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ろう者のLGBTQの方たちが「差別は許せない」と手話で抗議しました

2021年05月24日

 LGBT法案をめぐる自民党議員からの差別発言に対して5月23日、ろう者でありLGBTQでもある方たち7人による抗議行動が行われ、全国の仲間53人から寄せられたメッセージを手話で訴えました。後日、字幕をつけた動画が公開される予定です。
 呼びかけたのは、2018年「Deaf LGBTQ Fukuoka」を設立し、2019年には「ろう×セクマイ全国大会in福岡」の実行委員長を務めるなど、ろう者のLGBTQに関する活動をしてきた野村恒平さん。野村さんは、国会議員による差別発言を受け、当事者の声を目に見える形で届けようと考え、永田町の自民党本部近くで、全国の53人の当事者から寄せられた声を、手話で読み上げました。
「発言の撤回と謝罪を求めます。そして、LGBTQへの差別を禁止する法律の成立を強く求めます」
「当事者たちは傷つきました。人はそれぞれ違う。違っていい。LGBTQ+の人でも生きやすい社会を作ってください」
「私たちは、大事な「命」だから。人間だから。差別は許せない。ありのままで生きたい」
「やっといろんな企業や団体がLGBTのコミュニティにサポートをし、声をあげて少しでも差別のない世の中を築いていこうとしているのに、それを崩そうとするのが国のリーダーのやることなのでしょうか?」
「私は子どもを産むことはできなくても、子どもを育てることはできます。ちなみに私は里子でした。血のつながりがない家庭で育ちましたが愛されていて幸せでした。私にも生きやすい居場所をください。突き放さないでください」
 ほかの参加者の方たちも、「トランスジェンダーに対する差別をなくしてほしい」「愛に性別は関係ない」などと書いたプラカードを手に、抗議の思いを示しました。
 野村さんは「(差別発言は)生きる力もなくなってしまいます。でも、声をあげ続けていきます。カミングアウトできない、社会からの抑圧で声をあげられない当事者もたくさんいます。当事者の想いや声を届けたいと、自民党本部前にきました」「これまで、たくさんの差別発言を受けるたびに、ろうLGBTQ当事者たちの状況を心配していました。ろうLGBTQはダブルマイノリティのため、地域性の影響からカミングアウト出来ない人も少なくありません。性自認・性的指向が揺らいでる方、情報がうまく得られない方は、(差別発言によって)間違った認識を持つなど、様々な影響を受けてしまいます」と語りました。
 参加した40代のトランス男性・エイトさんは、「議員の心ない発言は、私たちを見ていないからだと感じた。知識が足りないことを反省してほしい。私たち、ろうのLGBTQ当事者はダブルマイノリティで、情報を得られないなどの困難がある。議員は私たちの声に関心を向けてほしい」と手話で訴えました。
 同じく参加者のShotaさんは、自民党議員による差別発言で傷ついたり、不安に思ったりしたLGBTQの子どもや若者に対して、「LGBTは病気じゃない。自分らしく生きていればいい。一人じゃない。私たちがいるから大丈夫」と語りました。
 毎日新聞の記事には動画も上がっています。野村さんが手話で訴える姿に、思わず目頭が熱くなります…。ぜひご覧ください。



 その後の動きをご紹介します。

 自民党の野田聖子幹事長代行が24日の記者会見で、簗和生衆議院議員による「種の保存に反する」という発言について、「私自身も卵子提供で子どもが生まれているので、種の保存はできてない。政治家はことばがいちばん大事なので、そういうことを言われた人たちが、どういう思いになるか考えないといけない」と批判しました。
 また、立憲民主党の安住国会対策委員長は、記者団に対し「戦前に教育を受けた人でも、そうした感覚の人はいないと思う。自民党は病んでいるのではないか。本当に恥ずかしく、グローバルな基準に立てない政党だ。自民党内がこうした意見を堂々と言える状況にあるということが信じられない」と述べました。
 
 メディアでも、続々と差別発言を批判する記事が上がっています。

 東京新聞の社説、とても力強かったです。
「差別とは少数者側の問題ではない。多数派の偏見の産物であるという原則への無理解が透けて見える」
「差別の解消は多数決に委ねる性格のものではない。被害に遭っている少数者の救済が、多数派の都合によって遅れることがあってはならない」
「理解の拡充は望ましいが、理解し合えるとは限らない。それでも平等の概念を柱に共生できる環境を整えることが、民主主義社会における政治の役割だろう」
「性的少数者への就職差別などは現在進行形である。実効性のある差別禁止規定を抜きにした法律では、当事者たちは救われない」

 デイリースポーツは、東ちづるさんの「どれほどたくさんの人を傷つけてしまったか」というコメントを紹介しています。
「人の尊厳を踏みにじる発言は差別。どれほどたくさんの人を傷つけてしまったか。今の日本が公言し、めざしているのは、『多様性と調和』。(今回の差別発言は)『多様性と調和』とは、まるで真逆の発言だった。人権先進国への道を閉ざそうとしていることがわからないのだろうか」

