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日本学術会議が「性同一性障害特例法」の廃止と「性別記載変更法」の制定を提言、医学モデルから人権モデルへ

 2017年に性的マイノリティ差別を解消する法律の制定や「結婚の平等」を提言した日本学術会議が、第2弾としてトランスジェンダーに焦点を当てた提言「性的マイノリティの権利保障をめざして(Ⅱ)―トランスジェンダーの尊厳を保障するための法整備に向けて―」を発表しました。既存の「性同一性障害特例法」を廃止して新たに「性別記載変更法」を制定すること、「医学モデル」から「人権モデル」への転換を促すもので、実に画期的な、素晴らしい内容です。

※日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、昭和24年(1949年)1月、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立された「日本の科学者の内外に対する代表機関」(いわば学術界における最高の権威)です。科学者の選挙により選出された210人の会員と約2000人の連携会員によって職務が担われています。


 提言のポイントを解説したページからご紹介します。

1. 本提言の背景
「目下、日本でも自治体の取組やメディア等を通じて性的マイノリティの認知度が高まりつつある。教育・労働分野を中心に具体的な取組も活発になってきた。しかし、性的マイノリティを取り巻く現状は、なお楽観視できるものではない。とくにトランスジェンダーの権利保障については、環境は改善が進められている国・地域(EU諸国など)と停滞・後退している国・地域の差が広がっている。一部のフェミニストのあいだには、「女性」をシスジェンダー(身体と性自認が一致)の女性に限定し、トランス女性を排除する動きがある。トランスジェンダーに対する理解を深めるための法整備は、トランスジェンダーの人びとの生命と尊厳を確保するための喫緊の課題なのである」と述べられています。
 トランス女性をあたかも性犯罪者であるかのように見なす一部の人たちからの攻撃にさらされているトランスジェンダーの方たちの生命と尊厳を確保することを喫緊の課題と見なし、法整備を求めています。抽象的な議論などではなく、現実に困難に直面する当事者の命を最優先に考える姿勢は、会議に参加する先生方の倫理観の高さが窺えます。素晴らしいです。

2. 2017年提言以降の日本の状況と本提言の目的
 性同一性障害特例法が「身体変更や生殖腺切除を法的性別変更の必須要件と定めており、2010年代から急速に進展した国連の人権基準や法改正の国際的動向に即していない」「「性同一性障害」という用語ももはや国際的に使われていない」として、「個人の性自認・ジェンダー表現を尊重する法整備は、トランスジェンダーだけでなく、すべての性的マイノリティの権利保障の基礎となる。そして、それは、ジェンダー抑圧構造により不利益を受けるあらゆる人びとの権利保障にもつながる」と述べられています。
 
3. 提言
提言1:トランスジェンダーの権利保障のために、国際人権基準に照らして、性同一性障害者特例法に代わる性別記載の変更手続に係る新法の成立が必須である。国会議員あるいは内閣府による速やかな発議を経て、立法府での迅速な法律制定を求めたい。
 「トランスジェンダーの人権保障のためには、本人の性自認のあり方に焦点をあてる「人権モデル」に則った性別変更手続の保障が必須である」と高らかに宣言されています。現行の特例法は、(すでに国際的な医療診断基準からも削除されている)「性同一性障害」という精神疾患の診断・治療に主眼を置く「医学モデル」に立脚しており、「速やかに廃止されるべきである」、そして、これに代わる新法は「性別記載の変更手続に関する法律(仮称)」とし、「国際人権基準に則した形での性別変更手続の簡素化が求められる」と述べられています。

提言2:トランスジェンダーを含む性的マイノリティの人権が侵害されることがないよう、性的マイノリティの権利保障一般について定めた根拠法が必要である。国会議員あるいは内閣府による速やかな発議と立法府における迅速な法律制定が望まれる。関係省庁及び自治体は、より実効性の高い権利保障政策の立案・実行・評価に努めるべきである。
 「トランスジェンダーを含む性的マイノリティの権利保障を真の意味で実現するためには、性自認やジェンダー表現を「個人の尊厳」ないし「性的自己決定」として明確に保障する根拠法の制定が不可欠である」と述べられています。(1)「性的指向・性自認・ジェンダー表現・性的特徴」に基づく差別およびハラスメントの禁止、(2)実施されるべき措置、(3)人権保障の履行確保制度を盛り込んだ根拠法であり、立法府での速やかな法律制定ののち、省庁や自治体は、根拠法を基準にして、これまで以上に実効性の高い性的マイノリティの権利保障政策を立案・実行し、適正に評価するよう努めるべきである、とされています。

提言3:「人権外交」(外務省)の方針に基づき、日本も国連人権諸機関から求められている包括的な差別禁止法の制定を目指すべきである。性的マイノリティの権利保障法は、包括的差別禁止法の制定に向けた第一段階として位置付けられる。中央省庁や自治体が連携して包括的な差別禁止政策を推進し、当事者団体・教育機関・企業・専門家・市民等の協力のもとに、国際人権基準に適った多様性に富む日本社会を築くことが期待される。
「日本政府は、国連自由権規約委員会から、性別・人種・宗教などを含む包括的な差別禁止法の制定を勧告されている。社会構造に起因する差別の多くは、複合的かつ交差的であるため、個別の差別禁止法では十分に対応できない。したがって、性的マイノリティの権利保障法は、あくまで包括的差別禁止法制定に向けた過渡的なものと認識されるべきである。今後、日本政府と市民が協力して包括的差別禁止法の制定に向けた取組を進め、国際人権基準に適った多様性に富む日本社会を築くことが期待される」

 提言の全文(※PDFです)を見ると、現行法の問題点や新法の必要性について、より詳しく、きめ細かく述べられています。
 特例法の5つの要件(成年、非婚、子なし、生殖不能手術、性器の外観)について1つ1つ、なぜ不要なのか、なぜ撤廃すべきか、が丁寧に説明されています(こちらの記事でも紹介されています)。こうして特例法の根幹をなす5要件を削除するなら、もはや特例法の「改正」の範囲を超えてしまいますし、「性同一性障害」という用語も削除すべきですし、法的性別変更の手続に特化した法であることを明示したほうがわかりやすいため、性別記載変更の手続に特化した新法の制定が必要だと述べられています。
 「性的マイノリティの権利保障法」の必要性と課題について述べた章では、性的マイノリティの人権保障を図るには、「性的マイノリティを直接的に規定する文言の不在」「差別そのものの定義の不在」「人権保障のための独立した国内人権機関の不在」という三つの「不在」を解決する必要がある、という見事な指摘がなされています。また、「性的マイノリティの権利保障法」に基づく国や自治体の基本計画の策定に関して、「人権保障は第一義的に公権力に課せられた義務である」「意識啓発や理解増進は人権保障の実現のために必要な土壌ではあるものの、これを人権施策の前提条件と位置づけるのは本末転倒である」と指摘されています。現在の状況のある部分に釘を刺すような、大事な指摘でした。
 
 トランスジェンダーを含む性的マイノリティがおかれている現状(困難)を見据えながら、人権保障という柱を動かさず(ブレず)、高度に専門的な知見を動員し、海外の最新の動向も踏まえながら、その法的な解決に向けた説得力のある提言となっていました。全体を通じて、実に鮮やかで、目の覚めるような論旨展開でした。性的マイノリティの権利についての考え方の基礎となる良質なテキストでもあります。
 この提言を受けて、国が「性別記載の変更手続に関する法律」や「性的マイノリティの権利保障法」の制定に向けて動いてくれることを期待します。

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