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「すべては、愛のために」――人類で初めてAIと融合し、サイボーグとして生きる決断をしたピーター・スコット・モーガン博士が、夫との真実の愛を描いた著書が刊行

 英国のロボット科学者でゲイであるピーター・スコット-モーガン博士が、全身が動かなくなる難病ALSで余命2年を宣告されたことを機に、人類で初めてAIと融合し、サイボーグとして生きる未来を選びました。なぜ、そんな決断ができたのか――そこには、夫・フランシスの存在がありました。6月25日に刊行される『NEO HUMAN ネオ・ヒューマン――究極の自由を得る未来』には、ゲイであるがゆえに迫害を受けながら、フランシスとの40年にわたるパートナーシップが彼を強くしたという感動的なストーリーが語られているそうです。

 1970年代、少年・ピーターはゲイであるがゆえにパブリックスクールの校長から鞭で打たれるという、理不尽な迫害を受けました。20歳のときに、運命の男性・フランシスと出会いましたが、両親は、二人の交際をかたくなに認めようとしませんでした。ピーターは名門コンサル会社に就職し、若手ながら目覚ましい業績を上げますが、そんなピーターの昇進を狡猾な同僚が阻もうと企みます。保守的な英国社会で、ようやくシビルユニオンが実現しようとするなか、聖職者たちが横槍を入れます。
 ピーターは、どんな敵にも屈することなく、いつも最後には高らかに勝利を宣言してきました。
 シビルユニオンがイングランドで認められた2005年12月21日、ピーター・スコット-モーガンとフランシス・スコット-モーガンはイングランドの第1号カップルとして結婚式を挙げ、全国のメディアから注目を浴びました。
 経営戦略コンサルタントとして若くして大きな成功を収めたピーターは、50代を前にアーリー・リタイアし、フランシスと世界中を旅しながら暮らす、悠々自適の生活を手に入れます。しかし、58歳のとき、ALSを発症したのです…。
 
 あのスティーヴン・ホーキング博士の体を蝕み、命を奪ったALS(筋萎縮性側索硬化症)。全身の筋肉が段階的に動かなくなっていき、最終的には自分の体に「閉じ込められた」状態になる病気です。意識は完全に保たれているにもかかわらず、まばたきをしたり目玉を動かしたりする以外、外部との意思疎通もままならなくなります。「最も残酷な病気」などと形容されます。
 ピーターはしかし、絶望するより先に「最も残酷な病気って、本当なのか?」と考えました。人生の中で何度も大きな困難に直面してきたピーターは、そのたびに真正面から傷つき、眠れない夜を過ごしてきましたが、彼は必ず「思考」を武器に、立ち向かいました。7歳にしてアインシュタインに魅せられたピーターは、科学者のマインドセットを何より重んじ、常にあらゆる前提や常識を疑い、あらゆる選択肢や仮説を検証し、「変化を起こす」ための道を追求し続けてきました。考えることをやめさえしなければ、必ず戦況を変えることはできると、彼は考えました。
 敵はALSだけではありません。ALSは「手の施しようのない病」であるという固定観念にとらわれた医療業界や社会そのものが、「発症から5年生存できれば御の字」という前提で、ALS患者から「人生を楽しむ」という選択肢を奪ってきました。そう確信したピーター博士は、この現状に猛然と立ち向かいます。
「ALSになっても消化管は問題なく機能し続ける。胃に直接チューブで栄養を送り込むことで、容易に命をつなぐことができるはずだ。これは極めて一般的な措置にすぎない。また、肺を膨らませる筋肉が衰えるだけで肺そのものは機能しているのだから、ポンプで空気を送り込んでやれば呼吸の問題も解決される。(中略)私の目には、しかるべきテクノロジーを用いて適切にケアをすれば、ALSは死に至る病には見えなかった。どちらかといえば慢性疾患に近い病気ではないか」
 じわじわと進行する病気をただ甘んじて受け入れるのではなく、先手を打って病気に対抗するために、ピーター博士はサイボーグ「ピーター2.0」になることを選択したのです。
 胃には栄養チューブ、結腸には人工肛門、膀胱にはカテーテルを装着。さらには、人工呼吸器を使用しているALS患者の多くが「誤嚥性肺炎」で亡くなっている事実に注目し、自らの声を手放すことと引き換えに喉頭摘出の手術を受けます(喉と気管を完全に分離するため)。また、顔筋が動かせなくなることと声帯を切除することによって失われるであろう「自分らしさ」を守るため、表情と声のサンプルもありったけ保存し、最先端のアバターと合成ボイスを構築できるよう準備しました。これに、AIによる精度の高い予測変換を組み合わせれば、病気になる前の自分と変わらない自然さで、外部とコミュニケーションができるようになるだろうと博士は考えました。
 こうした前例のない取組みへの熱意が、次第に医師たちにも伝播し、医療の現場すら変えていきます。
「宇宙に変化を起こすのは、人類が生まれながらにして持っている権利だ」と博士は語ります。

 『NEO HUMAN ネオ・ヒューマン――究極の自由を得る未来』の最終章には、VRの世界の中でピーターとフランシスが会話している場面が描かれているそうです。
 ジェンダー平等の実現に貢献することをミッションとする「Kanatta」の井口恵代表は、「お二人の愛と絆の強さに本当に感動するとともに、私の思い描いた世界がそのまま描かれていたことで、やはりテクノロジーには可能性があるんだと思いを新たにしました」と語っています。
 井口氏は「VRの世界が広がり、外見を明かさずにコミュニケーションをとることが一般的になれば、仕事の面で性別や年齢に左右されず、能力だけで評価される世界が訪れるのではないか」とも語ります。「本書は、病気や障害のある人、同性愛者に限らず、どんな人でも勇気をもらえる一冊だと私は思います」

 前例のない「サイボーグ化」を成し遂げ、世界中の注目を集めたピーター・スコット-モーガン博士。もし博士がゲイでなかったら…幼少期から様々な理不尽を経験し、困難を乗り越え、それゆえに真実の愛や自由の価値をかみしめる…という人生を送ってこなかったら、人類初の偉業は実現しなかったかもしれません。
 

『NEO HUMAN ネオ・ヒューマン――究極の自由を得る未来』
ピーター・スコット・モーガン:著、藤田美菜子:訳/東洋経済新報社
 

参考記事:
人類初「AIと融合」した61歳科学者の壮絶な人生(東洋経済)
https://toyokeizai.net/articles/-/431183
「人は見た目じゃない!」人類の理想が実現する日(東洋経済)
https://toyokeizai.net/articles/-/433375

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