 ライターの平河エリ氏は「wezzy」の記事で、これまでも杉田水脈衆議院議員の「"生産性"がない」発言や、足立区の白石区議の「LやGばかりになると足立区が滅びる」発言に触れると、必ずと言っていいほど「自民党の中にもLGBT政策に理解のある方はいる」という主張をする人がいましたが、「問題は「差別的でない人がいる」ことではない。「差別的な人を許容している」ということだ」と指摘しています。そして、ある漫画に描かれた「樽一杯のワインに一杯の泥水を混ぜると、それは樽一杯の泥水になる」と言うたとえ話を引用し、「党として差別的発言を許容し、処分せず、あまつさえ次回の選挙でも公認し、比例代表の名簿とすれば(山谷議員や杉田議員は比例代表選出)、それは「樽一杯の泥水」にすぎないだろう」と述べています。
 
 中京大学スポーツ科学部教授で、東京2020大会組織委理事の來田享子氏は「現代ビジネス」の記事で、「政府与党の議員として、性別および性的指向にもとづく差別を助長するような発言は、五輪憲章の根本原則に違反すると言わざるをえない。東京2020大会組織委の森元会長がジェンダー平等に反する発言を行った際にも、これへの違反が問題となった」と指摘しています。
「身体が関わるスポーツという文化では、性別や性的指向をめぐる問題は複雑であり、スポーツ界でも選手、専門家など多くの関係者が「スポーツから誰も排除しないために何をなすべきか」を考え、取り組んでいる問題なのだ。人権の観点から性別に対する古い考え方を改め、スポーツ界がこの問題に向き合いはじめて、すでに15年以上が過ぎている」
「山谷議員が発言したような「体は男だけど自分は女だから女子トイレに入れろ」という言葉からは、要望の背景に、当事者一人一人が抱えてきた人生をかけて闘ってきた困難があるという現実が切り取られてしまっている。知識のなさゆえに単純化されてしまった発言だといえるだろう」
「性別や性的指向にもとづいて人をカテゴリーで束ね、見当違いのラベルを貼り、思い込みで語る態度は、東京2020大会組織委の森元会長の発言と根っこが共通する。ジェンダー平等は、男性と女性の数あわせの問題だけではない。誰も排除されない社会を目指し、性別や性的指向をめぐる私たちの思考の見直しを迫る問題なのだ」
 來田享子教授はさらに、2018年3月に公表されたIOCの「ジェンダー平等再検討プロジェクト報告書」の「女性と男性の距離,競技区間の長さ,ラウンド数などに関する競技形式ができる限り同じであることを確認する」「可能な限り,男性と女性の間のスポーツ固有の機器と用具は同じでなければならない」という提言を紹介し、「スポーツに対する捉え方を土台から、柔軟に見直せば、性を区別せず競技する道は模索できる、ということだ。そのための科学的なデータを示すことも、「その人がありのままで関われる、誰も排除しないスポーツ」を目指すためのスポーツ科学の役割のひとつになろうとしているのだ」と述べています。
 たいへん学びの多い記事でした。ぜひご一読を。
 
 当事者だけでなく、新聞社、有識者、アライの方たちも声を上げ、差別発言に抗議し、性的マイノリティを守らなければいけないと訴えてくれています。たいへん心強く、ありがたいことです。
 署名も現在、8万筆を超えています(こちらも多くのアライの方たちの賛同があったと思います)

 差別発言の議員の方たちが今後どう動くのか(撤回と謝罪に動くのか)、政権与党はどう動くのか(放置するのか対処するのか)、法案の行方はどうなるのか(与野党合意の案で採用されるのか、法案自体が流れるのか)、もう少し注視していきましょう。
 


参考記事:
「差別は許せない」自民議員発言に手話で抗議 LGBTQ当事者ら(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20210523/k00/00m/010/132000c

「わたしたちは大事な命。人間」「差別許せない」自民党本部前で伝えた思い(BuzzFeed Japan)
https://www.buzzfeed.com/jp/sumirekotomita/ldp-lgbtq-signlanguage?bffbjapan&utm_term=4ldqpgp#4ldqpgp

自民 野田幹事長代行「種の保存に反する」発言に不快感(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210524/k10013048371000.html

「種の保存」発言批判 自民・野田氏(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021052400737

<社説>LGBT法案 「差別禁止」は不可欠だ(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/106185

東ちづる「どれほどたくさんの人を傷つけたか」自民議員LGBT差別発言に(デイリースポーツ)
https://www.daily.co.jp/gossip/2021/05/23/0014352108.shtml

LGBTQめぐる自民議員の発言は「“無知が招く恐ろしさ”の象徴」 オリパラ組織委理事が直言(現代ビジネス)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/83400

差別的発言を許容する自民党は「樽一杯の泥水」にすぎない(wezzy)
https://wezz-y.com/archives/90886


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