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「クラブはクィア・コミュニティにとってのライフライン」と語るベルリンのクラブ事情についての記事が『ニューズウィーク』に掲載されました

2020年11月20日

 『ニューズウィーク』日本版に、ベルリンのクラブ・シーンの現在を伝える記事が掲載されました。クラブがどれだけベルリンの経済を回してきたか、ドイツという国がどれだけクラブを重要視してきたかという話とともに、「クラブはクィア・コミュニティの若者にとってのライフライン」だとも語られています。とても印象的な記事でしたので、ご紹介いたします。

 その前に、11月17日、ドイツ統一30周年を記念し、ドイツ大使館がDOMMUNEとともにオンラインDJイベントを開催した話をお伝えしたいと思います。ドイツ大使館の公式Facebookアカウントには、こう書かれていました。
「ドイツの統一は実はベルリンのクラブで行われた。そして当時2つに分断していた街を一つに統合するエネルギーとして働いたのは、まぎれもなくテクノというジャンルのダンスミュージックだった。
 ドイツのクラブシーンで今でも語り継がれているこの話。1989年11月に東西ドイツを分けていた壁が崩壊すると、東西の若者が入り混じってパーティを始めた。このように、1990年10月3日にドイツが統一する以前から、ベルリンでは、テクノが鳴り響くクラブシーンの中で多様な文化のポジティヴな混交が始まっていました。東と西、またストレートもLGBTも関係なく人々が入り混じり、後に世界的に有名なクラブカルチャーへと成熟したことが、現在のベルリンという都市のイメージを築き上げたと言っても過言ではないでしょう。ドイツが再統一して今年でちょうど30年。この記念すべき年に、日本でも屈指のDJをアンバサダーとしてお招きし、世界中のみなさんと一緒にドイツ統一をお祝いしたいと思います。もちろんテクノとともに…」
 なんと、いい話でしょう(イベントの紹介が間に合わなかったこと&聴けなかったことを悔やみます)。ベルリンという街にとっていかにクラブカルチャーが大切なものかということがよくわかります。また、当時の「多様な文化のポジティヴな混交」の中にLGBTの人たちもいた、という話も素敵です。


 『ニューズウィーク』によると、クラブシーンはベルリンの主要な経済的要因です。これまでベルリンのクラブカルチャーは、年間15億ユーロ(約1840億7千万円)の夜間観光収入を生み出してきたといいます。首都へのすべての観光客の4分の1にあたる年間300万人が、クラブを目指してやってくるのです。ベルリンのクラブは約9000人の雇用を生み出しており、欧州の中でも独特の文化的・経済的重みを持っています。
 ベルリンでは20年前にクラブ委員会が設立され、世界で初めてクラブ文化を保護し成長を支援するための組織となりました。現在、連邦政府のさまざまな省庁にロビー活動を行い、夜間経済の合法化について世界中の都市に助言し、ベルリンにある約280のクラブの発展を先導しています。
 2020年10月下旬、ベルリンで最も有名なクラブ「ベルクハイン(Berghain)」を含む原告団が2009年に軽減税率を求めて起こした訴訟の最終判決が下されました。ドイツ連邦税務裁判所はクラブとその活動を、単なる娯楽ではなく、文化芸術として認定し、クラッシックやポップ・コンサートなどと同様の活動として認めました。ハウスDJとテクノDJによるライブパフォーマンスは「コンサートに類似」していると判断し、クラブイベントのチケットにかけられる税率を19%から7%に減額することを命じました。さらに、DJはただ曲をかけるだけでなく「個性ある新しいシーケンスを創り出す」ために「より広い意味では、楽器を使って独自の新しい楽曲を演奏している」としたのです。
 皮肉なことに、「ベルクハイン」は、というか、ベルリンのすべてのクラブは3月14日から閉鎖されたままです。ドイツはコロナ禍の被害が比較的軽かったにもかかわらず、この9ヵ月間、営業が認められませんでした。換気の悪い地下空間で一緒に汗をかく集団的な喜びに基づく文化は、早くからCOVID-19のクラスター感染リスクとして特定されてきたのです。
 
