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最高裁判所裁判官の夫婦別姓・同姓婚へのスタンスは?

 最高裁判所裁判官の国民審査について、読売新聞が、審査対象となる11名の裁判官に対して「夫婦別姓や同姓婚を求める国民の声の高まりに対してどう向き合うべきか?」と尋ね、その結果を公表しました。2021年6月23日の夫婦同姓の強制の違憲性を問う裁判の判決では、深山卓也氏、林道晴氏、岡村和美氏、長嶺安政氏の4名が合憲(ヤシノミ裁判官に指名されています)、宇賀克也氏、草野耕一氏、三浦守氏の3名が違憲だと判断したことはすでに報じられていますが、この裁判の時には未就任だった4名はどういうスタンスなのか、また(札幌地裁で同性婚を認めないのは違憲であるとの判断が下されましたが)未だ最高裁には上っていない同性婚についてはどう考えるのか、というところはよくわからなかったため、(各氏の回答が直接、同性婚に賛成か反対かという意見表明にはなっていないにせよ)たいへん貴重な、意義のある調査だと言えます。
 
 審査対象となる11名の裁判官への質問はこのようなものでした。

[国民審査2021]
Q14 夫婦別姓や同姓婚を認めるよう求める人たちが全国で裁判を起こしています。社会の変化や価値観の多様化に伴う国民の声の高まりに対し、裁判官はどのように向き合うべきだとお考えですか。

 この質問に対する各裁判官の回答は以下の通りです(告示順。実際の用紙では、右からこの順番で並ぶようです)
 *が付いている方は、夫婦別姓裁判の判断に関わっていない方です。

深山卓也裁判官
「具体的に裁判になっている事案について裁判外で個人的な意見を述べることは差し控えますが、一般論としては、裁判官は、その判断に当たり、社会の変化や価値観の多様化を含む紛争の背景にある社会事情や国民の意識を十分に考慮する必要があると考えています」

岡正晶裁判官*
「個別事件として最高裁に係属する案件と思われますので、そこで熟慮し、審議を踏まえ、私の意見を固めさせていただきます」

宇賀克也裁判官
「夫婦同氏制度についての私の考えは、最近の大法廷決定において、詳細に述べました。今後も、夫婦別姓や同性婚をめぐる訴訟を審理する立場になった場合、判決や決定において、私の意見をお示ししていきたいと思います」

堺徹裁判官*
「社会の変化が多様性を認め合う社会の実現を求める声の高まりにつながっていて、多様性を認め合うこと自体に対して否定的な考えは少なくなってきていると思います。しかし、どのような事柄につき、どのような範囲で、どの程度認め合うのかに関しては、様々な意見があると思います。具体的な事件の裁判に当たっては、その時点での内外の状況等を踏まえつつ、当事者の主張や様々な意見によく耳を傾け、良心に従って判断します」

林道晴裁判官
「夫婦別姓についての私の考えは、関与した大法廷決定で示したとおりです。同性婚のように下級審で審理が係属している事件については、回答を差し控えさせていただきます。一般論としては、社会の変化、価値観の多様化や、それに伴う国民の声の高まりを十分踏まえて、事件に向き合っていきたいと考えています」

岡村和美裁判官
「現代では、人々の価値観はさらに多様化していくと考えており、社会の変化に敏感でありたいと意識しています。そのうえで、社会の制度や仕組みに関する個別事件においては、国民の意識の変化・公平性・将来への影響・法的安定性なども考慮して、事案の判断にあたるべきと考えています」

三浦守裁判官
「婚姻や家族に関する法制度は、社会生活一般に関わる重要なものですが、その在り方については、歴史や慣習、社会の変化、意識の多様化等を背景に、対立する立場や様々な意見がみられます。その中で、司法が担う責任を適正に果たすことが求められ、裁判官としては、個々の事件において、それぞれの当事者の主張に十分耳を傾け、広い視野の下に、多角的な検討と深い洞察に基づいて、法的な判断を適切に行うべきものと考えています」

草野耕一裁判官
「人は経験と内省を重ねて自らの価値観を形成し、しかるのちは、その価値観に則って良き生き方を構想しその実現に向けて努力を続ける存在であると思います。そして、憲法は、「すべて国民は、個人として尊重され・・・幸福追求に対する国民の権利については・・・立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と定めています(憲法13条)。
 してみれば、人がすでに形成されている価値観の下でよいと考える生き方を追求することを(その生き方が他者に危害をもたらし、あるいは、社会の倫理的基盤を揺るがすようなものであれば格別、そうでない限り)妨害しないという原則は憲法の求めている立法の基本理念であると思います。なお、夫婦別姓の問題については2021年6月23日大法廷決定に詳しい個別意見を付しましたのでそちらをご参照ください」

渡辺恵理子裁判官*
「司法に属する者として、個人的な意見を述べることは差し控えたいと考えますが、子の福祉等も十分に配慮しながら、少数者の意見も尊重したいと考えます」

安浪亮介裁判官*
「社会の変化が激しく、価値観の多様化が著しい今日にあって、判断の難しい事件が増えています。幅広い視野と柔軟な発想をもって、バランスがとれたよりよい判断ができるように努力していきたいと思います」

長嶺安政裁判官
「夫婦同一姓制度に関しては、本年の最高裁大法廷決定の中で、自身の判断を示したところです。国際的な潮流の中で、わが国においても社会の様相が変化し、個人の価値観の多様化が見られることを良く把握・認識する必要があると思いますが、裁判官としては、個別の事件の解決の中で答えを見出していくことになると思います」

