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ユヴァル・ノア・ハラリ氏が「コロナ禍の後の世界」について語りました

 新型コロナウイルスが依然として猛威を振るい、日本も含めた世界各国で社会不安が広がっている現在、世界の知識人たちの発言に大きな関心が集まっています。その中でも、とりわけ注目を集めているのが、歴史学のみならず様々な学問の知見を駆使しながら、壮大で斬新な歴史像を提示した『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』によって世界を驚嘆させ、時代の寵児となった現代の「知の巨人」ユヴァル・ノア・ハラリ氏です(『サピエンス全史』、驚きの連続で、興奮が止まらない大傑作です。オススメです)。ハラリ氏は、2作目の『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』において「人類は不死と幸福、神性をめざし、ホモ・デウス(神のヒト)へと自らをアップグレードする。そのとき、格差は想像を絶するものとなる」と著し、現代の預言者的な存在と目されるようになりました。
 ちなみにハラリ氏は、ユダヤ人であり、ゲイの方です。同性愛者であることが、これまで当たり前だと思われてきた通説に常に疑問を持つような知的スタンスにつながっているといいます。
 そんなハラリ氏が、人類はこのパンデミックとどう闘うべきか、このパンデミックが終わった後、世界はどうなるのか、といったテーマでいくつかのメディアに特別寄稿し、注目されています。日本語で読むことができるものをダイジェストで紹介します。
 
 ユヴァル・ノア・ハラリ氏は、3月15日付の米『TIME』誌に、「人類はコロナウイルスといかに闘うべきか――今こそグローバルな信頼と団結を」と題する文章を寄稿。その全訳が3月24日、Web河出に掲載され、多くの注目を集めています。
 ハラリ氏は、「多くの人が新型コロナウイルスの大流行をグローバル化のせいにし、壁を築き、移動を制限し、貿易を減らせ、と言うが、真の感染症対策にはならない。むしろ、その正反対だ。感染症の大流行への本当の対抗手段は、分離ではなく協力なのだ」と語ります。グローバル化のはるか以前、14世紀にはペストがアジアから欧州まで広がり、16世紀には天然痘が欧州からアメリカ大陸にも渡りました。現代のグローバル社会において感染症の死者が劇的に減少したのは、隔離ではなく情報のおかげです。病原体がやみくもな変異に頼っているのに対して、医師は情報の科学的分析を拠り所としているからにほかなりません。人類が天然痘との闘いに勝利したのは、世界のあらゆる国で天然痘の予防接種が実施されるようになったからです。
 こうした感染症について人々が認識するべき最も重要な点は、どこであれ1国における感染症の拡大が、全人類を危険にさらすということです。それは、ウイルスが変化するからです。ウイルスとの戦いでは、人類は境界を厳重に警備する必要があります。が、それは国どうしの境界ではなく、人間の世界とウイルスの領域との境界です。健康と言えば国家の単位で考えるのが当たり前になっていますが、イラン人や中国人により良い医療を提供すれば、イスラエル人やアメリカ人も感染症から守る役に立つということに、世界でもとりわけ重要な地位を占めている人たちは思いが至らないようです。
 今日、人類が深刻な危機に直面しているのは、新型コロナウイルスのせいばかりではなく、人間どうしの信頼の欠如のせいでもあるのです。

 さらにハラリ氏は、日経新聞に寄稿し、新型コロナウイルスの脅威に直面する世界に今後の指針を示しました。
「今回の危機で、私たちは特に重要な2つの選択に直面している。1つは「全体主義的な監視」と「市民の権限強化」のどちらを選ぶのか。もう1つは「国家主義的な孤立」と「世界の結束」のいずれを選ぶのか、だ」
 ハラリ氏は、感染対策で取られた緊急措置によって「ゾッとするような新しい監視システムが正当化される」ことに警鐘を鳴らします。
「北朝鮮で2030年、全ての国民が生体測定機能を持つ腕時計型端末の装着を義務付けられた、と想像してみてほしい。偉大なる指導者の演説を聞いていて自分の端末が紛れもない怒りの兆候を捉えたら、一巻の終わりだ」
「全体主義的な監視態勢を敷くのではなく、むしろ市民に力を与えることで、私たちは自分の健康を守り、新型コロナの感染拡大を阻止することを選択できる」
 新型コロナを封じ込める取り組みで大きな成果を上げた韓国や台湾、シンガポールは、追跡アプリも活用しているものの、それ以上に広範な検査を実施し、市民による誠実な申告を求め、市民に情報をきちんと提供することで市民の積極的な協力を得たことが功を奏しました。
「今回の感染拡大では、市民のあり方が大いに問われているということだ。これからは私たち一人ひとりが、根拠のない陰謀論や自分の利益のことしか考えていない政治家ではなく、科学的なデータや医療関係の専門家たちを信頼しなければならない。選択を誤れば、自分たちの健康を守る唯一の道は「これしかない」という思い込みで、私たちにとって最も大切である自由を手放す事態になりかねない」
「私たちが直面する第2の重要な選択は、「国家主義的な孤立」と「グローバルな結束」のいずれを選ぶかだ。感染拡大もそれに伴う経済危機もグローバルな問題だ。これを効果的に解決していくには、国を越えた協力以外に道はない」
 そして、ハラリ氏は、何の相談もなくEUをシャットアウトしたり、新型コロナウイスルに効くワクチンを開発中のドイツの製薬会社に対して10億ドルを提供する見返りにそのワクチンの独占的供給を求めたと報じられたトランプ大統領が、アメリカを世界のリーダーの座から引きずり下ろしたと指摘します。
「米政権が今後、方針を転換してグローバルな行動計画を作ったとしても、何についても責任を取ることも、過ちを認めることも決してない一方で、手柄はすべて自分のものにして、問題が起きれば誰か他人のせいにする指導者に従う人はいないだろう」
「我々の目の前には、自国を優先し各国との協力を拒む道を歩むのか、グローバルに結束していくのかという2つの選択肢がある。前者を選べば危機は長期化し、将来さらに恐ろしい悲劇が待つことになるだろう。後者を選べば新型コロナに勝利するだけでなく、21世紀に人類を襲うであろう様々な病気の大流行や危機にも勝利することができる」

 実に慧眼で、含蓄の深い、激しく同意せざるをえない記事でした。
  

 ちなみに、ユヴァル・ノア・ハラリ氏は、私生活についてはあまり多くは語っていないのですが、2002年に現在の夫、イツィク・ヤハフに出会い、カナダのトロントで同性結婚し、現在はエルサレム郊外のモシャブ(農業共同体の一種)で生活しているそうです。



参考記事:
『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリ氏、 “新型コロナウィルス”についてTIME誌に緊急寄稿!(Web河出)
http://web.kawade.co.jp/bungei/3455/
コロナ後の世界に警告 「サピエンス全史」のハラリ氏(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57374690Y0A320C2000000/

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