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【東京五輪】ローレル・ハバード選手の健闘を讃える声が続々と上がっています「彼女はバーベルを持ち上げることはできなかったかもしれないが、スポーツそのものを持ち上げたのだ」

 トランス女性として史上初の五輪出場を決めたローレル・ハバード選手(43、ニュージーランド)が2日、ウエイトリフティング(重量挙げ)女子87キロ超級の試合に臨みましたが、記録を残すことはできませんでした。しかし、幾多の困難を乗り越えてこの場に立ち、正々堂々と闘った彼女に、世界各地のLGBTQ+Allyコミュニティから健闘を讃える声が贈られています。

 
 ハバードのウエイトリフティングのキャリアは1990年代に始まりました。1998年にジュニアレコードを記録したその3年後、性別違和からウエイトリフティングをやめるという難しい決断をしました。
 2017年、ハバードはRNZ(ニュージーランド公共放送)のインタビューで、ウエイトリフティングに参加したのは「もっと男性らしさを感じる」ためだったと説明しました。「正直に言うと、ウエイトリフティングを始めたのは、それが典型的に男性的な競技だったからです。自分が男らしいことを始めれば、きっと男として生きられるのではないかと思ったのです。悲しいことにそうはなりませんでしたが」
 他のインタビューで、彼女が人生において性別移行よりもウエイトリフティングを優先していたと「誤解」されることについて、「皆さんはご存じないかもしれませんが、2001年にはウエイトリフティングを中断しました。23歳でした」と語りました。「私のような人のためには作られていないような世界に自分をフィットさせることのプレッシャーに耐えられなかったからです」
 彼女は2012年、35歳のときに、本当の人生を生きる決意をしました。性別移行を始め、そして、愛するウエイトリフティングにも再び取り組み始めたのです。

 2017年、ローレル・ハバードはオーストラリアの国際大会に90kg超級で出場し、金メダルをとり、母国初のタイトルを獲ったトランス女性となりました。
 彼女の勝利は、LGBTQコミュニティから賞賛を得て、特にトランスジェンダーやクィアの若者たちのパワフルなロールモデルとなりました。
 悲しいことに、彼女の勝利は、女性差別的でトランスフォビックな中傷も引き起こしました。仲間のアスリートはハバードへのアンチな発言をして、競技に参加すべきでないなどと述べました。
 2017年、ハバードは、歴史的な勝利の結果、彼女が受けたトランスフォビアについて口を開きました。
「人々は、自分がそうだと思うことを信じています。新しい、自分が知っているのとは異なる何かが示されると、本能的に守りに入るのです」
「私が、人々が何を感じ、何を考え、何を信じているかということを代弁することなどできませんし、人々が何を感じ、何を考え、何を信じているかということを変えるつもりもありません。ただ、自分の内なる信念がそうだと思い込ませるよりももっと広い視野で世界が見えたらいいのに、と思います」
「万人に支持されたいと望むわけではありませんが、人々はオープンマインドでいられるし、より広い視野で私のパフォーマンスを見ることもできると思います」

 2018年、コモンウェルスゲームズで腕に深刻な怪我を負い、彼女のキャリアは終焉を迎えたかに思われました。引退するだろうとの見方が強まっていました。ハバードは、「キャリアの終わりだと思いました」と述べました。「本当に屈辱。でも私は試合でベストを尽くそうと努めたし、それはよかったこと」
 数ヶ月後、奇跡的に治療がうまくいって、彼女は引退のプランを撤回し、2018年秋の国内大会に出場しました。
 2019年にはアピアでの太平洋大会に出場し、金メダルを2つと銀メダルを獲りました。怪我からの回復が本当に早く、スムーズにカムバックしたことを証明しました。彼女の五輪への道が再び始まりました。

 ハバードの不屈の精神とたゆまぬ努力は、ついに彼女を五輪出場という歴史的な偉業へと導きました。心のこもった声明で、彼女は無限の支援をしてくれたニュージーランドの人々に感謝の言葉を述べました。
「たくさんの親切とサポート、心から感謝していますし、恐縮しています」
「3年前に腕を折って、競技人生の終わりだと言われました。しかし、皆さんの支援、励まし、アロハ(愛情)が私を闇から抜け出させてくれたのです」


