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「法律上の家族ではないから」とパートナーの入院先を教えてもらえなかった…コロナ禍で顕在化するゲイの不安

2020年04月22日

 新型コロナウイルス感染拡大の収束が見えてこない不安な状況のなか、同性パートナーについて危機感を覚えている当事者の声を掬い上げた記事が「BUSINESS INSIDER」に掲載されました。
 


 同性パートナーと暮らす会社員のKさん(40代後半、女性)は、20年以上つきあっている同性パートナーの存在や同居の事実を、家族にも職場にも明かしていないといいます。
 東京都はじめ7都市に政府の緊急事態宣言が出た翌日、業務がリモートワークに切り替わる前、Kさんは職場での会話に強いストレスを感じていたといいます。
「リモートワークとか時短勤務といった働き方の検討がされるときに、必然的に社員の同居家族の話題が増えるんです。『家族は大丈夫?』みたいな話になっても、自分は単身者として話をするしかないんですね。20年以上付き合っているパートナーを『いないこと』にして振る舞わざるを得ないストレスを、普段以上に感じました」
 職場で家族の話題が出るたびに、Kさんは「気軽な独り身ですから」とやり過ごしてきました。
 職場では普段から、家族持ちの人は何かと優遇されやすいという話があります。例えば家族が病気にかかったとき、会社に相談すれば看病のために早退させてくれるケースもあります。でも、Kさんは、どちらかが苦しい思いをしているときに助け合えないもどかしさを常に感じてきたそうです。
 Kさんがいま一番心配しているのは、万が一パートナーが新型コロナウイルスに感染し、自分が濃厚接触者になった場合、濃厚接触者の判定に際して同居の事実を言わざるをえなくなったときに、親や職場に対して「自分のプライバシーがどこまで守られるかわからない」ということです。
 さらに、万が一、Kさんが感染して死亡した場合、家は自分1人の名義になっているので、パートナーの方が住み続けられないという不安もあります。
「私が死んだらパートナーは出て行かなくてはなりません。でも、親は私が独り身だと思っているので、私の家に来ますよね。そこで2人が会ったときにどんなことが起きるかと思うと……すごく怖いです」
 Kさんが周囲にカミングアウトしないのは、家族や職場に理解がないから、というだけではないそうです。
「私は、きょうだいに重度の障がい者がいるんです。だから親にはそれ以上の心配はかけられないと思って、常に親の期待に沿った生き方をしてきてしまったんですね。大学も就職も『心配しなくていいよ』と。男性と結婚することや孫の顔を見せることへの無言のプレッシャーも感じていて、『この人と結婚してしまった方が楽かな』と思ったことが何度もありました」
 そう悩んでいたときに、Kさんは今のパートナーと出会いました。20年以上連れ添っていますが、周囲からは独身だと思われています。
 ちなみに、Kさんの住む自治体にパートナーシップ制度はないそうです。もし制度があったとしても、Kさんは使わないといいます。
「使わない、というより、使えないと思います。パートナーシップ制度を使っても、関係性が公になってしまうリスクを感じる割に、婚姻関係ほど保障が得られるわけではないので。決して親に明かしたくない今の状況で使うのは、難しいです。ただ、パートナーシップ制度によって同性カップルの存在が承認されれば、マイノリティが抱える生きづらさの解消に近づくと思うので、制度自体はあった方がよいと考えています」

