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レポート:名古屋・犯罪被害者給付金裁判 オンライン報告会

2020年06月05日

 名古屋地裁、同性パートナーは犯罪被害遺族給付金支給の資格なしと判決について6月4日21:45〜、Marriage For All Japanが、担当弁護士の方に裁判の詳細や判決の本質、今後のことなどについて語っていただくオンライン報告会「緊急開催! 名古屋・犯罪被害者給付金裁判 オンライン報告会 同性パートナーを殺害された遺族に対して「まだ、社会通念が形成されていない」なんて、ありえない!」を開催しました。以下にレポートします。
(なお、オンライン報告会のアーカイブをこちらからご覧いだけます)
 
 Marriage For All Japan代表理事の寺原真希子弁護士と松中権さんがモデレーターをつとめ、弁護団の事務局長である堀江哲史弁護士がゲストとして登壇し、お話をお聞きしました。寺原さんは弁護士として、松中さんは「一般庶民」としてコメントしていくというスタンスで、視聴者からの質問にも答えていくようなかたちで話し合いが行われました。
 
 堀江さんから最初に、今回の訴訟の流れについて、ご説明がありました。
<訴訟の概要>
 今回は不支給の裁定の取消しを求めた裁判でした。
 犯罪被害遺族給付金は、都道府県の公安委員会に支給の申請をするかたちですが、最初に公安から届いた不支給の通知には「該当しない」とだけあって、理由は書かれていませんでした。そこで、なぜ該当しないのかの理由について審査請求したところ、「同性どうしだから」との回答があり、訴訟を決意しました。
<原告側の主張>
 犯罪被害者等給付金支給法は配偶者について「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む」としています。
 弁護団は、「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」には同性パートナーも含まれると主張し、仮に事実婚と同様だと認められないとしても、「事実上婚姻関係と同様」とされた事情には、そもそも犯罪被害者等給付金支給法が社会立法であり、弱者救済の制度として内縁関係を広く解釈してきたという歴史があるため、たとえ家族法や民法で同性間の関係が認められないとしても、犯罪被害においては、もともとの制度の目的に照らして見ても含めるのが妥当である、と主張しました。
 同性パートナーも含まれるとされた場合も、原告と被害者が事実上婚姻関係と同様のパートナーだったのかという事実も争いの対象になりえますが、そこに関しては、そもそも、元になった殺人事件の裁判でも「夫婦同然の関係だった」という認定がされています。亡くなった被害者が、お金のやりくりをきちんと残している方で、家計簿などもつけていましたし、ケーブルTV等の明細なども両方の名前で届いていたので、共同生活であることは十分証明できました。
<愛知県の主張>
 対して、被告である愛知県は、「婚姻は男女間のものである」「犯罪被害給付制度も、やはり男女の関係を前提としている」との主張でした。
<判決>
 請求を棄却した理由は、婚姻に該当するためには、同性間も婚姻と同等と社会通念が形成されていなければいけない、当時は形成されていなかったというものでした。
 社会通念という言葉は、捉えにくいもので、アンケートで何%といったデータがない限り、なかなか形にしにくいものです。社会一般の考え方。それが、あったかなかったか、という話。世間では、同性カップルは事実婚のようなものとは社会で考えられていなかったという理屈です。

 この判決に関して、寺原さんは「今回、裁判所が、社会通念を基準にした。これは司法としての役割を放棄していると思います」と語りました。
「国会での法律の制定は、多数決で決まってしまいますが、それを踏まえて裁判所があって。裁判所は「少数者の人権の最後の砦」。一般の感覚がどんなものであっても、裁判所が判断することで人権が守られます。そこで社会通念を出してくると、裁判の意味がありません」

