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【一橋大学アウティング裁判】アウティングは「許されない行為」であるとしながらも、二審も大学側の責任を認めませんでした

2020年11月25日

 一橋大アウティング事件裁判の控訴審判決が11月25日、東京高裁で言い渡され、村上正敏裁判長は、今回のアウティング自体については人格権やプライバシー権を著しく侵害する「許されない行為」であるとの判断を示しましたが、一方でアウティングや転落死が大学側の「安全配慮義務違反により発生したとはいえない」として控訴を棄却、損害賠償請求は認めませんでした。

 判決によると、亡くなった一橋大法科大学院の学生(Aさん)は、自身がゲイであることを家族にもカミングアウトしていませんでした。2015年4月、恋愛感情を抱いた同級生の男性(Zさん)に告白しましたが、Zさんは6月、法科大学院の同級生たちのLINEグループに「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ。ごめん」と送信し、Aさんがゲイであることをアウティングしました。大きなショックを受けたAさんはその後、授業などでZさんと顔を合わせるとパニック発作が起こるようになり、2015年7月から心療内科を受診、不安神経症やうつ、パニックなどの診断を受け、薬を処方されていました。一方でAさんは大学の教授や大学のハラスメント相談室にも被害を申告し、「同級生を見ると吐き気がしたりパニックになったりする」と訴えました。原告側は、被害を知っていた大学側はクラス替えなどの措置をとる義務があったと主張していました。また、Aさんが建物から転落死したのは、大学のハラスメント相談室で相談員の面談を受けた直後でした。原告側は「授業に出席させないなど自死を防ぐ手立てをしなかった」として義務違反を訴えていました。
 ご遺族は2016年にアウティングしたZさんと一橋大学を相手取り、裁判を起こしましたが、Zさんとは2018年に和解が成立していました。裁判は大学側の対応に焦点を当てるものとなりましたが、昨年2月、東京地裁(一審)で「大学側は転落死を予見できなかった」「安全配慮義務や教育配慮義務に違反したとは認められない」として遺族の訴えを棄却する判決が下され、「アウティングが不法行為であるかどうかという判断すらしていない」「学校や職場における当事者の安全に関わる問題だ」など、批判が噴出していました。
 
 今回の高裁判決では、一審より踏み込み、アウティング自体については「学生の人格権やプライバシー権などを著しく侵害するもので、許されない行為であることは明らかだ」とする判断が示され、ご遺族は「アウティングが人格権侵害と認められたことは一つの成果」と評価しています。
 一方で、大学側の対応については「大学側の義務違反は認められない」とした2019年2月の東京地裁判決を支持するかたちで、損害賠償請求は認められませんでした。
 ご遺族は上告しないとのことです。


 SNSでは「え…そんな。なんで?」「不当判決!」「大学の相談室はちゃんと学習環境を整えろや!という判決を出してほしかった」などの声が上がっています。

 Buzzfeedは、ご遺族がどのような思いでこの判決の日を迎えるのか、その心中を語ったインタビューを掲載しています。
 お父様は、「自分を支える石垣が崩れて、立つ場所がなくなってしまったような状況だったと思うんです」と語りました。
 お母様は、「息子が小さい頃から『つらいことがあったら言いなさいね、そしたらつらいことが半分になるから。楽しいことも言ってね、楽しいことが倍になるから』と言い聞かせてきた」「でも、やっぱり性的指向というナイーブなところでは、そんな単純な問題じゃなかったんだろうな、と。親には言えなかったんだな、と思います」と語りました。「息子はあの時、友達の中に性的マイノリティの人をよく思っていない、『生理的に受け付けない』と言う人がいたので、自分のタイミングでカミングアウトしたかったんだと思うんですよね」「それが、急に自分のタイミングでないところで暴露されてしまって、本当にショックだっただろうし、自分の性的指向を『攻撃のための武器』にされて、大変傷ついたんだと思います」
 妹さんは、「この裁判で最終的に何を求めたいか考えたとき、それは二度と同じような悲劇が起こらないことでした。兄が生きたかもしれない世の中に近づくことでした」と語りました。
 国立市でアウティング禁止を盛り込む条例ができたり、今年6月にパワハラ防止法でアウティング防止策を講じることが義務付けられたり、Aさんの死(そしてご遺族が訴えたこと)が、こうして社会変革のきっかけになったことは、ご遺族にとって唯一の救いだそうです。
 しかし、お母様は、そうやって世の中が変わっていく姿を、生きて、確かめてほしかったと語ります。「今までの裁判は、いつも息子に『これはあなたの裁判だよ』と声をかけてきました。でも、本当だったら自分で闘って、こうして世の中がこんなにも変わってきているのを自分の目で、耳て、身体で確かめてほしかったな、と」「見ず知らずの人が行動に移して、セクシュアルマイノリティの人が生きやすい社会にするように、色々活動してくださっているのを、生きて、見てほしかったな、と」 
 
 二審でも大学側の対応の問題点が認められず、裁判がこれで終わってしまうというのは、なんとも無慈悲なことで、ご遺族の心中を思うと、やりきれないものがあります。天国のAさんもきっと、悲しんでいることでしょう。

 
 
参考記事:
「兄が生きたかもしれない世の中」が見たいから。社会を動かしたある事件の遺族が、きょう願うこと(Buzzfeed)
https://www.buzzfeed.com/jp/saoriibuki/hitotsubashi-outing-20201124
ゲイ暴露被害で転落死、一橋大アウティング事件は二審も大学側の責任認めぬ判決(ハフィントンポスト)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5fbcaf84c5b63d1b770649ab
同性愛暴露「許されぬ」 遺族側控訴は棄却―一橋大生転落死・東京高裁(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020112500923
一橋大「アウティング」訴訟、2審も大学の責任認めず(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66614450V21C20A1CR8000/
同性愛者のアウティング「許されない行為」 一橋大訴訟で東京高裁が判断(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20201125/k00/00m/040/195000c
一橋大生の同性愛暴露訴訟 裁判長「アウティングは許されない行為」 遺族の請求は棄却 東京高裁(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/70469

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