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パンテーンがトランスジェンダーをフィーチャーした新聞全面広告等を出稿、反響を呼んでいます

2020年10月01日

 パンテーン(P&Gジャパン)が9月30日、朝日新聞朝刊(首都圏版)にトランスジェンダーをフィーチャーした全面広告を出稿し、話題になりました(なお、新宿駅や渋谷駅の構内にも広告が出展されているそうです)
 
 広告には、白いシャツを着た二人の人物の写真とともに、「この髪が私です。#PrideHair」というコピーが大きく掲載されています。
 そして、左側のショートヘアの人物には、「男と女、どっちで就活したらいいんだろう。一年間、悩んで、誰がみても女性とわかる長い髪で就活していました。」という言葉、右側のロングヘアーの人物には「髪だけは、嘘を付けなかった。髪を切ることは、ずっと大切にしてきたプライドまで切ることになるから。」という言葉が添えられています。
 下の小さな字の文章を読むと、この二人がトランスジェンダーの元就活生であることがわかります。
「服装もメイクも髪も、内に秘めた気持ちも、本当は自分の個性を出して就活したい。でも、不安。就活の場においては、誰もが少なからず思うことかもしれません。LGBTQ+の就活生であれば、なおさらです。ここに登場したふたりは、トランスジェンダーの元就活生。ふたりにとって、髪は大切なアイデンティティであり、プライドの象徴でした。自分をアピールしたい時に、自分を偽らなければいけない。誰にも相談できない悩みを抱える就活生が、この瞬間にも、います。だからこそいま、一緒に考えませんか。就活を、自分の個性を偽る場ではなく、自分を、自分らしく表現できる場にするために。」
 
 パンテーン公式サイトに設けられた「#PrideHair」の特設ページを見ると、9人のLGBTQの就活の体験談が掲載されていて、この広告がその中の2人(トランス男性の合田さんと、トランス女性のサリー楓さん)の体験談に基づくものであることがわかります。
 合田さんは、大学3年になって、就職活動を始めようという時に、男性のスーツを着るか女性のスーツを着るかで悩み、そんな段階ではまだ就活できないと思い、一年遅らせました。トランスジェンダーと気づかれて就職に失敗するかもしれないと恐れ、結局、女性のスーツを着て女性として就活することにしたそうです。「性の象徴でもある髪は、偽りの象徴にもなる。長ければバレない。ちょっとでも短くしたら、バレるのではないかと怖かったんです。だから就活ルックとも言われる暗黙のルールの、一つに縛った髪をしていました」「リスクを回避するためには、女性として就活する方が良いと思いました。就活で一番大切な自己アピールは、本当の意味での自分らしさを隠してするしかなかったんです」
 サリー楓さんは、カミングアウトして見た目も女性に移行しはじめてからわずか半年で就活を始めました。「普通のメイクも上手じゃないのに就活メイクなんてまるでわからない。身長が高いので女性用のリクルートスーツが見つからない。全く追いついていない状態。でも私の場合は合格してから性別を変えるのではなく、働きたい状態で受けることが誠実だと思いました」「就活のために心の性別を隠してしまうとき、服やメイクでは嘘をつけるけれど、髪だけは嘘をつけません。カミングアウトしてからの2、3年はひたすら髪を伸ばしていました。長い髪が、自分が生きたい性別やプライドの象徴でした」
 ほかにも、「就職や転職活動ではとにかく、そつなく目立ち過ぎないようにまわりと同調することに腐心していました。ある企業の役員面接で私の髪型が話題になり「髪型より仕事に気を遣ってもらいたいね」という男性役員の発言に続けて人事担当の女性管理職が「ちょっとゲイっぽく見えますよね」と発言したことから「キミその気あるの?」という典型的な「性的指向と性自認」に対するハラスメントトークが続いたことがあります」【ゲイ・52歳・外資系メーカー勤務】など、様々な体験が紹介されています。

 この広告はSNSで大きな反響を呼びました。
 Twitterには、「トランスジェンダーは就職活動で、髪型を含む容姿の問題で、差別的で不利な扱いを受けている。「パンテーン」のような大企業が、LGBTQ就労支援的なキャンペーン広告をすれば、そうした状況が改善されるきっかけになると思う」「こんなに明確な差別廃絶の前向きな広告は見たことがない」「新聞広告を見て驚いた。我々は今、凄い時代を生きている」などなど。
 一方で、女性は長い髪、男性は短い髪というジェンダー規範を強化しているのではないかといった批判のコメントもありました。上記の「#PrideHair」特設ページの体験談を読んでいただければきっと、これが合田さんとサリー楓さんの体験から生み出された言葉であり、お二人にとって、周囲から男性/女性に見えるようにするために髪型の問題がいかに切実であったかということが伝わるのではないかと思います(ちなみに、サリー楓さんは、今は「ただ長いよりも心地よくて似合う髪を選べるようになりました」と語っています。でも「髪を切りました」とSNSに投稿したら「え?男に戻るんですか?」という反応があって、「世間にはやはり「髪が長い=女性、髪が短い=男性」という見え方があるのだと思った」そうです)

 これまで、様々な企業がLGBTQをフィーチャーした広告を発表してきましたが(海外に比べるとまだまだ少ないですが)、レインボーカラーの商品を作ってそれらしい名前をつけて終わり、とかではなく、何人もの当事者の体験談を聞き、それを企業サイトで紹介し、その声の中からトランスジェンダーの就活の大変さに焦点を当て、丁寧な広告づくりをした結果、着眼点や表現方法も実に良い、画期的な広告が生み出されたという印象です。本気のLGBTQ支援のスタンスを感じました。
 
 広告が制作された経緯や趣旨について、「LGBTQ+の元就活生と考える、自分を偽らず、自分らしさを表現できる就活とは?パンテーン『#PrideHair』プロジェクトが始動」(PR TIMES)に詳しく述べられています。
 また、3人のLGBTQの方たちが就活体験を語る「「男性なら髪を短く、女性ならひっつめ髪で」LGBTQ+が直面する“就活スタイル“の壁を考える、パンテーン #PrideHair プロジェクトが始動」という記事が、ハフィントンポストに掲載されていますので、併せてご覧ください。

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