 堀江さんも「裁判所の役割って何なんだ、と思いました。判決が出た時は、言葉がなかったですね」と語りました。
「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者がどういう者かといったら、それは、社会通念上、犯罪被害者と、親密なつながりを有する者として、犯罪被害者の死亡によって、重大な精神的または経済的な被害を受けることが想定される者、と書かれている。そのうえで、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者に該当する者についても、それと同様と想定されていると考えられる、という理由づけをしておいて、同性間の共同生活はそこに含まれない、という判断をしている。本当に、怒りがこみ上げる。許せない。社会通念上、同性パートナーが犯罪被害で死亡した場合、重大な精神的または経済的な打撃を受けないというふうに見なしている、想定されないと言っているようなものです」
「原告の気持ちもわかるし、同性パートナーの関係も法的な保護の対象にしてあげたいけどダメなんだ、ごめんね、ではなかった。すごく冷淡な印象を受けました」

<質疑応答>
 配信の間、たくさんの方から質問や意見が上がっていました。その中から松中さんが質問をいくつかピックアップして、お聞きしました。

−−社会通念は、誰がどういう風に判断するのか。裁判所が何か基準を持っているのか。一個人として、裁判官が感じているのか。証拠があるのか。
堀江さん「最終的に、裁判官が判断します。原告と被告のお互いの主張を、あるいは証拠を検討したうえで、裁判官が判断します。今回、判決の中で、いろんな事情が出されていますが、どういうものが出れば社会通念として認められるかは、曖昧です。同性パートナーシップ証明制度とか、企業の福利厚生で、とか、民間サービスとか、配偶者と同様だと認定されている部分は社会のいろんなところにあります。社会通念として、同性パートナーも認定できると思うし、実際に扱われています。しかし、今回の判決では、逆に、差別がまだあって社会通念が形成されていないから是正のためにパートナー制度が作られたんでしょ、と言われました」
寺原さん「まだまだ差別や偏見があるよね、という状況を理由にして、差別を是認しているんです、堂々と。社会通念は一人ひとりがつくっていくもので、裁判官もその一員ですし、その差別を解消できる立場にあるのに、『大変ですね、差別ありますね』と言ってその差別まみれの社会通念を基準しているのがずるい。冷酷だと思います」

−−裁判で「社会通念」が持ち出されることはよくあるの?
堀江さん「実際に今ある法律を変えようとか、憲法違反であるとか、そういう時に社会通念は、よく出てきます」

−−裁判官は、シスジェンダー・ヘテロセクシュアルの人だと思いますが、裁判所のSOGIに関する意識って現状どうなのでしょう?
堀江さん「感覚としては、すごく個人差があります。それはよろしくない。正しい理解をしているべきなのに、していない人もいて。宇都宮地裁や東京高裁は、同性パートナー関係も内縁であると認めていて、そういうふうにちゃんと判断する人もいます。今回は判決として書くにあたり、前例のないものを認めるという抵抗感も一つあったのかな、という気もします」
寺原さん「裁判官は、セクシャルマイノリティに関してもまだまだですし、ジェンダーでもまだまだです。私は夫婦別姓の裁判に携わりましたが、最高裁で15人の裁判官がいるうち、3人の女性は全員、夫婦別姓が認められないのはおかしいと言いましたが、残りの12人の男性のうち10人がおかしくないと言いました。最高裁でも、自分事ではない人が判断することの弊害ということがあります。本当は裁判官の中にもセクシュアルマイノリティの方もいるはずなのに、公表している人がいない、カミングアウトできないというのも…」

−−同性パートナーの不貞行為に対する慰謝料訴訟で宇都宮地裁は内縁関係にあったとして慰謝料を認めたが、今回は認められない。裁判所によって判断が分かれることはあるのでしょうか?
堀江さん「裁判所によって判断が分かれることはあります。宇都宮の方は不貞行為についての法的保護で、こちらは犯罪被害者の救済。分野は違います。犯罪被害給付制度は、社会立法で、歴史的に、内縁関係を広く捉えようと、なんなら内縁関係を認める動きがここから始まった分野です。ある意味、宇都宮の判断が出た時に、こちらの方が認められやすいはずだと思いましたので、なおのこと、今回の判決は不合理だと思いました」「そもそも犯罪被害給付制度は、何のためにあるのかというと、殺人を犯した人が賠償金を支払う能力がないケースが多く、それだと遺族が救われないので、だったら社会全体でカバーしようというのが制度の目的です。パートナーが殺害されたことによる精神的、経済的打撃は、同性カップルだって変わらないわけですから、当然、適用されるべき。差をつけるのはおかしい。シンプルな話です」

