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「サル痘」の感染に性的指向は関係ありませんし、性感染症でもありません

2022年05月19日

 欧米で天然痘に似た「サル痘」という感染症の症例が相次いで確認されています。現在、一部のニュースで、米国や欧州で確認された患者の中にゲイやバイセクシュアル男性など同性と性的接触を持つ人(Men who have sex with men=MSM)が含まれる、性的接触で感染すると見られている、などと報道されていますが、性的指向には全く関係がありませんし、そもそも性感染症でもありません。性的接触ではなく、皮膚(発疹、ただれた傷、水ぶくれなど)や体液に触れたり(呼吸器飛沫が付着した)食器を共有したりといった密接な接触(コロナで言う「濃厚接触」)で感染するものです。今後、かつてのエイズ禍の時のような、特定の集団をターゲットにしてバッシングするような言説が出てくる可能性も危惧されますが、「性的指向には全く関係ない」「性感染症ですらない」という正しい知識によって対抗していきましょう。
 

 サル痘に感染すると、発熱、発汗、頭痛、悪寒、咽頭痛などインフルエンザと同様の症状、リンパ節の腫れ、顔や体の発疹(水ぶくれや梅毒のような発疹)が現れますが、ほとんどの患者はこうした初期症状の発症から数週間以内に回復します。現在欧米で確認されている患者が持つサル痘ウイルスは西アフリカ系統で、重症化しないことがわかっているそうです(もう1つ、コンゴ系統というのがあって、こちらは毒性が強いことがわかっています。詳細はこちら
 感染経路は、感染動物に咬まれること、あるいは感染動物の血液・体液・皮膚病変(発疹部位)との接触。ヒトからヒトへの感染は稀で、患者の飛沫・体液・皮膚病変(発疹部位)との接触により感染する可能性があります(国立感染症研究所公式サイトより)。米疾病対策センター(CDC)は、「感染者の体液や発疹に触れたり、衣類や寝具などの「汚染された物」を共有したりすることで感染する」としています。
 
 現在出ているニュースの中で、MSM(ゲイ、バイセクシュアル男性、また、自身をストレートだと認識していながら男性とセックスする男性)に言及しているものをピックアップして情報を整理すると、以下のようになります。

 まず、Forbes JAPAN「サル痘、米で今年初の患者 英では市中感染発生か」では、「英国で今月上旬からこれまでに9人の感染が確認されている」「英保健安全保障庁(UKHSA)によると、最近の感染者の大半はゲイやバイセクシュアルの男性だという」と報じられています。「ただ、サル痘自体は性感染症には分類されておらず、感染する場合は通常、粘液などの体液や呼吸器飛沫が感染源になる」
 同様にBUSINESS INSIDER「イギリス保健当局、「サル痘」を緊急調査…スペイン、ポルトガル、アメリカでも感染例」では、英国で15日に確認された4人の感染者はサル痘が流行している国への渡航経験がない一方、4人全員がMSMであることから、UKHSAは性的接触の可能性が高いと見て調査を進めていると報じられています。しかし、同じ記事で、「このウイルスは性的接触によって感染することはないと考えられている」と冷静に否定されています。ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のジミー・ウィットワース教授(国際公衆衛生学)は、「この集団感染の原因として最も可能性が高いのは、皮膚や寝具に触れたり、食器を共有したりといった密接な接触だ。性器や口腔の分泌物を介した実際の性感染を想定する必要はない」と述べています。

 それから、FNN「欧米で「サル痘」感染例相次ぐ…WHO状況を注視」では、「アメリカ・マサチューセッツ州の保健当局も18日、カナダ帰りの男性1人の感染が確認されたと発表し、「男性同士の性交渉による感染リスクがあった」と指摘しています」と報じられています。
 このケースについてCNN「米マサチューセッツ州で「サル痘」の症例確認、スペインや英国でも集団感染」では、ここ2週間でポルトガル、スペイン、英国など、通常はサル痘の症例が報告されていない国で複数のクラスターが確認されていることについてCDCが、「そうしたクラスターの人たちがどのような経緯でサル痘に感染したのかは不明だが、症例の中には男性と性的関係を持ったという男性が含まれる」「世界でのサル痘の症例報告の多くは性的ネットワークの内部で発生している」と述べている、と報じられています。この書き方は、あたかもMSMによる同性どうしの性行為で感染が広がっているような印象を与えてしまいかねないもので、問題があるとの指摘がすでにSNSで上がっています(念のため、CNNの元のニュースにも当たってみましたが、日本語版と同様でした…)
 AFP「10人以上にサル痘感染疑い カナダ」では、記事の末尾で「CDCは「性的指向にかかわらず、誰でも感染させる恐れがある」と強調している」とフォローされていて、MSMへの配慮が感じられます。