 パンデミックに伴い、ドイツ政府や州により、クラブの存続のための5つの異なる資金提供プログラムが設けられ、その中のクラブ文化支援プログラムは、連邦政府から8000万ユーロ(約98億1715万円)をクラブに提供するものでしたが、これは、屋外に雨を避ける屋根を張ったり、バーを少し広くしたりという、クラブをコロナ禍の衛生基準に適応させる改築工事を支援するためのものでした。合法的で、コロナ対策に準拠したパーティを運営するクラブは利用可能ですが、多くのベルリンのクラブ・パーティ…特に、性解放をテーマにしたパーティなどは適用されず、完全にアンダーグラウンドになっています。
 脱いだり、セックスしたりもOKなクラブとして数々のエロティックなゲイイベントが開催されてきた「キットカット(KitKat)」などの常連客の多くは、郊外の秘密の場所でパーティを開くようになったそうです。
 クラブ委員会は、クラブの活動を維持する解決策として、ハンブルクやマドリードのような都市ですでに検討されている迅速な検査の実施を政府に働きかけています。クラブの入り口に検査所を設置し、最大1時間待って陰性であることがわかれば入れるという仕組みで、検査費用(1人10ユーロ以下)はチケット代に含まれます。「外出禁止は結局、秘密のパーティを助長するだけだ」
 しかし、政府保健省は夜間外出制限を政府に強く働きかけ、夜間外出制限が施行されてしまいました。
 パンデミックが長期化し、社会的責任と行動の境界が曖昧になるにつれて、クラブ・コミュニティを一方的に排除しようとする人々と、クラブ・パーティへの強い衝動を持つ人々との間の対立も激しさを増しているといいます。

 記事の最後、「クラブを守り抜く理由」という章がとても沁みます。胸を打つものがあります。
「ベルリンの成人人口の約半数は単身者であり、都市部の若者たちは、家族と同じくらい友人関係に依存している。クラブシーンは、特にLGBTQ+のコミュニティにおいては、友人やクラブが家族の代わりになることさえある。クラブの閉鎖がもたらす心理的な影響は、クィア・コミュニティにとっては特に深刻である。
 クィアの人たちは、ふだん差別されているからこそ、メインストリームのコミュニティでは評価されないと感じている。彼らにとってクラブは、コミュニティの拠り所である。だからこそ、彼らは健康規制のないプライベートなパーティに行く。コロナに感染することを恐れる以上に、クラブはクィア・コミュニティの若者にとってのライフラインなのだ。
 冬が本格化するにつれ、ベルリンで最も愛されている「文化資産」は、最も脆弱な時期を迎えようとしている。クラブ文化がパンデミックを通過する正当で安全な方法を見つけることが、ベルリンのみならず、世界中のクラブの祈りである。
 しかし、そのためには、地域社会、クラブ・ビジネス、メンタルヘルス対策が一体となり、何よりクラブ・コミュニティを守るために、連邦政府とクラブ業界がより良い協力関係を築く必要がある。社会全体が協力してこそ、この危機を乗り越えることができる。
 結局のところ、クラブは社会的圧力を緩和するバルブの機能を果たすだけではない。クラブは、自分を探すこと、自分を失うこと、自分を試すこと、自分を定義すること、そして最良の場合は自分を見つける場所である。クラブは人々にコミュニティを与え、創造活動やスタートアップの温床ともなっている。クラブを終わらせる理由は何ひとつない」


 
 
参考記事:
ドイツの夜間外出禁止令は、結局、クラブ・パーティの秘密化を助長する(ニューズウィーク日本版)
https://www.newsweekjapan.jp/takemura/2020/11/post-9.php
テクノは音楽、クラブを軽減税率の対象に 独裁判所(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3315438

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