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バンクシーが旧刑務所の外壁で新作を発表、オスカー・ワイルドへのオマージュであり、建物の保存につなげるための寄付だとして話題に

 2月28日、英イングランド南部のレディング旧刑務所の外壁に出現したバンクシーの作品が、同性愛の「罪」で投獄されたオスカー・ワイルドへのオマージュだと話題になっています。
「脱出を創出」と題された動画でこの壁画を描く様子を公開したバンクシー。壁画には囚人がベッドシーツで作ったロープで脱獄する様子が描かれています。が、よく見ると、ロープにはタイプライターがくくりつけられていて、囚人が掴んでいる命綱が、通常の結び目をつけたシーツではなく、タイプライターから打ち出された紙だったのです。これは、1895年から1897年までオスカー・ワイルドが同性愛の「罪」でレディング刑務所に投獄されていたことへのオマージュであり、この旧刑務所を宅地開発のため売却するのではなく、芸術の中心地として保存すべきだとのメッセージだと受け止められています。
 2月は英国の各地でLGBTQの権利擁護の歴史を振り返る催しが行われる「LGBTQ歴史月間」であり、2月28日はその最終日でした。


 『サロメ』や『幸福な王子』で知られる英文学の伝説的文豪オスカー・ワイルド(1854-1900)は、11歳年下の恋人、アルフレッド・ダグラス卿(ワイルドは愛情を込めて「ボージー」と呼んでいたそう)が父親のジョン・ダグラス卿から同性愛を理由に度重なる迫害を受けるのを見かねて、ジョン・ダグラス卿がワイルドにも中傷行為を働いたことで告訴に踏み切ったのですが、この裁判のなかでワイルドの同性愛を明示する証拠が露呈したため、敗訴し、1895年に逮捕され、レディング刑務所C棟の独房に収監されました。それから2年間、孤独と重労働を強いられるなか(1900年に死亡したワイルドの死因は髄膜炎で、この投獄期間中に患ったという説もあります)、ワイルドは恋人ボージーに宛てて50,000ワードに及ぶ手紙を書きました。完成とともに没収されたこの手紙が『獄中記』です。LGBTQが犯罪者でもなく精神倒錯者でもなく平等に扱われようになるまでに辿らねばならなかった歴史を語るうえで、この『獄中記』が持つ重要性は極めて高いものがあります。ワイルドは1987年に出獄しましたが、人々の目を避けるように英国を出て、フランスやイタリアを放浪し、1900年、失意のうちにパリで客死します。46歳でした。

 レディング刑務所は2013年に閉鎖されましたが、ここで2016年、アイ・ウェイウェイ、ナン・ゴールディン、ヴォルフガング・ティルマンス(著名なゲイの写真家)、パティ・スミス、ベン・ウィショーら世界中のアーティストが作品を発表したり、『獄中記』朗読のパフォーマンスを行なったりする『レディング・プリズン:Inside - Artists and Writers in Reading Prison』というアート・プロジェクトが展開されました。ナン・ゴールディンは、70年前に受けた同性愛行為有罪判決に関して、今なお政府の公式謝罪を求めている91歳の男性のインタビュー映像や、依然として同性愛を違法としている国・地域における同性愛者の権利について探った作品を展示したそうです。このプロジェクトのディレクターは、「国が法をもって人間のセクシュアリティを規制し、社会から隔離したことで、それが一人の人間にどれだけ大きな苦悩を強いたか——『レディング・プリズン』はそれについて私たち後世の人間が今一度考え、省みる良い機会になると信じています」と語っています。
(i-D「アイ・ウェイウェイやパティ・スミスが作家オスカー・ワイルドにトリビュート」「同性愛を罪としてオスカー・ワイルドが収監された刑務所」より)