 国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチの柳沢正和さんのもとには、実際にコロナ陽性の疑いで同性パートナーが緊急搬送された当事者からの相談が届いているといいます。
 3月某日、大阪府在住のAさん(30代、男性)は、同居している同性パートナーが兵庫県内の勤務先で発熱し、県内の病院に緊急搬送された旨の連絡を本人から受けました。しかし、その後、容体が悪化し、パートナーとの連絡が取れなくなり、病院に連絡すると、「コロナ陽性の疑いがある」として、同県内の感染症専門病院へ移送されたとわかりました。そこでAさんは移送先の病院名を聞くと、「法律上の家族ではないので情報は開示できない」と突き放されたそうです。最終的にパートナーは陰性で、熱が下がった翌日に連絡がついたものの、もし陽性だった場合、二度と会えなかったかもしれないと考えると、一時的にパニックに陥ったそうです。接触者に関する聞き取りで、Aさんの名前をパートナーに挙げてもらう場合、関係を聞かれ、望まぬカミングアウトにつながることもあります。
 柳沢さんは「コロナ以前から、同性パートナーが救急車に乗れない、手術の同意ができない、病気に関する説明を受けられない、ICUに入れないといったことが医療分野で問題になっています。都心では理解のある病院もあるものの、全国的には課題も多い」と語ります。

 例えば、渋谷区では同性パートナーシップ証明制度が条例で定められており、区内の病院や保健所は研修を受けていることも多いのですが、制度のない自治体では、病院の医師や職員は、自ら学ぼうとしなければ同性カップルへの理解を深める機会はなく、上記の兵庫県のケースのように、シャットアウトされる可能性もあります。自治体によって同性カップルに対する理解や支援に差があるなか、対応は各病院の判断に一任されてしまっているという現状があります。
 こうした問題は、パートナーシップ制度の導入を自治体任せにするのではなく、国レベルで推進することが現実的な解決策だと柳沢さんは指摘します。
「新型コロナウイルスのような緊急事態において、「今」悩んでいる同性カップルを救うには、国による制度をつくることが不可欠です」

 一般社団法人Marriage For All Japanは、LGBTQやその家族、同僚や友人などの関係者がコロナ禍で抱える困難を知ろうと、緊急アンケートを実施しました。冒頭のKさんもその回答者の1人です。
 同団体代表理事の寺原真希子弁護士によると、同性パートナーと暮らす人々がコロナ禍で直面している問題は、大きく2つに分けられます。
「1つは、濃厚接触者を判定する過程で意図せぬカミングアウトになってしまう恐れです。もし陽性反応が出れば、誰と生活しているかだけでなく、どのお店に行ったかなどについても報告することが求められます。報告しなくても罰せられることはありませんが、感染症法上では協力することが『努力義務』として定められています」
「行動履歴や接触した人を明らかにすることは、陽性反応が出た人にとって強制的なカミングアウトとなりうるだけでなく、その周囲の人々にとってのアウティングにもつながる恐れがあると、多くの人が危機感を抱いています。このような不安は、本来、差別や偏見のない社会であれば抱かなくても済むものです」
 もう1つの問題は、関係が法的に保障されていないことによって、パートナーが入院・死亡したときに家族として扱われない可能性です。
「これは同性カップルが普段から抱えている問題ですが、コロナの場合は容体が急変すると1~2日で亡くなってしまう可能性もある。いつかは直面すると思っていた心配が、『今すぐにでもやってくるかもしれない』という具体的な不安に変わっています」
 寺原弁護士は、同性婚の実現が本当の解決策だと訴えます。
「地方自治体による公証という意味では、パートナーシップ制度にも意義がありますが、残念ながら、パートナーシップには法律婚をした配偶者に与えられる法的効果は一切伴いません。パートナーシップ制度が全国に広がることの象徴的意義は大きいものの、パートナーとしての権利関係を守るには不十分だからです」

「同性カップルがコロナ禍で直面している問題は、突発的に生じたのではない。日常的に存在していた問題が顕在化したものだ」と、記事は結ばれます。
「こうした困難を抱える人々の危機感は差し迫っている。多様な生き方を肯定し、その権利が守られる社会に変わることができるのか。これもまた、新型コロナウイルスの感染拡大が私たちに問いかけている重要なテーマだ」
 
 当事者の不安に寄り添い、重要なことをきちんと的確にまとめてくれた、実に意義深い記事でした。


参考記事: 
「家族」でなければ情報開示できない?新型コロナで顕在化する同性カップルの不安(BUSINESS INSIDER)
https://www.businessinsider.jp/post-211519

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