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世田谷区で、LGBTと外国人への差別を禁じる条例が成立しました

2018年03月03日


世田谷区で開催されたLGBT成人式で
祝辞を述べる保坂区長
 3月2日、世田谷区議会でLGBT(性的マイノリティ)と外国人への差別を禁じる「多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」が成立しました(賛成46・反対3の圧倒的賛成多数で可決したそうです)。4月から施行されます。

 「多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」の内容をざっとご紹介しましょう。
 最初に「個人の尊厳を尊重し、年齢、性別、国籍、障害の有無等にかかわらず、多様性を認め合い、自分らしく暮らせる地域社会を築くことは、国境及び民族の違いを越えて私たち人類の目指すべき方向である。また、一人ひとりの違いを認め合うことが、多様な生き方を選択し、あらゆる活動に参画し、及び責任を分かち合うことができる社会の実現につながる。世田谷区は、こうした理念を区、区民及び事業者で共有し、一体となって男女共同参画及び多文化共生を推進することにより、多様性を認め合い、人権を尊重する地域社会を実現することを目指し、この条例を制定する」と謳われています。
 ここには性自認や性的指向、性的マイノリティという文言は見られませんが、続く総則の第2条(定義)で、性別等=生物学的な性別及び性自認並びに性的指向と定義されています。冒頭の「性別」もそういう意味ですし、以降の、例えば第6条の「事業者は、性別等の違い又は国籍、民族等の異なる人々の文化的違いによる差別の解消等に努めなければならない」という条文にも生きてきます。
 第7条では、「何人も、性別等の違い又は国籍、民族等の異なる人々の文化的違いによる不当な差別的取扱いをすることにより、他人の権利利益を侵害してはならない」「何人も、公衆に表示する情報について、性別等の違い又は国籍、民族等の異なる人々の文化的違いによる不当な差別を助長することのないよう留意しなければならない」と定められています。
 第8条では、「男女共同参画・多文化共生施策は、次に掲げるものを基本とする」として、
⑷ 性別等の違いに応じた心及び身体の健康支援
⑸ 性的マイノリティの性等(性別等?)の多様な性に対する理解の促進及び性の多様性に起因する日常生活の支障を取り除くための支援
が掲げられています。
 また、第4章「苦情処理(苦情の申立て等)」では、区民または事業者からの相談(苦情や意見の申し立て)を受け付ける区長の諮問機関「苦情処理委員会」を設けると謳われています。
 
 男女共同参画推進条例やこれに基づく行動計画(または人権指針)等のなかで、性自認や性的指向による差別を禁止するとかLGBT(性的マイノリティ)への支援などを謳う自治体は、すでに全国にたくさんあります。2000年には東京都の「人権施策推進のための指針」に初めて同性愛や性同一性障害という文言が盛り込まれ、条例としては2001年の堺市を初として、徐々に全国の自治体に広がりを見せていきました(2003年には宮崎県都城市で性的少数者の人権擁護を盛り込んだ条例が制定され、話題になりました)。世田谷区はすでに同性パートナーシップ証明など多くのLGBT支援策を推進してきましたが、条例はまだ制定されていなかったようです。
 世田谷区の今回の条例が画期的なのは、LGBTだけでなく外国人への差別をも禁じる内容になっているところです。2016年に施行されたヘイトスピーチ対策法(特定の人種や民族の地域社会からの排除を扇動する「ヘイトスピーチ」の解消を謳う法律)では、自治体の対策が義務づけられており、これに対応する動きとしても注目を集めています。
 罰則はありませんが、具体的な対策として区民からの相談を受け付ける区長の諮問機関「苦情処理委員会」を設け、LGBTや外国人への差別に関して申し立てが行われたら対処するような体制を作っているところが大きな特長です。ヘイトスピーチを伴うデモや集会などの施設使用の可否や、LGBTが公共施設を利用する際の対応に不備がないか、といったことも含まれるそうです。
 また、条例にLGBTのことを盛り込んだこと自体は、確かに目新しさはない(先進的な施策を行ってきた世田谷区としては、意外に遅かったというイメージ)かもしれませんが、たとえば、第7条で差別的な表現はNGですよと明確にしたことは新しいと言えるでしょうし、第8条の「心及び身体の健康支援」なども、とても重要な意義をもつ条文だと言えるのではないでしょうか。ゲイ/バイセクシュアル男性の間でメンタルヘルスやセクシュアルヘルスが悪化しがちであるという事実は以前から指摘されていますが(こちらこちらをご覧ください)、これまでメンタルヘルスに関する公的な支援はほとんど(電話相談くらいしか)なかったと思います(たとえばAGPやカラフル@はーとなどの当事者団体・グループがボランティアで細々と支援活動を行ってきましたが、ボランティアゆえの限界に直面してきたように思います)。そうした面での支援が充実したら、素晴らしいですよね。
 
 性的マイノリティの権利擁護に取り組む中川重徳弁護士は「実質的な差別禁止規定であり、罰則がなくても社会の基本ルールを明示することに意味がある。性的指向や性自認による偏見や固定観念が根強く残る状況で、啓発の意味は非常に大きい」と語っています。
 NGO「外国人人権法連絡会」の運営委員で在日コリアンの金昌浩弁護士は「国籍や民族による差別の解消に踏み込み、苦情処理の仕組みを設けた条例は聞いたことがない。被害者が問題を訴える際の根拠になりうるもので、全国に広がってほしい」と語っています。
 神奈川新聞の記事では「締約国に「差別を禁止し、終了させる」義務を課す人種差別撤廃条約に加入しながら、差別を禁じる法律が日本にはない。自治体が国に先んじて差別の禁止を条例で明記した意義は大きい」と述べられています。

 世田谷区の保坂展人区長は取材に対して「お互いを認め合い、尊重することは世界標準の考え方。東京五輪・パラリンピックを前に条例ができてよかった」と語りました。(世田谷区は東京五輪で馬術競技の会場になるそうです)
 また、おそらく一部の方からマイノリティを特別扱いするのか云々という反論があったのだと思いますが、上川あや世田谷区議はTwitter上で「今回、区議会が可決した条例は、性別・性的指向・性自認・国籍・民族等の違いによる『不当な差別的取扱い』で『他人の権利侵害をしてはならない』としたもので、マイノリティだけを守るものではありません。不当な権利侵害をマジョリティに対して行うことも禁止です」「世田谷区の条例が新しいのは、国籍や民族に基づく不当な差別も禁じている点。ここで重要なのは、日本国籍に対する差別も、日本民族に対する差別も、外国籍差別や外国人差別がダメなのと同様にダメです!とする規定。それら属性に基づく権利侵害は、どの国籍でも、どの民族でも禁止です」と述べています。 

 



世田谷区が差別禁止条例 LGBTと外国人に特化 (日経新聞/共同通信)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27620600S8A300C1CC1000/

人種・LGBT差別禁止を明記 世田谷区で条例成立(神奈川新聞)
http://www.kanaloco.jp/article/314740

国籍・民族・LGBT差別の解消を明記、苦情処理委を設置へ 世田谷区で条例が成立(ハフィントンポスト)
http://www.huffingtonpost.jp/taichiro-yoshino/setagaya-jourei_a_23374146/

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