 8月2日、トランス女性が史上初めて五輪で競技する歴史的な試合が行なわれました。
 試合前、出場する10人の選手紹介で名前を呼ばれ、彼女は拍手に軽く右手を上げて応じました。スナッチで2回の試技に失敗し、勝負の3回目。観客席の関係者から「レッツゴー」「できるぞ」という声援も起こりました。しかし、中腰から立つことができず、125kgのバーベルを落とすと、悔しそうに顔の前で両手を握り締めました。それでも拍手が起こると、笑顔を浮かべ、両手でハートの形を作って応えました。
 試合後、彼女は「スポーツの観点から見ると、私は自分自身に課した基準に達しなかったし、私の国が私に期待した基準にも多分届かなかったことはわかっています。けれど、私が心から感謝しているのは、ニュージーランドのサポーターたちが私に多くを与えてくれたことでした。それは驚きを超えていました。ニュージーランド・オリンピック委員会に感謝したい。彼らは非常に困難だった時を通じて私を支えてくれました」と、感謝の言葉を述べました。
「日本の人々、政府はこのような困難な状況で開催にこぎ着け、とてつもなくすごいこと。五輪で競う機会を与えてくれてありがとう」
「私のこうした大会への出場について、全く論議がなかったわけでない、ということも知っています。そうしたなか、オリンピズムの原則を順守し、スポーツは全ての人のためのものであって、インクルーシブであり、手の届くものであることを示してくれたIOCに感謝します。国際重量挙げ連盟、ニュージーランド五輪委員会にも」

 
 この日、プライドハウス東京レガシーでは、トランスジェンダーの方たちなどがハバード選手の試合をインターネット中継で見守っていました。「記録なし」との結果に、「残念だったけど、感動した」との声が上がりました。
 トランス女性の時枝穂さんは、「トランスジェンダーは男女区別が根強いスポーツから排除されてきた。性別を移行するのは心身の負担も大きく、偏見や差別もあったと思う。そうした背景にも注目してほしい」と語りました。
 同じくトランス女性のダイアログ瞬さんは、「彼女の勇姿は多くの人に夢を与える。当事者に『あきらめないで』とのメッセージを感じた。今は過渡期と思うが、彼女のおかげで次に続く人が必ず生まれるはず」と語りました。
 元サッカー選手のトランス男性、大嶋悠生さんは自宅で観戦し、「批判もあるなかで世界の舞台に立ち、パフォーマンスするのは精神的にもきつかったと思う」と語りました。

 英国のLGBTQメディア「Pink News」は、「ハバードの出場は、世界中のトランスジェンダーやクィアの人々にとって記念碑的な出来事になった」と賞賛しました。「多くのLGBTQは差別的な仕打ちや過酷な環境ゆえに、スポーツから排除されていると感じてきた。しかしハバードは、この世界に変化が起こりつつあることを、身をもって示した」
 
 また、LGBTQのスポーツメディアとしてハバード選手のことを最も詳細に報じてきた「Outsports」は、こうコメントしています。
「スポーツ界でのメンタルヘルスの問題に注意が払われているなか、ハバードがどんな扱われ方をしてきたか、考えてほしい。トランスの若者たちが今、どんなふうに脅威にさらされているか、考えてほしい。スポーツに夢を持っている次世代のトランスに何をしてやれるか、考えてほしい」
「ローレル・ハバードは公式にはDNF(競技を完遂できていない)とされた。実際は、彼女はあの場に立つという偉業を成し遂げた」
「彼女はバーベルを持ち上げることはできなかったかもしれないが、スポーツそのものを持ち上げたのだ」

 
参考記事:
Laurel Hubbard’s incredible, tumultuous journey as trans weightlifter makes Olympic history(Pink News)
https://www.pinknews.co.uk/2021/08/02/laurel-hubbard-trans-olympics-tokyo-2020/
【東京五輪】 初のトランスジェンダー選手、重量挙げで記録なし 英選手が銀(BBC)
https://www.bbc.com/japanese/58059610
五輪=重量挙げ女子87キロ超級、トランスジェンダー公表のハバード途中棄権(ロイター)
https://jp.reuters.com/article/transgender-olympics-result-idJPKBN2F31AS
初のトランスジェンダー選手、記録なしで姿消す 最後は感謝の言葉(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASP827FDJP82ULZU00J.html
トランスジェンダー女性初の五輪出場、重量挙げ女子87㌔超級で記録なし(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/121369
Laurel Hubbard’s Olympics end in sadness, grace and hope(Outsports)
https://www.outsports.com/olympics/2021/8/2/22605805/laurel-hubbard-cooper-diaz-pull-for-pride-olympics-tokyo-2020-weightlifting-transphobes-lose

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