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『東北地方の性的マイノリティ団体 活動調査報告書』が刊行されました

 福島大の前川直哉特任准教授(社会学)が、東北地方を拠点とする性的マイノリティ団体の活動を紹介する報告書を作成しました。都市部に比べて注目を集めることが少ない地方で活動するLGBTQの方たちのヒューマンストーリーを集めた本です。前川氏は「東北の性的マイノリティは大都市よりも社会の周縁に追いやられ、声が政治に届く機会も少ない。一人一人の思いが伝わり、当事者が生きやすい社会に変わってほしい」と語っています。


 『東北地方の性的マイノリティ団体 活動調査報告書』はA4判、360ページに及ぶ文書で、和光大の杉浦郁子教授(社会学)との共同研究によって制作されました。東北6県、19団体に所属する23人の当事者の方にインタビューし、活動や体験などが生き生きと記録されています。250部ほど印刷され、東北6県の図書館や男女共同参画施設などに送付されました。
 調査から見えてきたのは、ジェンダー規範や結婚のプレッシャーが当事者たちの生きづらさを増長しているということです。ある当事者の方は、「地方の職場では結婚しないと一人前になれないとされる。好きでもない人と結婚させられると思い、退職した」と証言しています。高齢化した地域に暮らす別の当事者は「高齢者ほどLGBTQなどへの偏見が強い」と語っています。
 東日本大震災の被災体験もたくさん掲載されています。ある団体の代表は、震災直後に物資を車に積んで会員宅を回った経験から、「被災したことで団体とつながる心強さを感じた人は多いのではないか」と語っています。

 報告書の一部は、東大の研究プロジェクト「REDDY」のWebサイトでも閲覧できるようになっています。
 試しに仙台でコミュニティセンターも運営しているHIV予防啓発団体「やろっこ」の太田ふとしさんのお話を読んでみていただきたいのですが、ゲイとしてのライフヒストリーから始まって、どのようにして「やろっこ」ができたか、とか、ゲイビーチで清掃したりコンドームを配ったりするなかで、ゲイの人たちからどんな反応があったか、とか、震災のときの話とか、それだけで1本の映画やドラマになるのではないかと思うくらいのドラマや厚みがあるヒューマンストーリーです。
 そういうストーリーがいくつも掲載されているのですから、たいへんな意義のある冊子です。
 
 たぶんですが、こうしたLGBTQの本格的な(資料としての価値が高い)ヒューマンストーリーがまとまっている冊子(インタビュー集)というのは、東北に限らず、全国的にもほとんど例がなかったと思います。インタビューは本当に手間がかかる作業で、時間や体力がないとこうしたインタビュー集の製作には取りかかれない、ボランティアではなかなかできないということが大きな理由だと推測されます。
 インタビュイー(話し手)と交渉し、日程を調整し、質問項目を用意して(事前にインタビュイーがどんな活動をしてきた方なのかを丁寧に調べ、それを踏まえたうえで質問を考えるのが普通です)、会って話をお聞きして(気を遣いますので、インタビュアーも気疲れします)、録音した音源から「テープおこし」をして(聞いたことをそのまま打てばいいわけではなく、ある程度正しく漢字を変換することも必要で、そちらに気を取られている間に話を聞き漏らし、いったんテープを止めて、ちょっと前に戻ったり、を繰り返します。よほど人間離れした人じゃない限り、録音時間の何倍もの時間を要します)、おこしたテキストから原稿をまとめ、それをインタビュイーに確認していただき、手直しして…という作業になります。ライターや編集者など、ある程度経験を積んだ人じゃないと、この過程のどこかで失敗をして、やり直しになる場合もあります(例えば、録音した音源が紛失…とか)。聞き手がどのような意図をもってインタビューに当たるか、どんなことを聞くか、といった点も重要です。
 そうした手間ひまをかけて、このような、東北の当事者のインタビュー集というだけにとどまらない、全国的に見ても貴重な価値がある資料を制作したことに敬意を表するものです。
 
 なお、前川直哉氏は『〈男性同性愛者〉の社会史――アイデンティティの受容/クローゼットへの解放』『男の絆 ─明治の学生からボーイズ・ラブまで』など、ゲイについて社会学的に分析した画期的な著作をいくつも発表している方で、自身もゲイであることをカミングアウトしています。同性愛を排除する「男の絆」ホモソーシャルや、ホモセクシュアルな「男の絆」に見られるミソジニー(女性嫌悪)の問題についても発言を続けている方です。
 前川氏は東日本大震災の後、自身が「中央」から物を言うことに耐えられなくなり、「周縁」化されてきた東北の地、それも福島に移り住んだそうです。そして、東北を主語にした研究をしたいと志し、また、性的マイノリティの研究者の一人として、「これまでの性的マイノリティ研究の多くは大都市圏を対象としており、地方のことは後回しにされてきた。地方の性的マイノリティは二重の意味で『いないこと』にされてしまっていた。研究者もその不可視化に加担してしまっていたのではないか」という思いもあり、この報告書に取り組んだと、「おわりに」で語っています(なんと誠実な、素晴らしい方でしょう…。東北にこのような方がいてくださることの意義は計り知れないものがあると感じます)
 
 
参考記事:
「東北の性的少数者に理解を」 福島大・前川特任准教授ら、当事者の体験など調査・報告(河北新報)
https://kahoku.news/articles/20210321khn000018.html

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