約結婚」を前提に交際を始めたという衝撃的な事実が明かされ、何を思って結婚することにしたのか、どういうふうにつきあっているのか、といった話の(どこまで本気なのかわからないような)軽やかな語り口の中に、結婚についてのある種の真実が垣間見えて、面白かったです。お二人の対談はYahoo!などにも掲載されています。
 それから、「「おネエ」だけがテレビで重宝される理由」。4月23日にEテレの『バリバラ』で放送された「なんで“オネエ”じゃないLGBTはバラエティに出られないの?」という特集にとても近い内容で、テレビでLGBTがどのように扱われてきたかということを、ミッツ・マングローブさん、カルーセル麻紀さん、KABA.ちゃんら豪華キャストのコメントを取り付けながら検証していました。KABA.ちゃんは、性別適合手術を受けて女性にトランスしたら「扱いづらくなった」と言われたそうです。ミッツさんは「「おネエ」は面白くもかわいそうにも扱える「有能な弱者」」「テレビはまだ、男社会なんですよ」と鋭い指摘をしていました。

 ここからはフルカラーではなく2色刷りの、読ませの記事になります。
 「ひとつではない政治意識」では、LGBT=リベラルというイメージがあるが、保守派のゲイも増えてきているし(石原慎太郎元都知事が好きというゲイの方なども登場していました)、それは日本だけでなく欧米でも同様だ、ということが書かれていました。例えば先に大統領選が行われたフランスでは、移民排斥を叫ぶ右派候補を支持する人たちも増えました。なぜ彼らは同性婚に反対するような政党を支持するのか、その心情的な部分(本質)が明らかにされていました(ぜひ、本誌でお読みください)

 今回最も意義深く、『AERA』の面目躍如だと感じさせたのが、「「フレンドリー」は虹の彼方に 本誌独自調査で見えた自治体対応の実態」でした。東京都(島嶼部除く)と全国の政令指定都市および道府県庁所在地の計104の自治体にアンケートを取っていて、例えば「同性パートナーシップ制度の導入を検討している」と回答した自治体が104の中でたった1つ(大津市)で、「住民から要望があれば検討したい」が11(台東区、前橋市、水戸市、奈良市、佐賀市など)、「導入しない」が5(中野区、稲城市など)、あとは「その他」となっていました(稲城市長のコメントが、ビックリするほど無理解でした。ぜひ、本誌でお読みください)。ほかにも「同性婚に賛成?」「学校や職場でトランスジェンダーへの配慮は必要?」「LGBT支援宣言は?」「公営住宅への同性カップルの入居は?」「実施しているLGBT施策」といった質問がありました。自治体の多くが国や県、他市の動向を窺っており、消極的で受け身であること、「とてもフレンドリーとは言えないお寒い状況」を浮き彫りにしました。積極的にLGBT支援に乗り出さないのは当事者からの要望がないから、という回答も多かったのですが、NPO法人虹色ダイバーシティの村木真紀さんは「当事者にはカミングアウトの壁があり、自治体からポジティブなメッセージを出さないと、なかなか声を上げられない」と指摘しています。実際、大阪市淀川区ではLGBT支援宣言の前はほぼゼロだった電話相談が年間1000件になったそうです。
 同記事の後半では、ホテルの差別的な対応に焦点が当てられています。東京五輪を控え、海外から来られるLGBTの方を受け入れる態勢づくりが求められるなか、石川大我豊島区議が2015年に区内のホテルに調査をしたところ、約半数の75施設がゲイカップルのダブルルーム利用を断ると回答し、旅館業法違反に当たるとして区から指導を行うことになりましたが、今年5月に『AERA』が再度調査したところ、それでも28施設がゲイカップルの宿泊を拒否すると回答したそうです。2倍の宿泊費を請求するという施設もありました。Out Asia Travelの小泉伸太郎さんは「LGBTは決して特別扱いされたいわけではないですが、ストレスなく利用できる施設や安心できる場所を求めています。今は「何が失礼にあたるのか」さえ理解されていないことが問題で、宿泊施設や観光地は少なくともLGBTについて研修で学ぶことが大切です」とコメントしています。

 「「いない」のではなく「見えない」だけ 小中学校教員の半数以上がLGBTを知らない」では、東海地方などに住んでいるLGBTの方々への取材を通じて、地方の厳しい現実を伝えています(「地方にはLGBTはいないって思われています」というコメントもありました)。慶應義塾大学でジェンダー・セクシュアリティ研究に携わる中村香住さんは「根底に教育がある」と指摘しています。FtMトランスジェンダーとして初めて議員になった細田智也入間市議へのインタビューも掲載されています。