−−宇都宮地裁の慰謝料訴訟は、個人対個人の賠償ですが、犯罪被害給付金は税金から支給されるということも関係があったのでしょうか?
堀江さん「個人的な感想ですが、判断したくありませんという、そういう雰囲気の判決だったと感じました」
寺原さん「判決文には、税金という文言が書いてありました。税金で支払う以上、社会通念で決めなければいけないという、かっこ悪い理由。税金はマイノリティも、みんな払っているのに、それをマジョリティだけに使うということを裁判所が認めてしまっている。恥ずかしいことじゃないでしょうか」

−−判決では、同性パートナーシップ証明制度は「市民の理解を広げる(社会通念を形成する)ための手段である」と捉えられていたそうですが、では、もし今回のような同性パートナーの犯罪被害給付の申請が渋谷区や世田谷区でなされた時はどうなりますか?
堀江さん「茨城県など、都道府県として同性パートナーシップを認めている自治体でもし申請があった場合。どういう理由で断れるでしょうか? 断る理由がない、逆に想像できない、と思います」
寺原さん「判決では、同性パートナーシップ証明制度はあくまで自治体が認めるもの、とあります。法律ではない、配偶者としての法的効力はないわけだから、やっぱり法律で認められない、と判断する可能性があると思います」

−−この後のステップは? 
堀江さん「まず、今回の判決は、認定を捻じ曲げている、論理の飛躍、不備があると思っていますので、そこを丁寧に突いていくようにします。それに加えて、犯罪被害給付制度の専門家にお聞きして、裁判所の論理を崩していく。憲法14条の平等権の侵害についても、併せて検討します。今日判決が出たばかりなので、今のところは」

−−応援したいです。できることはありますか?
堀江さん「もし、お近くで、名古屋の裁判にいらっしゃれる方は、ぜひ傍聴にお越しください。また、今後、ネット署名も考えておりますので、ご協力をお願いいたします」

−−原告の方は本当に悲しい思いをしていると思いますが…
堀江さん「ショックを受けています。弁護団もショックを受けていますが、それより原告のご本人がショックを受けています。こういった判決はおかしいと、決意されました。次は控訴審でしっかり争っていくと、意思統一。そこも、みなさんと協力しながら、応援してもらえるように考えていきます」
寺原さん「今回、形的には給付金ですが、実質は、お金じゃない。セクシュアルマイノリティは保護しなくていいと拒絶したという風に見えます。拒絶された側は、二級市民と言われているに等しい。これは尊厳の問題です。私たちが全面的に支援している同性婚訴訟も全く同じです。基本的な人権として、平等に扱われるべき。差別のない社会で生きていきたい。マジョリティだってそれは楽しくない。マイノリティの話は他人事ではありません。包摂される社会であるべき、と痛感します。根本的には同性婚がないから。やっぱり実現しないと。一つひとつ。同性婚訴訟も絶対に勝ちたいです」
堀江さん「自分が20年以上生活をしてきたパートナーの関係が否定されたような悔しさです。私自身も、言葉にならない…怒りであったり、落胆であったり。こんな差別を、裁判所が堂々としてしまっている。これをこのまま終わらせてはいけない」

 最後に、松中さんのコメントです。
「社会通念って言えないくらい、社会で同性関係が当たり前になるようにしたいですね」
「訴訟を起こした人の勇気。言えずに泣き寝入りしてきた方がたくさんいる。そういう方のためにも」

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