 レディング刑務所は英国指定建造物2級の建築物で、2013年に閉鎖された後も、オスカー・ワイルドゆかりの地、そしてLGBTの聖地として知られていて、今後、建物をリノベーションする形でアート・センターとする案も上がっていましたが(レディング市もそれを望んでいましたが)、建物を管理していた法務省が毎年数千万円かかる維持費を理由に2019年、不動産市場に売り出し、住宅型の再開発計画が始まってしまいました。
 しかし、今回、バンクシーがこの壁画を描いたことで、レディング市議会はバンクシーがレディング刑務所の保存を求めるキャンペーンを支持していると受け止めました。
「バンクシーが『脱出を創出』と題したアート作品でレディングの刑務所を芸術や遺産、文化の光に転換させるという願いを支持しているようで、我々は興奮している」
「市議会は旧刑務所を所有する法務省に対し、この壁画を保護するための適切な対応を求めている」
 旧刑務所の保存を求めるキャンペーン団体は、「最終的にバンクシーの作品だと知り、我々は興奮している!」とコメントしました。
 レディングにあるラブル・シアターの芸術監督トビー・ディヴィスは、「文化に詳しい人がリスクを冒して法務省管轄の建物に絵を描くなんて(旧刑務所の保存を求める)キャンペーンに真の称賛を与えるものだ」と述べました。
「これは驚くべきことだ。人々にとってレディング刑務所がどれほどの意味を持つのかを示している」
「文化に携わる人たちだけでなく、毎日ここを通る人たちと話をすると、みんなとても感情的になる」
「レディングにはこれまで、人々を結びつける国際的な文化センターの設置に挑戦する機会が一度もなかった。英国文化の中心地であるべきなのに、そうなれていない。もしチャンスがあるのなら、今回がその時だ。チャンスは二度やって来ない」
 ディヴィスは、新型コロナウイルス対策のロックダウンの最中に壁画を作成するのは、バンクシーにとって重大なリスクを伴うものだっただろうと、「それが多くを物語っている。バンクシーは世界中のより広範な問題を取り上げることができたかもしれないのに、多くの問題があるなかで、旧刑務所の問題を強調するためにレディングにやって来たんだ」と述べました。
 この建物を歴史的・文化的レガシーとしてのアート・センターにしようとするキャンペーンは、ケネス・ブラナーやジュディ・デンチ、スティーブン・フライ(ゲイの俳優)なども支持しています。

 バンクシーの専門家でボーンマス芸術大学の副学長ポール・ゴフ教授は、「バンクシーのあまり知られていない特徴の一つとして、過去に多くの作品を慈善活動に寄付してきたことがあげられる。ユースクラブや、救いの手が必要だと思う施設の外壁に絵を描いてきた」と語りました。
「バンクシーには慈善的な側面があるが、それについて取り上げられたり称賛されることはあまりない」
「芸術や公の場での対話にとって素晴らしい方法だと思う。普段なら人々が通り過ぎてしまうような煉瓦の壁に注目が集まる。公的なものを異なる方法で見ることにつながる」

 いま最も注目を集めるアーティストの一人であるバンクシーが壁画を描いてくれたおかげで、無事にレディング旧刑務所がアート・センターとして存続し、この壁画がそのコレクションの一つとなり、看板的な作品として人気を集め、内外からの観光客を呼び込み…という未来が見えますね。今回のバンクシーのストーリー自体が、LGBTQ的に重要な史跡を次世代に遺していくために実践された偉大なアクションとして、語り継がれることでしょう。いつか英国に行く機会があれば、フレディ・マーキュリーの自宅跡とともに、オスカー・ワイルドへのリスペクトを込めてレディングを訪れたいです。
 

参考記事:
バンクシー新作は「脱獄囚」 英レディングの旧刑務所の壁に出現(BBC)
https://www.bbc.com/japanese/56288904
バンクシーが旧刑務所の外壁で新作を発表。そこに込められた意味を読み解く(美術手帖)
https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/23696
バンクシーの最新作は監獄を美術館に変えた【専門家が読み解く】(ハフィントンポスト)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_604164c1c5b69078ac69dc54

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