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厚労省が初めて職場におけるLGBTの実態を調査・公表、当事者の困難、メンタル不調、SOGIハラ、カミングアウトしづらさなどの実態が明らかに

2020年05月09日

 厚生労働省が国の事業として初めて職場におけるLGBTに関する実態を調査し、5月8日、調査結果や企業の取組事例をまとめた報告書を公開しました。

 厚労省委託事業「職場におけるダイバーシティ推進事業」調査は、LGBT団体(LGBT法連合会や虹色ダイバーシティなど)や労使団体(経団連など)にヒアリングをしたうえで、研究者が実施したもので、企業の人事担当者(有効回答数2,388名)に「性的マイノリティの当事者の認知、相談対応の状況」「性的指向・性自認に関する取組の実施有無、取組内容」などを聞き、労働者(有効回答数4,884名)に「職場におけるカミングアウトの状況」「職場における性的指向・性自認に関する困りごと、取組状況、希望する施策」などを聞いたものです。
 報告書は502ページにも及ぶ膨大なものですが、そのポイントを一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さんが記事にまとめてくださっていましたので、以下にご紹介します。

 
職場におけるカミングアウト割合

 報告書では、性的マイノリティは雇用の現場で不利益を被りやすいため、就業継続が難しくなり、心身に支障をきたすこともある一方、当事者の困難は周囲に見えにくいため、企業による取組みはなかなか進んでいないと指摘されています。
 職場でカミングアウトしている方の割合を見ると、レズビアンの8.6%、ゲイの5.9%、バイセクシュアルの7.3%、トランスジェンダーの15.3%が「カミングアウトしている(誰か一人にでも伝えている)」と回答、職場以外では、家族や友人へのカミングアウトの割合はいずれも1~3割程度で、誰にもカミングアウトしていないという回答が6~7割に上りました。
 職場で公表している方のカミングアウトした理由は「自分らしく働きたかったから(SOGIを偽りたくなかったから)」がLGBの45.2%、Tの62.5%と最も高く、トランスジェンダーの場合は次いで「ホルモン治療や性別適合手術を受ける、受けたくなったから」が37.5%と高くなりました。
 反対に、カミングアウトしない理由については、LGBの32.1%、Tの32.9%が「職場の人と接しづらくなると思ったから」と答え、差別や偏見が根強いことが示唆されています。

当事者の困りごと

 職場で困りごとを抱える当事者の割合は、LGBで36.4%、トランスジェンダーでは54.5%にも上りました。
 なかでも、LGBの15.2%、Tの21.8%が「プライベートの話をしづらい」と回答したほか、LGBの12%が「異性愛者としてふるまわなければならないこと」、Tの22.8%が「自認する性別と異なる性別でふるまわなければならないこと」などで困りごとを感じていると回答しました。
 さらに、職場で「同性愛やトランスジェンダーをネタにした冗談、からかい」などいわゆるSOGIハラを見聞きしたことがあると答えた方は、LGBの19.2%、Tの24.8%に登り、特にゲイの11.9%、トランスジェンダーの8.9%が実際に自分が経験したことがあると答えています。
 働くうえで困ることがあった場合の相談先については、「相談先がない」が最も高く、レズビアンの30.9%、ゲイの40.7%、バイセクシュアルの37.6%、トランスジェンダーの44.7%に上りました。
 メンタルヘルスについても、過去30日間で「神経過敏」「絶望的」「自分は価値のない人間」などと感じたかどうかという問いに対して、すべての項目でLGBTの当事者は非当事者に比べてメンタル不調の割合が高い傾向も見られました。
 こうした状況下で、性的マイノリティであることを理由に職場で不快な思いをしたことや働きづらくなったことがきっかけで転職した経験について問うと、LGBの5.8%、Tの20.4%が経験があると回答しています。

非当事者の認識

 LGBTではないシスジェンダー・ストレートのうち、「同じ性別の人が好きな人」や、「自分の性別に違和感があったり性別を変えた、または変えたいと思っている人」がいることを知っているか、という問いについて、9割が知っていると答え、性的マイノリティという存在については多くの人が知っていることがわかりました。「LGBT」という言葉の認知も6割を超えています。
 一方で、社内にLGBTの当事者がいるかという問いに対しては、「いないと思う」が41.4%、「わからない」が29.9%と、約7割は職場でLGBTの存在を認識していないことがわかりました。
 「職場の人から性的マイノリティであると伝えられたとき、どのように接すればよいか不安に思うか」という質問では、LGBTの知人が「いる」非当事者の6割が「不安はない」と答えた一方で、LGBTの知人が「いない」非当事者は3割に下がっていました。実際に知人や友人に当事者がいるかいないかで認識に大きな差が出ることが窺えます。

企業の視点

 企業はどのような意識からLGBT施策に取り組んでいるのでしょうか。
 LGBT施策を進める企業のうち、取組みを始めたきっかけは「社会的な認知度の高まりをみて、取り組むべきと判断したため」が67.3%と最も高く、近年のLGBTに関する注目度の高まりが企業のLGBT施策推進の契機となっていることがわかりました。
 ほかにも「同業種や周囲の企業の取組みをみて、取り組むべきと判断したため」「性的マイノリティである社員から要望や対応を求める声があったため」が共に17.8%と、企業どうしの取組推進や社内からの声によっても施策が推進されていることがわかりました。
 一方で、回答した企業のうち、実際に「同性パートナーへの福利厚生に関する施策を実施している」企業は2割、「倫理規定や行動規範等に関連した取組を実施している」企業は2~3割程度にとどまりました。
 企業が実際に当事者から受けた相談内容については、「トイレや更衣室の使用に関する相談」が18.5%と最も高く、次いで「勤務時の服装や通称名の使用」「福利厚生など社内制度の利用」など。さらに3.5%が「上司や同僚からのSOGIハラに関する相談」を受けたと回答しています。
 働くLGBTが実施されたらよいと考えている施策について見てみると、LGBの22.6%が「福利厚生での同性パートナーの配偶者扱い(家賃補助、介護・看護休暇、慶弔休暇など)」、Tの23.8%が「トイレや更衣室など、施設利用上の配慮」と回答。LGBT全般に「性的マイノリティに関する倫理規定、行動規範等の策定(差別禁止の明文化など)」などが比較的高い傾向が見られました。
 企業側が性的マイノリティに関する取組みを進めるにあたって、国や自治体に期待することについては「ルールの明確化」が46.7%、「取組に対する情報提供」が41.3%と高く、LGBT差別禁止法や同性婚などの法整備が求められていることがわかりました。

より実践的なフェーズへ
 
 LGBTという「言葉」の認知は高まりつつあるとはいえ、依然として職場でLGBTを身近に感じている人は決して多くはなく、未だに差別や偏見の残る職場も多いようです。
 今年6月から施行される「パワハラ防止法」では、SOGIハラやアウティングについても企業等に防止対策が義務付けられることが決まっています。SOGIハラが起こらないような環境を整備することは、今までのような「望ましい」施策ではなく、これからは「必ず取り組まなくてはいけない」施策になります。
 報告書では、働くLGBTや企業の意識、実態に関する調査だけでなく、LGBT施策に取り組む19の企業の具体的な実例をまとめた事例集も公開されています。こちらも活用しつつ、より多くの企業がLGBT施策を推進していくことが望まれます。多様な性のあり方と職場をめぐる動きは、より実践的なフェーズに移行しつつあると言えるでしょう。
 
 

参考記事:
LGBTの約半数が職場で困難。国が初めて職場のLGBT実態を調査(Yahoo!)
https://news.yahoo.co.jp/byline/matsuokasoshi/20200509-00177658/

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