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mRNAベースのHIVワクチンの臨床試験が開始。エイズ流行開始から40年を経て、ようやくHIVワクチン実現という夢が現実味を帯びてきました

 製薬会社のモデルナが、2021年1月に開発を明らかにしたmRNA(メッセンジャーRNA)ベースのHIVワクチンの臨床試験を開始することがわかりました。

 これは国立衛生研究所のデータベースに臨床試験の予定が掲載されたことで明らかになりました。臨床試験の対象者はHIV陰性の18歳~50歳の56人で、8月19日に開始し、2023年春に終了する予定だそうです。
 モデルナは今年1月にHIVやインフルエンザウイルスなどのmRNAワクチン開発を表明していました。そして、同社と連携しているスクリプト研究所と国際エイズワクチン推進構想(IAVI)は2月、少数を対象に安全性確認を行う第Ⅰ相試験をクリアしたことを発表しました。今後、ワクチンの全体的な有効性を確認する第Ⅱ相試験、PrEP(曝露前予防)などの他の予防治療と比較した有効性を検証する第Ⅲ相試験が行なわれます。

 次世代のLGBTQコミュニティマガジン「them.」によれば、mRNAワクチンの技術そのものは何十年も前から存在したものですが、アメリカ食品医薬品局(FDA)の承認に時間がかかるため、数が限られていました。しかし、新型コロナウイルスのパンデミックによる官民連携プログラム「オペレーション・ワープ・スピード」により、臨床試験とFDAの承認スケジュールが加速したことにより、状況が一変しているそうです。
 
 WIREDの記事「MRNAワクチン革命はまだ始まったばかりだ」では、「新型コロナウイルスはある意味で、mRNAの未来に向けたインフラを構築した」と述べられています。
 mRNAのテクノロジーは、従来のワクチン開発の時間軸を打ち砕き、新型コロナウイルスに対して記録的なスピードでワクチン開発を可能にしました。パンデミック以前はファイザーもモデルナも、製薬業界においてさほど有力ではありませんでしたが、mRNAという画期的なテクノロジーに着目したおかげで、多くの人の予想を超える結果をもたらしました。mRNAテクノロジーはワクチン開発における「ゲームチェンジャー」となったのです。
 そして、世界が新型コロナウイルスワクチンの接種開始に注目する一方で、他のさまざまな疾病を対象とした次世代mRNAワクチンの開発競争がすでに始まっており、その代表が、インフルエンザウイルスのmRNAワクチンと、HIVのmRNAワクチンなのです。
 
 
 ナショジオの記事「多様な変異株に効くエイズワクチンに突破口」によると、HIVワクチンの探索は、1984年にウイルスが分離され、それがエイズの原因であると確かめられた直後から始まりました。当時、ウイルス学者のジョゼ・エスパーザ氏や多くの同僚たちも、ワクチンこそが解決策であり、そう遠くない未来に開発できると確信していました。HIVに対して人体が抗体を作ることはわかっていましたし、麻疹(はしか)や天然痘などと同様、体に抗体を作らせるワクチンが開発できると思われたからです。しかし、それから40年近くの間、世界中の研究者がさまざまなアプローチによって多大な努力をしてきたにもかかわらず、有効性なワクチンは開発されませんでした。エスパーザ氏は「私たちはHIVの複雑さを理解していなかったのです」と語っています。
 抗体は、ウイルスの表面にある特定のタンパク質を標的にしますが、HIVの変異性は極めて高く、抗体が認識できない変異株をすばやく作り出し、常に免疫系に一歩先んじるといいます。
「HIVは未だに、新型コロナウイルスよりもはるかに難しい相手です」と、米フレッド・ハッチンソンがん研究センターのエイズワクチン試験ネットワークの主任研究員ラリー・コーリー氏は語ります。「新型コロナウイルスからは98%の人が回復しますが、HIVの場合、7800万人中、自分で回復した人は皆無です」
 2000年代初頭、抗体ではなく、体内の兵士とも言えるキラーT細胞を目当てにするというアイデアに基づく開発が行なわれましたが、失敗に終わりました。
 2000年代末、HIVに感染した人のごく一部から、HIVの多様な株を一度に中和できる特に強力な抗体「広域中和抗体」が見つかったことをきっかけに、血液中のナイーブB細胞が広域中和抗体を産生するようにできるワクチンの開発が始まりました。しかし、HIVへの予防効果を確認するには程遠い段階だそうです。
「長い間HIVワクチン研究の妨げとなってきたのは、科学的な課題だけでなく、切迫感の欠如でした。COVID-19と比べ、HIVの感染者は社会から取り残された立場にある人々である場合が圧倒的に多いため、製薬会社は、科学者が基礎的な知見をより確かなものとするまでは、高価なHIVの治験に投資したがらなかったのです」と、エスパーザ氏は語っています。「もし社会が本当にHIVワクチンの価値を認めていたならば、COVID-19と同じように、複数の有効性に関する試験が並行して行なわれていたでしょう」
 しかし今、新型コロナウイルスワクチンの開発の成功によって、mRNAテクノロジーを利用して、比較的低コストで短期間にHIVワクチンの開発が実現する見通しが出てきたのです。
 
 今年2月に発表された、モデルナのHIVワクチン戦略における第Ⅰ相試験の有望な結果について、スクリプス研究所の免疫学者でIAVI中和抗体センターのワクチン設計担当責任者であるウィリアム・シーフ氏は、「これはHIVワクチンの製造に向けた小さな一歩であり、同時にとてつもなく大きな一歩でもあります。そして、今回の特定のケースにおいて、驚くほどの有効性を発揮したのは事実なのです」と語っています。
「HIVワクチンの製造にはまだ何年もかかるでしょう。たとえそこまでたどり着いたとしても、完成したワクチンは複数回の接種が必要となる可能性が高いです」
「しかし、コロナワクチンでの経験のおかげで、世界への配布が容易になるかもしれません」
 
 実用化にはまだもう少し、時間がかかりそうです。しかし、エイズの流行開始(1981年6月5日)から40年を経て、ようやくHIVワクチンの実用化という夢が現実味を帯びてきたことは、本当に喜ばしく、歓迎すべきニュースです。HIV/エイズの世界規模のパンデミックがようやく終焉を迎える、そういう未来が見えてきました。
 
 

参考記事:
Moderna Is About to Begin Trials for HIV Vaccine Based on COVID-19 Research(them.)
https://www.them.us/story/moderna-begins-hiv-vaccine-trials-covid-19-research
HIVワクチンの臨床試験をモデルナが開始(Gigazine)
https://gigazine.net/news/20210818-moderna-hiv-vaccine-trial/
MRNAワクチン革命はまだ始まったばかりだ(前篇):インフルエンザへの応用(WIRED)
https://wired.jp/membership/2021/08/16/mrna-vaccine-revolution-katalin-kariko-1/
MRNAワクチン革命はまだ始まったばかりだ(後篇):免疫エンジニアリングの時代へ(WIRED)
https://wired.jp/membership/2021/08/17/mrna-vaccine-revolution-katalin-kariko-2/
多様な変異株に効くエイズワクチンに突破口(NATIONAL GEOGRAPHIC)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/21/051200229/

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