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全日本仏教会がLGBTQシンポジウムを開催し、初めて公に支援のありかたについて議論をはじめました

2020年11月14日

 11月5日、59の宗派などで構成する伝統仏教界の連合組織・公益財団法人全日本仏教会が、公開シンポジウム「〈仏教とSDGs〉現代社会における仏教の平等性とは 〜LGBTQの視点から考える〜」を開催しました。戸松義晴理事長は「平等であるべき仏教界の教えと、実際のあり方が違っている」と述べ、日本仏教の連合組織のトップとして初めて公にLGBTQ支援を表明しました。
 
 2015年以降、企業や自治体のLGBTQ施策が活発化するとともに、お寺の中でも少しずつ、LGBTQ(性的少数者)を支援するような取組みを行なうところが出てきていました。そうしたなか、保守的な日本仏教界がようやく重い腰を上げ、公にLGBTQ(性的マイノリティ)をめぐって議論をはじめました。
 
 全日本仏教会の戸松義晴理事長は、シンポジウムで「人間社会が始まってから、常に同性愛はありました。仏教は性差、社会的地位、制度などにかかわらず、誰もが救いの道が開かれると説いています。しかし、仏教界ではLGBTQについて、これまで(タブー視して)公には語ってきませんでした。平等であるべき仏教界の教えと、実際のあり方が違っているのです」と語り、LGBTQ支援の姿勢を表明しました。 
 
 古代インドで仏教をひらいたお釈迦さまは、「身分にかかわらず、誰でも悟りの境地に達することができる」と説き、女性の修行僧も認めていました。しかし、仏教が日本に伝来し、奈良時代以降徐々に土着的な神道と混じり合うようになると(神仏習合)、比叡山や高野山などで女人禁制が敷かれるようになるなど、女性差別が始まります。「男僧・尼僧」という呼び方や、男僧・尼僧で儀式のやり方が異なる部分もあるそうです(ちなみに、弊社の研修でもお伝えしているように、男どうしの性愛である「男色」は中世の僧侶の間でも広く見られ、許容されていました)。江戸時代に入り、檀家制度が導入されると、男系長子が墓や仏壇を継承すること(「イエ」を単位とする祭祀)が一般的になり、男女別の戒名(位号)が定着し、現在に至る慣習が確立されました。
 
 今回のシンポジウムには、メイクアップアーティストとしても活躍する浄土宗僧侶の西村宏堂さん、トランスジェンダーの杉山文野さん、日本初の仏式同性結婚式を実現した春光院の川上全龍さんが登壇しました。

 最初に杉山さんが、性別変更のハードルが高いこと、同性婚が認められていないことなど、日本の法整備の遅れやLGBTQの社会的課題について概説しました。
 
 それから、ゲイであることをオープンにしている西村さんは、悩みながら修行に入ったことや、修行仲間から侮蔑的な発言を受けたことなどを赤裸々に語りました。
「僧侶の戒の中には、装飾品や化粧をつけてはいけない、という内容のものもあります。私が僧侶になることで仏教の秩序が崩れるのではないか、と悩みました」
 しかし、ある高僧に「同性愛者でも(僧侶として)大丈夫でしょうか」「メイクもハイヒールも好きなのですが……」と打ち明けたところ、「同性愛者でも問題ないですよ。教えが正しく伝わるなら、キラキラするものをつけても問題はないでしょう。みんなが平等に救われることのメッセージを伝えていってほしい」と励ましていただき、救われたそう。そうして、修行を終えた後、僧侶兼メイクアップアーティストとして活躍するようになりました。
「私が勉強してきた仏教では、みんなが平等で、それぞれがそれぞれの場で輝くのが素晴らしいことだと教えていただきました。この自分の体験を通して、それを伝えていきたいと思います」

 川上全龍さんは、米国留学中、一見してゲイとわかる人に対して『He’s f***t』と侮蔑的に言ったところ、友人から「僕もゲイだけど、僕に対してもそんな差別をするの?」「アジア人として差別されて傷ついたことがないの?」と問われ、初めてホモフォビアを自覚したと語りました。帰国後、春光院の副住職を務めますが、あるとき、海外から来て坐禅を体験していた女性から同性結婚式ができないかと聞かれ、大乗経典を徹底的に読み込み、問題ないと確認し、引き受けたです。2010年、彼女とパートナーの方の同性結婚式がニュースになると、抗議の電話が殺到、「ちょっとした知識」で批判する人がほとんどだったといいます。川上氏は「同性愛/異性愛で区別するのではなく、人間としてどう生きるのかを結婚式の中心に置いています」と強調していました。
「お寺では『ウェルカミングアウト(カミングアウトを歓迎する)』という態度が本当に大事になってきます。お寺はLGBTQにとって安全地帯だということを可視化していくべきです」
 戸松理事長は「そうした寺にはレインボーステッカーを貼れるような、具体的な仕組みを整えていきたい」と語りました。

 最後に、戸松理事長をコーディネーターに、葬儀での戒名や法名の付け方、寺院・僧侶の情報発信や役割などが議論されました。

 2008年の映画『おくりびと』の冒頭で、練炭自殺したトランス女性を葬るシーンが出てきますが、トランスジェンダーやノンバイナリーの方にとって、戒名をはじめ、自認する性別で葬ってもらえるかどうかということは重要な問題です。戸松理事長は「お坊さんが良い戒名だと思って付けても、当事者はそうは思っていなかったということもあるかもしれない」と語りました。
 
 また、生涯添い遂げた同性カップルが一緒のお墓に入りたいと願うのは、ごく当然のことですが、前時代的な思考に凝り固まった住職が「一族の墓に、結婚もしていないゲイカップルが入るのは認められない」と拒んでしまうことも考えられます。
 『プレジデントオンライン』の記事では、「それは仏教者としての資質を問われかねない問題にもなると同時に、いま増えている「墓じまい」や「離檀」を加速させる要因にもなりうる」と指摘されています。「各寺院がその変化を機敏に察知し、柔軟に対応し、マイノリティの人々のアジール(安全地帯)になれるか、否か。そこに仏教の未来がかかっていると言っても過言ではない」
(なお、東京都の證大寺などが、同性カップルも一緒に入れるお墓を提供しはじめたのは、すでにお伝えした通りです)
 
 問題は山積みで、一朝一夕には解決されないかもしれませんが、こうして全日本仏教会で公にLGBTQイシューについて議論が始まったことは歴史的なことです。今後もし、同会が同性婚(結婚の平等)への賛同を公式に表明すれば、日本の仏教界はカトリックやイスラム教よりも寛容で進歩的だとの世界的評価を得られるのではないでしょうか。これからに期待します。


 
参考記事:
「LGBTQへの差別は死後も続く」タブー視されてきたお墓と戒名の大問題(プレジデントオンライン)
https://president.jp/articles/-/40405
全日仏 「仏教とSDGs」シンポ第2弾 LGBTQの視点から考える 寺院にレインボーステッカーの提案も(仏教タイムス)
http://www.bukkyo-times.co.jp/backnumber/backnumber.html

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