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腸内環境が悪いとHIVに感染しやすくなるとの研究結果が発表されました

2022年01月22日

 腸内に炎症誘発性の細菌が多いとHIVへの感染リスクが高くなる可能性があるそうです。
 これは米ピッツバーグ大学のYue Chen准教授(感染症・微生物学)らが実施した研究で、2021年12月9日に『Microbiome』で発表されました。
 Chen准教授は、「健康的な腸内細菌叢は、食べた物をエネルギーに変えたり、病原体と闘ったり、腸壁の状態を維持したりする。身体のさまざまな機能にとって不可欠な存在だ。腸内細菌叢はそのほかにも、がんと闘ったり、人間の行動に影響したり、免疫反応を引き起こしたりするなど多様な影響をもたらすことが、研究者たちの間で知られるようになってきている」と述べています。
 
 論文の上席著者のCharles Rinaldo氏は、これまで40年近くにわたって腸内細菌叢とHIV/エイズの関係について研究を重ねてきた方ですが、その取組みを加速させるきっかけとなったのが、エイズパンデミックの初期、1984~85年の間にゲイ男性たちから採取され、35年が経過した糞便と血液の検体の存在でした。これらの検体は、米国立衛生研究所(NIH)による研究の一環で採取され、全て凍結保存されていたため、研究グループはこのNIHの研究に参加した265人の男性から採取された検体を新鮮な状態で分析できたといいます。
 これらの検体が採取された時点でHIV-1(注:HIVには1型と2型がありますが、世界中に拡散しているのは1型です)に感染していた男性はいませんでしたが、採取後1年以内に109人のHIV-1感染が確認されたそうです。被験者の糞便検体を分析した結果、HIV-1に感染した男性は、感染しなかった男性と比べて、感染前の腸内細菌叢に、炎症誘発性の細菌である「Prevotella stercorea」が有意に(統計的に偶然ではないほど)多く、免疫反応に関与するとされているBacteroides属の細菌4種類が有意に少なかったそうです。血液検体の分析からは、HIV-1に感染した男性は感染しなかった男性に比べ、感染前の血漿中に「可溶性CD163」と「可溶性CD14」とよばれるたんぱく質、そして「IL-6(インターロイキン-6)」と「リポ多糖結合たんぱく質」(これらは全て炎症と関連します)が有意に多いことがわかりました。 
 Chen准教授は「HIV-1に感染した人は、感染する前から腸内細菌叢が望ましくない状態だった。そのため免疫力が低下して炎症が誘発され、HIV-1に感染しやすくなった」との考えを示しています。
 一方、Rinaldo氏は「食べた物や活動、環境因子への曝露など、さまざまな因子が病原体への反応、重度の疾患、あるいは無害な感染症への罹患に影響を与える。今回の研究で示されたように、腸内細菌叢が本当にHIV-1感染のしやすさに影響を与えているなら、新型コロナウイルスなどの他の病原体についても同様のことが当てはまる可能性がある」と述べています。
 
 なお、新型コロナウイルスへの感染と腸内環境の関係についてはすでに指摘されていて、こちらの記事によると、健康に有益な働きをする善玉菌が腸内に少ない人は重症化しやすい傾向があるとされています。
 細菌叢の研究が専門の香港中文大学の黃秀娟教授と研究チームは、腸内フローラ(腸内細菌叢)のバランスが崩れていることが重症化を招く可能性について調査を実施。軽症から重症までの感染者100人と感染していない78人から採取した糞便サンプルを調査して、感染者とそれ以外の人の腸内にある微生物と量には明確な違いがあることを確認、重症者は軽症者と比べ、腸内フローラのバランスがより大きく崩れていたことも明らかになりました。黃教授は「免疫の防御機能を調節していることが確認されている善玉菌が不足していた」と述べています。

 では、善玉菌を増やすにはどうすればよいのでしょうか。こちらの記事によると、「野菜類・豆類・果物類など食物繊維が多く含まれる食品を食べたり、ヨーグルト・乳酸菌飲料・納豆などの発酵食品・漬物など、腸内細菌叢のバランスを改善する「プロバイオティクス」を積極的に摂ることが役立つ」とのことです。

 
 
参考記事:
腸内細菌の種類次第でHIVに感染しやすくなる(毎日新聞医療プレミア)
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20220105/med/00m/070/001000d
コロナ感染で重症化、腸内フローラのバランスに関連性?(Forbes Japan)
https://forbesjapan.com/articles/detail/39679

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