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アカデミー賞3部門ノミネート、ゲイのアフガニスタン難民を描いた映画『FLEE フリー』が6月公開決定

2022年03月17日

 第94回アカデミー賞にて、史上初となる国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞3部門同時ノミネートを果たしたドキュメンタリー映画『Flee(原題)』が、『FLEE フリー』の邦題で6月から公開されることが決定しました。
 紛争、難民、人種差別、同性愛者弾圧など現代社会を覆う数々のテーマが内包された作品で、タリバンとアフガニスタンの現実や、祖国から逃れて生き延びるために奮闘する人々の過酷な日々、そして、居場所を奪われることがいかに人間の尊厳を傷つけるかということが描かれています。自身も迫害から逃れるためにロシアを離れたユダヤ系移民であるヨナス・ポヘール・ラスムセン監督は、「難民であることはアイデンティティではありません。それは誰にでも起こりうる状況です。アミン(仮名)は難民ですが、彼はそれだけではありません。彼は学者であり、家の所有者であり、夫なのです」と語っています。



<ストーリー>
アフガニスタンで生まれ育ったアミンは幼いある日、父がタリバンに連行されたまま戻らず、残った家族とともに命がけで祖国を脱出した。やがて家族とも離れ離れになり、数年後たった一人でデンマークへと亡命した彼は、30代半ばとなり、研究者として成功を収め、恋人の男性と結婚を果たそうとしていた。だが、彼には恋人にも話していない、20年以上も抱え続けていた秘密があった。あまりに壮絶で過酷な半生を、親友である映画監督の前で、彼は静かに語り始める…。

 絶対に他人には打ち明けられなかった過去――それを明らかにできたのは、アミンとラスムセン監督が10代の頃から友人だったからです。2人の信頼関係は20年以上にも及びます。ラスムセン監督は、こう語ります。
「デンマークの私の町にアミンが来たのは、彼が16歳の時。私は15歳でした。一緒に学校に通うようになり、友人になりました。大人になってからも一緒に旅行に行ったりしましたし、年に一回は必ず会っていましたね。ただ、彼がアフガニスタンから来て、家族はヨーロッパに散らばっているという事実は、高校時代から何となく知っていた程度で、この映画を作ると決め、より親密になってほぼ毎日連絡を取り合うようになるまで、過去の詳しいことは知らなかったのです」

 主人公アミンをはじめ周辺の人々のプライバシーと安全を守るために、この映画は、実写版ではなくアニメーションで制作されました。監督がアミンから過去を引き出す現在のパート(もちろんそこもアニメ)で、アミン本人の「声」だけは使われているそうです。「彼が初めて過去を告白する際、声を振り絞り、導くためのエネルギーのようなものを記録したいと思いました。もちろん私がいろいろ聞き出すわけですが、その質問に彼が耳を傾け、本当の『声』を吐き出す瞬間を録音することが重要だったのです」
「トラウマとなる過去を描いたわけですから、彼が映画と向き合うのは辛かったと思います。最初に私とアミン、彼のパートナーの3人で観たとき、エンドロールが流れた後も、私たちはしばらく動けずにいました。そしてアミンは言ったのです。『僕にはこれが素晴らしい映画かどうかわからない。自分の感情と切り離すことができないから』と。彼は難民でゲイという2つの葛藤を抱えて人生を送り、そんな自分の運命が観客に受け入れられるのか、心配していたのだと思います。その後、作品が公開され、多くの観客を感動させ、同じ経験をした世界中の何百万人もの難民の人たちの代弁者となったことで、今は喜んでいるはずです」

 現在ウクライナから避難しようとしているLGBTQ(あるいは避難したくてもできない人)のことなどともシンクロし、アフガニスタンのことにとどまらない「LGBTQが難民になること」のリアリティがひしひしと感じられる作品になっているようです(私たちにとっても決して他人事ではないと思えるはず)
「現在のウクライナ情勢とともに、この『FLEE フリー』が言及されることは、ある意味で不幸です。また、アフガニスタンでは昨年の夏、この映画が描く1990年代と同じような状況となり、ひじょうに不安定です。ウクライナといい、アフガニスタンといい、現実と映画がリンクするのは事実でしょう。人々が安全な場所にたどり着く。そんな希望を信じていれば、地球の反対側へ行ったとしても、新しい人生を築き始められるのですが……」
 
 映画『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』でムスリムとして初めてオスカー候補となったリズ・アーメッドと、ドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』のニコライ・コスター=ワルドーの2人がエグゼクティブプロデューサーとして本作をサポート。『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督が、2021年のベスト映画の1本として選出しているほか、ギレルモ・デル・トロ監督も、この作品がアカデミー賞のアニメーション部門にノミネートされると「『FLEE フリー』がアニメーションを芸術として発展させたことをとても嬉しく思う」とツイートしました。
 
 『ドライブ・マイ・カー』とアカデミー国際長編映画賞を競うと見られている『FLEE フリー』。アカデミー賞授賞式は3月27日(現地時間)にハリウッドで開催されます。行方を見守りましょう。
 6月の公開も待ち遠しいですね。
 
FLEE フリー
原題:Flee
2021年/89分/デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フランス合作/監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン
新宿バルト9、グランドシネマサンシャイン池袋ほかで6月公開


参考記事:
第94回アカデミー賞3部門ノミネート ドキュメンタリー映画『FLEE フリー』6月公開決定(Real Sound)
https://realsound.jp/movie/2022/03/post-979491.html
「ドライブ・マイ・カー」とオスカー競う、難民の実録アニメが衝撃。授賞式を前に監督も「まさに今の状況」(Yahoo!)
https://news.yahoo.co.jp/byline/saitohiroaki/20220315-00286479

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