 
 なお、衆院選特集でもお伝えしたように、LGBTQ関連で言うと、性同一性障害特例法をめぐる裁判もいくつかありました。

 2019年1月、性別変更するために不妊手術を必須と定める法律の違憲性を問う裁判で、最高裁が「現時点では合憲」と判断。ただし「憲法違反の疑いが生じていることは否定できない」という補足意見もつきました(この時の裁判官には、三浦守氏(裁判長)がいました)
 三浦氏は「手術は憲法で保障された身体を傷つけられない自由を制約する面があり、現時点では憲法に違反しないがその疑いがあることは否定できない。人格と個性の尊重の観点から社会で適切な対応がされることを望む」とする補足意見を述べました。要件の違憲性は「不断の検討を要する」とし、「現時点では」という条件付きで合憲と結論づけました。
 この裁判を担当した大山知康弁護士は「違憲の可能性を指摘したことに意義を感じる。立法により解消すべき問題だという主張に後押しがもらえた」と評価しました。
 トランスジェンダーの活動家・遠藤まめたさんは、当事者に対する適切な対応を求めた補足意見に注目して「手術による体への負担などから性別変更していない当事者も少なくない。今回の決定が社会的な差別に目を向けるきっかけになってほしい」と語りました。
 性的マイノリティ支援に取り組む清水皓貴弁護士は「残念な判断。仮に性別変更前の性の生殖機能によって子が生まれたとしても混乱が生じるとは思えない。当事者の権利より、社会の漠然とした不安感を漫然と認めた決定」と批判しました。補足意見については「適切な内容だが、ここまで言うなら違憲判断に踏み込んでほしかった」と語りました。
 
 また、2020年3月、結婚後の性別変更を認めないことの違憲性を問う裁判では、合憲だとの判断が示されました。
 これは、現状の戸籍性が男性で、すでに女性と婚姻しているトランス女性が戸籍上の性別を女性に変更したいと求めた家事審判で、性同一性障害特例法で未婚であることを性別変更の要件の1つに定めているのは違憲だ(幸福追求権や法の下の平等を定めた憲法に違反する)と主張するものでした。最高裁は、「特例法の規定は、結婚している人の性別変更を認めると、異性間でのみ結婚が認められている現在の婚姻秩序に混乱を生じさせかねないことに配慮したもの」「規定が合理性を欠いているとはいえず、憲法に違反しない」として、規定を合憲とする判断を示しました(詳細はこちら)(この時の裁判官には、岡村和美氏(裁判長)、三浦守氏、草野耕一氏がいて、全員、合憲であると判断しています)
 札幌地裁では、同性婚できないのは法の下の平等を定めた憲法14条に反するとの判決が出ていますが、最高裁は、性別変更によって同性婚状態になると「現在の婚姻秩序に混乱を生じさせかねない」として、トランスジェンダーの方の性別変更の自由(幸福追求権や法の下の平等という憲法で保障された権利)を認めなかったのです。この判断は、同性婚の否認をも意味しています。
 
 一方、今年3月(札幌地裁の画期的な判決と同じ日)、同性のパートナーとアメリカで結婚し、日本で長期間一緒に暮らし、子育てのための新居の購入までしていた30代女性が、パートナーの不貞行為をきっかけに結婚の解消を余儀なくされ、精神的苦痛を受けたとして、元パートナーとその結婚相手に対して損害賠償を求めていた訴訟について、最高裁は、「元カップルは民法上の不法行為に関し、互いに婚姻に準ずる関係から生じる法律上保護される利益を有する」との高裁判決を支持しました。同性カップルも婚姻に準じた関係であり、法的保護の対象になると認めたものです。(詳細はこちら)(この時の裁判官には、岡村和美氏、三浦守氏、草野耕一氏がいました)
 上記のように、昨年3月時点では同性婚について「現在の婚姻秩序に混乱を生じさせかねない」としていましたが、1年後の裁判では、同性カップルも事実婚の男女と同等に法的保護の対象になると認めたかたちです。であれば、同性カップルも事実婚と同様の権利が保障されるような法整備が進められる必要があります(不貞を罰する時だけ事実婚扱いで、婚姻に準じる権利は一切認めないなどというのは筋が通らないですよね)
 
 三浦守氏と草野耕一氏は夫婦同性の強制は違憲だ(選択的夫婦別姓は認められるべき)と判断し、評価されていますが、このように、トランスジェンダーの権利や同性カップルの権利に関する判断は、複雑です。最高裁判所裁判官の国民審査が過去の判決に遡ってフェアな判断を下してきたかどうかをチェックするものだとすれば、少なくともトランスジェンダーの権利については決して評価できるものではなかったと言えるでしょう。
 今回、最高裁判所裁判官の国民審査について、夫婦同性の強制を合憲とした深山卓也氏、林道晴氏、岡村和美氏、長嶺安政氏に「×」をつけようと考えている方は少なくないと思われますが、三浦守氏と草野耕一氏は果たして「×」にしなくてよいのかどうか…悩ましいところだと思います。みなさんのご判断に委ねます。
 
 
参考記事:
最高裁判所裁判官の国民審査が告示、31日投開票(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20211020-OYT1T50085/
【最高裁判所裁判官国民審査2021】審査対象の11人が関わった主な裁判(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/kokuminshinsa/2021/trial.html

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