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ドイツ政府が第三の性を承認、公的書類の性別欄に「ディバース」が追加されることに

2018年08月24日

 ドイツ政府はこのほど、出生証明書などの公的な身分証明記録の性別欄に「その他」や「多様」を意味する第三の性「ディバース(divers)」を使用することを認める法案を閣議決定しました。年内の施行を目指します。
 
 きっかけは、出生証明書などID上の性別は女性として登録されているインターセックス(性分化疾患)の方が、裁判を起こしたことです。通常、女性にはX染色体が2つ、男性にはX染色体とY染色体が1つずつありますが、原告は染色体検査の結果、X染色体が1つだけあることが判明。出生記録の性別を第三の性に変えようとしたものの、できなかったため、第三の性を認めることを求めて訴えを起こしたのです。
 昨年11月、憲法裁判所が判決は、現在の制度は個人の権利を侵害し、差別禁止法に違反しているとして、当局に対し、男性/女性以外の「第三の選択肢」を設けるか、性別登録制度を全面的に廃止するよう命じました。
 このことを受けて、政府は第三の性「ディバース」の使用を認めることとしました。法案が議会でも可決されれば、新法は今年末までに施行され、ドイツは欧州で初めて第三の性を公式に認める国となります。
 
 新法が施行されると、親は出生届を提出する際、男/女/ディバースの3つのボックスから性別を選ぶことになります。ディバースは、出生証明書からパスポート、運転免許証まで、当事者に関する全ての行政文書に記載されます。ディバースを選択した場合でも、従来の性に変えることはいつでも可能だそうです。
 また、これまで、インターセックスのID上の性別をめぐって、専門家による報告書が必要とされていましたが、新法が施行されれば、こうした報告が不要となり、各自が自身の性別のアイデンティティに従って登録できるようになるそうです。
 
 ドイツは性の問題において最前線に立ってきた国です(19世紀にマグヌス・ヒルシュフェルトが性科学を発展させ、同性愛者の権利擁護を初めて訴え、リリー・エルべの世界で最初の性別適合手術も、マグヌスの支援下で実現)。同性婚こそ遅かったものの、2001年には結婚とほぼ同等の権利を同性カップルに与えるライフパートナーシップ法が成立し、2013年にはインターセックスの子どもについて新生児登録用紙の性別欄への記入を不要とすることとし、子どもが将来、自身の性自認に基づいて性別を決めることができるようになりました。

 アンゲラ・メルケル政権で家族相を務める中道左派のフランツィスカ・ギファイ氏は、今回の法案について、「男性でも女性でもない性のアイデンティティを持つ人の法的認知に向けた重要な一歩」だと述べました。一方、「トランスジェンダー・ヨーロッパ」など性自認に関する活動家の団体は、新法は非常に強い象徴的意味を持つものの、十分な措置とは言えないと訴えています。
 ロイター通信によると、活動家らは「出生時の性と性自認が一致しない人が、公式文書に載せる性別をより簡単に変えることができるような新たな法制度」を求めているそうです。独レズビアン・ゲイ連盟(LSVD)の広報担当者は「トランスジェンダーの人々にとって、登録された名前と性別を変えるときに直面する障壁という点では、何も変わっていない」と述べました。

 なお、公的な身分証明書やパスポートの性別欄で第三の性を選べる国は、ドイツ以外にも、オーストリア、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、インド、ネパール、バングラデシュ、パキスタンがあります(パスポート上の第三の性の表記は「X」や「O」となります)


 世の中には男/女しかいないわけではなく、様々な状態のインターセックス(性分化疾患)の方や、様々な性自認のトランスジェンダーの方がいます。インターセックスの方やトランスジェンダーの方が、イコール第三の性というわけではありません。インターセックスの方のなかでも性自認が典型的な男/女に当てはまらない方、トランスジェンダーの方のなかでもノンバイナリーとかXジェンダーと呼ばれるような性自認が典型的な男/女に当てはまらない方にとって、第三の性を公的に認める今回のような施策は、歓迎されることになるでしょう。これは、ID上の性別変更の手続きを申告だけで可能にする(手術や医師の診断などを不要にする)という施策とはまた異なる話です。

 


出生届に「第3の性」=独政府が閣議決定(AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3186168

男女に加え「その他」も ドイツ政府が第3の性を承認(Forbes JAPAN)
https://forbesjapan.com/articles/detail/22676

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