 CBC「Monkeypox cases under investigation in Canada as outbreak spreads in Europe, U.S.」によると、モントリオールでサル痘と疑われる患者を診察してきたロバート・ピラスキ医師は、「私は、この病気が、LGBTQコミュニティにさらにスティグマを与えるほど深刻だと思わない――そうならないことを望む」と語っています。
 トロント中央病院の感染症の医師イサク・ボゴフ氏は、「私たちは、エボラウイルスが精液に含まれるからといって、セックスで感染するとは思いません。同じことはジカウイルスにも言えます」「問題は、これがセックスで感染するか?ということです。答えはまだ出ていません。しかし、もちろん、人々の密な接触によって感染していることを知っています。性的なネットワークの中で感染していることは驚くには当たりません」と語っています。サル痘が、発疹に触れたり、ウイルスが付着した衣類やベッドに触ったり、一緒に食事をしたり、様々な「密な接触」によって感染する可能性があるなか、セックスで感染することもそりゃああるだろうけど(体に触れるわけですから)、だからといってサル痘がセックスで感染する病気(性感染症)だとは誰も言わないよね、ということです(コロナもそうですよね)

 
 まだ感染が確認された例は欧州と米国を合わせても数十名で、その中でたまたまMSMが多かったことで焦点が当たってしまっていますが、メディア関係者や世間の方たちには「性的指向には全く関係ない」「性感染症ではない」ということが周知されてほしいです。エイズ禍の時のようなゲイ・バイセクシュアル男性への差別・偏見が広がらないことを願います。


 とはいえ、英国では市中感染が懸念されており、日本で感染が広がる可能性も否めません。今後、万が一、顔や体のどこか(手のひらや足底、性器など)に今まで見たことがないような発疹や病変(ただれた傷や水ぶくれなど)が見られたら、すぐに病院で診てもらうようにしましょう。また、身近で接する人にそのような発疹や病変があるのを発見した場合は、触らないようにして、すぐに病院に行くことを促しましょう。
 コロナなどと同様、誰もがかかる可能性のある病気ですから、ためらわずに病院へ。命に関わるような病気でもありませんし、過剰に怖がる必要はありません。


【追記】2022.5.24
 国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、これまでのエイズ対策の経験を踏まえ、5月22日付けで「サル痘に関する報告および解説の一部で、LGBTIの人たちやアフリカの人たちへのスティグマを強める用語や画像が使われていることにUNAIDSは懸念を表明する。こうした描写は、ホモフォビア(同性愛嫌悪)や人種差別的なステレオタイプの固定化促しスティグマを悪化させる。エイズ対策の教訓は、特定の人口集団に対するスティグマや非難が感染症のアウトブレーク対応を大きく妨げる恐れがあることを示してきた」との声明を発表しました(詳しくはこちらをご覧ください)

 
参考記事:
サル痘、米で今年初の患者 英では市中感染発生か(Forbes JAPAN)
https://forbesjapan.com/articles/detail/47605
イギリス保健当局、「サル痘」を緊急調査…スペイン、ポルトガル、アメリカでも感染例(BUSINESS INSIDER)
https://www.businessinsider.jp/post-254350
米マサチューセッツ州で「サル痘」の症例確認、スペインや英国でも集団感染(CNN)
https://www.cnn.co.jp/usa/35187697.html
欧米で「サル痘」感染例相次ぐ…WHO状況を注視(FNN)
https://nordot.app/899873259958747136?c=516798125649773665
10人以上にサル痘感染疑い カナダ(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3405658

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