 「それでも愛して育てたい 同性カップルが我が子と育む家族」では、ドナーから精子を提供してもらい、それぞれが子どもを産み、一緒に育てているレズビアンカップルのことが綴られています。妊娠中、産婦人科医に「倫理的に問題があるから、出産させられない」と言われたり、子どもを病院に連れて行った時に「本当のお母さんを連れて来て!」と言われたそうで、世間の風当たりの強さをひしひしと感じさせます。もちろん、「彼女たち4人を家族として守るシステムはない」のが現状です。

 最後の「誇りは持てた どう老いるのか ロールモデルなきLGBTの老後」は、身につまされます。担当したライターの方(ちなみに、2002年、初代新宿二丁目振興会会長であり、レインボー祭りを立ち上げた川口昭美さんが亡くなった時、朝日新聞で記事にしてくださった方です)が、記事の冒頭で、ゲイであることをカミングアウトしているのですが、それには理由がありました。かつてのパートナーの方が、結婚を強く迫る肉親との葛藤や将来への不安を抱え、自死で亡くなりました。それだけでも本当にショックなのですが、親族から「通夜にも葬儀にも来ないで、墓参りもしないで」と言われ、言葉を失ったそうです。「我々の生き方は「恥」なのか」という彼の問いは、激しく胸を打つものがあります。 
 1990年代以降、等身大で生きる方たちは確実に増えましたが、いま直面しているのは「老い」です。LGBTの老後にはロールモデルがなく、僕らは「人生の荒野に彷徨いながら、生きている」ようなものです(「うつを患ったり、自死を選ぶ人が後を絶たないのは、漠然とした不安によるものもあるだろう」)。そこで登場するのが、NPO法人日本HIV陽性者ネットワークを立ち上げた長谷川博史さんです。長谷川さんは1990年代からHIV陽性者であることをカミングアウトして活動してきた偉人です。近年、腎機能が悪化して人工透析を受けることになり、病院を探したものの、HIVを理由に30~40軒から断られ、死を覚悟…やっと決まった病院に、透析に行く予定だった日、内出血で倒れて意識を失い、病院の方が心配して大家さんに連絡し、倒れているところを発見され、一命を取りとめました。が、壊疽の進んだ右足を切断し、現在は車椅子生活です。長谷川さんは自分のことを「しくじり先生」だと語ります。「僕の失敗を見て学んでほしい。でも、同時に、しくじっても大丈夫だということを、伝えなければ」。思わず目頭が熱くなる記事です。


 これまで、いくつもの経済誌やファッション系雑誌がLGBTを特集してきました。その多くは、海外ではたくさんのLGBTの著名人が活躍していて、同性婚も認められて、こんなに進んでいる、ゲイは可処分所得が高く、センスが良くておしゃれで、マーケット的にも有望、だから企業も一目置いてどんどんフレンドリーになった、海外にならって日本も変わる時じゃない?といった内容でした。
 今回の『AERA』の特集は、そうしたLGBTのキラキラでポジティブなイメージ(「光」)に対して、「影」の部分にも切り込んで、それって本当なの? 現実はもっとシビアなんじゃないの?と「待った」をかけるようなものになっています。「LGBTブームの嘘」という戦略的なコピーでLGBTブームに対して当事者から表明されていた違和感を代弁しつつも、ゲイであることをカミングアウトした方も含むライターの方たちが意欲的に、これまで光が当たらなかったような当事者の方たちをたくさん取り上げ、丁寧な取材を行い、LGBTが未だに直面しているシリアスな現実や、これまで語られてこなかった真実を浮き彫りにするような、「ああまたか」ではなく、「そうそう」「前から気になってたんだよね」というリアクションを引き出すような特集になっていました。
 ブームとして煽られるような表面的できらびやかな「フレンドリー」ではなく、実態はこんなにシビアですよ、問題山積みですよ、と提示しながら、僕らはここからやっていかなきゃいけないよね、という、ある意味での前向きさ、骨太な知性を感じさせるものでした。
 

『AERA』2017年6月12日号
朝日新聞出版/390円

大特集「LGBTブームという幻想」
<目次>
トランスジェンダーとゲイの異色カップル対談 能町みね子(漫画家)×サムソン高橋(ライター) 
「おネエ」しかいらない LGBTはメディアでどう扱われてきたか
ひとつではない政治意識 LGBTだからリベラルというわけではない
「フレンドリー」は虹の彼方に 本誌独自調査で見えた自治体対応の実態
「いない」のではなく「見えない」だけ 小中学校教員の半数以上がLGBTを知らない
それでも愛して育てたい 同性カップルが我が子と育む家族
誇りは持てた どう老いるのか ロールモデルなきLGBTの老後

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