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上司からひどいセクハラを受け続け、「男だから平気だと思った」などと言われ、社に相談するも「(女性とは)重みが違う」と言われたトランス女性が、会社と上司を訴えました

2022年05月28日

 「pixiv」を運営するピクシブ社に勤めるトランスジェンダー女性の社員が、男性上司からセクハラを受けたとして、男性上司および同社に対して慰謝料約555万円を求め、東京地方裁判所に提訴しました。


 訴状によると、トランス女性のAさんは、2018年4月にデザイナーとしてピクシブ社に入社した当日、歓迎会で同社執行役員の男性上司から腰に手を回され、性自認や、これまでの男性・女性との性的経験などについて聞かれ、わいせつな言葉もかけられたといいます。別の機会には「キャバ嬢にしか見えない」「ハプニングバー通いしてそうな顔だ」などという発言も投げかけられました。その年の夏頃には男性上司からセクハラについての謝罪がありましたが、「男だから平気だと思った」「これからはお前を一人の女性として見る」などと言われるなど、トランスジェンダーへの理解を欠く内容でした。謝罪後も、手を握られたうえで性的な質問をする、Aさんの陰部に顔を押し当てるなどのセクハラが続きました(顔を押し当てる際の様子を撮影した写真もあるそうです)
 やまないセクハラに堪えることができなくなったAさんは2019年3月、会社のセクハラ窓口となっている弁護士に被害を相談。会社は、Aさんからの相談・申告を受け、(1)2人の執務フロアを分離する、(2)男性上司を飲み会に一切参加させない、(3)同じ事業部に配属しない、という措置を約束。同年4月には、男性上司は懲戒処分として、執行役員を解任されました。
 しかし、2020年4月からの1年間は同じ事業部に配属される状態になるなど、約束した措置についても徹底されなかったそうです。
 Aさんは2022年1月、精神疾患があるとの診断を受けて休職。4月に復職したものの、精神的損害は大きく、男性上司との慰謝料請求に関する交渉も不調に終わったことから、訴訟提起をするに至ったそうです。

 弁護士ドットコムニュースによると、原告側は、今回のハラスメントを(パワハラ防止法にも規定されている)SOGIハラだと位置付けています。
 提訴前に開かれた会見で、Aさんは「周りにも同様の被害を受けている女性がいて、(会社に)一緒に相談したが、生来の女性と私に対するセクハラでは『重みが違う』と言われ、本当に悔しい思いをした」と語りました。「同じようにセクハラで苦しんでいる人の助けになれれば」
 Aさんは今もピクシブ社にデザイナーとして在職しています。訴訟を提起することにためらいはなかったものの、男性上司だけでなく、会社をも訴えることには迷いもあったといいます。
「真面目に勤めている人も大勢いる状況で、会社まで被告にすることには悩みました」
 SOGIハラで悩んでいる人に伝えたいことを問われたAさんは、「性的マイノリティの方は、なかなか声を上げづらいし、声を上げても理解してもらえない状況にある。『(ハラスメントを受ければ)被害は被害』という認識が広まってくれれば」と語りました。
 原告代理人の仲岡しゅん弁護士は、女性に対するハラスメントについては「やってはいけない」と社会的に認知されてきている一方、トランスジェンダーに対するハラスメントについての認知は不十分だと指摘し、そのうえで、「背景には面白がってやろうとする意図があったのではないか。男性も女性もトランスジェンダーも同じ。相手の性的指向・性自認で、『やっていい』『やっちゃいけない』というわけではない」と述べ、訴訟を通じてトランスジェンダーに対するハラスメントに関する社会的な理解を広めていきたいと訴えました。

 
 このひどいニュースが報道されるや、SNS上では「セクハラじゃなくて性的暴行だろ。民事じゃなく刑事の領分だ。これが数年間まかり通ってたpixivとかいう企業どうなってんだ?」「犯罪じゃん。上司は逮捕」といった怒りの声が広がっています。とある作家さんは、「ピクシブ社のセクハラ提訴を受け、BOOTHで取扱中の作品を一旦全て非公開とさせて頂きました。被害に遭われた方の平穏と、ユーザーが安心して創作を続けられるサービスであるよう願っております」と投稿していました(アライとしての実に誠実で立派な対応。拍手です)。同様に「pixivファンボックスをアカウントごと削除」した作家さんや、ピクシブ社に意見を送った方などいらっしゃるようです。
 ほかにも、「LGBTQが性的な被害を被った時、それが被害として適切に扱われないことが多々ある」「トランスジェンダーであるがゆえに受けやすいハラスメントが存在する」「性的ハラスメントは対象に関わらず、当然等しく加害です。なのにその加害がトランスジェンダーに向けられたとき、暴力の理由は増加し、そして加害そのものが矮小化されている。悔しい」といった、トランスジェンダーが性暴力を受けやすいにもかかわらず、その被害が認められにくい(『重みが違う』などと言われる)ことを問題視する声もたくさん上がっています。
 
 ピクシブ社は、該当の上司の処分だけでなく、法的に防止策を講じることが義務づけられているSOGIハラやセクハラについて、しっかり社内で研修を行なうなどして再発防止に努めていただきたいです。
 勇気をもって訴えたAさんがバッシングを受けたりせず、司法(や法)で守られ、被害が救済されますように。絶対に勝訴となるよう、祈ります。

【追記】2022.6.16
 ピクシブは6月16日、「被害者への心情理解や対応が不十分だった」と謝罪する公式声明を発表しました。
 同社はセクハラ被害を受けた社員に対して謝罪し、「ハラスメントに関して企業としてあるべきいくつかの防止策を講じていた」と釈明。今回の事態を受けて「被害者に対する心情理解や対応が不十分だった。本件に対して真摯に向き合い、誠意をもって対応をしてまいりたい」としました。
 事実関係の確認に加え、社内で原因究明に向けた防止策を検討したことも明らかにしました。「社としてハラスメント行為は絶対に許されない行為」としたうえで、社内外で議論した結果、「性的マイノリティの方をはじめとした多様性を組織として理解・受容し活かすことを意味する『ダイバーシティ&インクルージョン』の概念についての本質的な意味での理解不足が重大な要因であった」との結論に至ったそうです。
「これまで弊社では、LGBT研修の実施、パートナーシップ制度の導入、多目的トイレの利用マナーについての周知などの対応を行なっていたが、今にして考えれば、知識だけの理解と対応にとどまり、本質的な意味での理解と対応が足りず、その結果、声を上げづらい、安心して働くことができない、といった状況を作り出してしまった」 
 今後は外部専門家を招き、多様性への理解推進やマニュアル作成などで、再発防止に努める方針で、「失った信頼は簡単に取り戻せるものではないが、性の多様性を含む様々な多様性があることを前提にした組織づくりと、皆さまに信頼していただける会社を目指して、長い時間をかけて全力で取り組んでいく」としています。
 

参考記事:
「男だから平気だと思った」セクハラ受けたトランス女性、会社と上司を提訴(弁護士ドットコムニュース)
https://www.bengo4.com/c_18/n_14525/

ピクシブ、トランスジェンダー社員へのセクハラ報道で謝罪 「被害者への心情理解や対応が不十分だった」(ITmedia)
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2206/16/news121.html

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