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「ゲイと言ってはいけない」フロリダのゲイの高校生が、全米中が見守るなか、ひと言も「ゲイ」と言わずに素晴らしい卒業スピーチを披露しました

2022年05月26日

ゲイと言ってはいけない法」をめぐってフロリダ州を訴えている訴訟の最年少原告であるゲイのザンダー・モリッツが、高校の卒業スピーチをすることになり、学校側から「裁判やLGBTQの権利回復運動に言及したらマイクを切る」と通告されていたため、全米中の注目を浴びていましたが、卒業式当日、ザンダーは「ゲイ」と一言も言わず、見事に権力者や法案を痛烈に批判し、LGBTQの子どもたちを勇気づけるスピーチを披露しました。 

 
 フロリダ州サラソータ郡の公立校「Pine View School」の生徒である18歳のザンダー・モリッツは、「ゲイと言ってはいけない法」をめぐってフロリダ州を訴えている最年少の原告で、SEEイニシアチブという学生の人権団体でディレクターを務めてもいます。同校初のオープンリー・ゲイの学級委員長になったザンダーは、5月の卒業式で生徒代表のスピーチを任されていましたが、卒業式まであと約2週間というところで、「自分は沈黙させられそうになっています。助けを必要としています」とツイートし、全米の注目を浴びることとなりました。
「数日前、校長が私をオフィスに呼び出し、卒業式のスピーチで私の活動や訴訟の原告としての役割に言及した場合、学校管理者は私のマイクを切り、スピーチを終了し、式典を中止する合図を出すと告げました。
 私は学校史上初のオープンリー・ゲイの学級委員長ですが、この検閲は、私を(カムアウトしている生徒としては)最後の学級委員長にすることを望んでいるように思えます。学校側が私のクィアとしての権利を脅したのはこれが初めてではありません。
 私がSay Gay Walkout(※ゲイと言ってはいけない法案に反対する学生たちによる、授業をボイコットしてデモを行なう活動)を組織していることを知った学校側は、私たちのポスターをすべて壁からはがし、抗議行動を中止するよう私に言いました。もし私が言うことを聞かなければ、学校の警備員を送ると言われました。
 けれど私はWalkoutを開催し、結果、この郡で最大の抗議行動となりました。私は脅しに屈しませんし、沈黙もしません。再び反撃する計画があるのですが、今回はあなたの助けが必要です。
 SEEイニシアチブは、「Say Gay」ステッカーを1万枚用意し、フロリダ中の高校3年生に発送する準備をしています。卒業式のガウンに貼って、下級生に『自分たちはもう高校は卒業するが、闘いから卒業したわけではない』という思いを知らせてほしいのです」
 ザンダーのこのツイートは数万回リツイートされ、15万以上のいいねがつき、CNNのニュース番組や米国を代表する朝の情報番組『グッド・モーニング・アメリカ』などが報道し、全米の注目を浴びることになりました。

 そして23日の卒業式当日、ザンダーは演台に立ちました。約7分におよぶスピーチでジョークや感謝の言葉を伝えたザンダーは、スピーチ後半で、「とても公になっている私のアイデンティティについて語る必要があります。このアイデンティティは、私を思うときに最初に頭に浮かぶものだと思います」と言い、そして、「みなさんご存じのように…私は…カーリーヘアです」と語りはじめました。固唾をのんで見守っていた観客席からは、あっけに取られたような驚きが一瞬あり、その後笑いと拍手が起きたといいます。そしてザンダーは、「私は以前、自分のカールが嫌いでした。朝も夜も恥ずかしくて、自分のこの部分を「ストレート」にしようと必死でした。しかし、自分を直そうとする日々のダメージはあまりに大きくなってしまったのです」
 ザンダーはその後、“カーリーヘア”を受け入れて自分らしさをオープンにした状態で学校に通うことにしたと、周囲にはほかに“カーリーヘア”であることを公にしている子どもがいなかったため先生に相談して助けられたという経験や、友達から“カーリーヘア”であることを祝福されたことに助けられ、親に“カーリーヘア”であることをカミングアウトできたと語り、学校で教師や友人たちと“カーリーヘア”についてオープンに語れたことがどれだけ自分の助けになったことか、と語りました。
「(この学校のような)コミュニティを必要とするカーリーヘアの子どもたちは、これからもたくさん出てくるでしょう。でも彼らには今後、このコミュニティは存在しないのです。代わりに、彼らはフロリダ州の高湿度のなかでも生きていけるように、自分を直そうとするでしょう」
「公正と不公正は、私たちの権限下※にあります…あなたが自身の力を無駄に使ってしまえば、最も権力を持つ者に力を与えることになってしまいます。まさに今、最も権力を持つ者が最も権力を持たない者に襲いかかっているのです」

※原文は「Justice & injustice exist under our authority」。authorityは権力、権威、権限、といった意味ですが、続く文では「power」という言葉で区別されているため、力というよりは権限、私たち次第、というニュアンスで訳したほうがよいかと思いました

 ザンダーは『グッド・モーニング・アメリカ』のインタビューで、「マイクを切るという脅しは本物だとわかっていたため、それをさせないつもりでした。ただ、賢くやらなくてはいけなかったのです」と語りました。「しかし、私は(婉曲的表現を)しなくてよい状況にあるべきでした。なぜなら、私は遠回しの存在などではなく、ありのままで祝福されるべき存在なのですから」 


 オープンリー・ゲイの伝説的な俳優であり活動家で、GLAADメディア賞において栄えあるヴィット・ルッソ賞(ゲイやレズビアンの不平等を改善することに最も貢献した当事者に贈られる最高賞)も受賞しているジョージ・タケイは、「なんてパワフルで雄弁なスピーチなんだ。君は僕らみんなに未来への希望を与えてくれた」とコメントし、ザンダーを称えました。
 米女子サッカー界のレジェンドであり、オープンリー・レズビアンのレジェンドでもある(「わたしはオオカミ 仲間と手をつなぎ、やりたいことをやり、なりたい自分になる」という名門女子大学バーナード・カレッジの卒業式での祝辞が絶賛され、も書いた)アビー・ワンバックは、「本当にいい卒業スピーチで感動してる。ザンダーは並外れた偉業を見せてくれた。「ゲイと言ってはいけない」と警告されていたのに、彼は完璧に語ってみせた。ありがとう」とコメントしました。
 アビーの妻で、ニューヨーク・タイムズのベストセラー『Untamed』の著者である作家のグレノン・ドイルも、ザンダーのスピーチの最後の部分を引用リツイートし、「ありがとう、ザンダー」とコメントしています。
 今後も続々と、彼の素晴らしさを称えるコメントが寄せられるのではないでしょうか。



 ロシアのように、フロリダ州のように、日本が「ゲイと言ってはいけない国」になる日が来るなどということは考えたくもありませんが、もし何かのときに同性婚などゲイの権利についての発言を禁じるような圧力が働く場面があったとしたら、ザンダー・モリッツの知恵と雄弁さを思い出し、あきらめずに語り続けたいと思えます。これからも語り継がれるであろう、名スピーチでした。
 
  

参考記事:
卒業スピーチで「LGBTQの人権活動」に触れてはいけないと言われた高校生、ひと言も「ゲイ」と言わずに圧巻のスピーチ(フロントロウ)
https://front-row.jp/_ct/17543341

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