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任天堂が同性パートナーがいる社員を婚姻と同等に扱う社内制度を導入し、SOGIハラやアウティングも明確に禁止しました

2022年07月15日

 ゲーム大手の任天堂は、公式サイトのCSR情報を更新し、同性パートナーがいる社員を婚姻と同等に扱う「パートナーシップ制度」を導入したと公表しました。併せて社内のハラスメントに関する規程を改訂し、性的指向・性自認に関する差別的な発言や、性的指向や性自認を本人の了承なく第三者に暴露するアウティング行為も明確に禁止しました。

「任天堂(日本)は、どのような個性を持つ社員であっても、すべての社員一人ひとりがいきいきと気持ちよく働ける職場環境をつくりたいと考えています。この考え方に基づき、2021年3月に「パートナーシップ制度」を導入しました。この制度は、婚姻関係に相当する同性パートナーがいる社員について、社内制度において婚姻と等しく扱うものです。同時に、事実婚関係にある異性カップルについても、社内制度において、法律上の婚姻と同等に扱うようにしました。また、任天堂(日本)は、以前から社員向けの行動規範において、「人種、民族、国籍、思想、宗教、信条、出身、社会的身分、社会的地位、職業、性別、年齢、障害の有無、性的指向、性自認等による差別や差別につながる言動をしません」と定め、あらゆる差別を禁止していますが、今回のパートナーシップ制度導入に加え社内のハラスメントに関する規程を改訂し、性的指向・性自認に関する差別的な発言や、いわゆる「アウティング」行為を明確に禁止しました。そして、パートナーシップ制度の導入の機会を、多様性を再認識するきっかけとするため、社内ポータルサイトに社長メッセージを掲載し、「悪意のない言動であっても当事者に大きな精神的苦痛を与える可能性がある」ことについて改めて注意喚起し、気持ちよく働ける職場環境づくりへの理解と協力をすべての社員に対して呼びかけました。今後も、社内制度の整備や研修の実施などを通じて、さまざまな個性を持つ社員一人ひとりが最大限に能力を発揮できる環境づくりを続けていきます」
(公式サイトより)

 同性パートナーがいる社員にも結婚祝い金の支給や慶弔休暇などの福利厚生を異性婚と同等に適用する取組みは、2015年の渋谷区の同性パートナーシップ証明制度導入以来、多くの企業で実施されてきています(外資系企業ではIBMやマイクロソフトが、日系企業ではソニーやパナソニックがさきがけとなりました)。PRIDE指標でゴールドの認定を受けている300近い企業がすでに取り組んでいると思われます。そういう意味では、任天堂の取組みは決して早いほうではありません。が、日本有数の企業であり、海外にも大きなシェアを誇る任天堂がついに、ということと、2014年に海外の「トモダチコレクション 新生活」が同性婚できない仕様になっていたことに関するファンからの訴えへの対応で非難を浴びた※ことを思うと、感慨深くもあり、ここで紹介することにいたしました。

※2014年、任天堂の「トモダチコレクション 新生活」が北米でも発売されましたが、海外のロールプレイングゲーム(「ザ・シムズ」など)では同性婚できるのが当たり前になっていたなか、「トモダチコレクション」はできない仕様になっており、アリゾナ州に住むファンが「自分の婚約者のMiiとゲームの中でも結婚したいのに、それができない。自分のMiiか婚約者のMiiの性別を女性に変更するか、結婚という選択肢をあきらめるしかない。仕様を変更してほしい」と訴えました。それに対して任天堂米国法人が「任天堂は『トモダチコレクション』の中で、どのような形での社会的主張も行うことは意図していません。ゲームのリレーションシップオプションは面白い別世界でのもので、現実をシミュレートするものではありません。本作を風変わりで面白いゲームとしてとらえ、そこには何の社会的主張も存在しないことをファンの皆さんに理解してほしいと思っています」と誠意のない回答を行ない、海外メディアはこぞって批判、「任天堂はライフゲーム内に生きる人たちに平等権は認めないと発表」などという見出しが躍り、「任天堂の決定は同性愛者と関連を持つことを嫌っているか、非常に保守的な考えかのどちらかであることを示している」「欧米では重大な過失となって企業イメージの悪化を招くだろう」と先述のファンの方も失望を表明しました。その2日後、任天堂の米国法人は一転して「『トモダチコレクション』に同性の恋愛関係を含まなかったことで多くの人を失望させた」と謝罪しました。技術的に大幅な修正を伴うため「今回は変更は不可能」としながらも、続編を出す場合には「ゼロからデザインし、すべてのプレーヤーをよりよく表現する」と表明しました。続編では同性婚もできるようになる、ともアナウンスされました。

 今回の任天堂の取組みについて認定NPO法人虹色ダイバーシティの村木真紀代表は、「今回の施策は、国際基準からすれば『当然』と言えますが、国内のゲーム会社が発表したという点では大きい意味があります。エンタメの世界では、マスに寄せることで、従業員のマイノリティが苦しさを感じてきた。ゲームの影響力は大きいので、任天堂にはもう一歩踏み込んだ取り組みを期待したいです」と評価しました。
「任天堂のユーザーはLGBTQ+に抑圧的な中国やロシアなどにも多い。それらの国のユーザーを意識しているかもしれませんが、米国や欧州の国際基準から見ると批判を受けるリスクにもなります。グローバル企業としての責任を果たすことを期待しています」
 

 なお、この件を報じた英『Pink News』の記事が興味深かったので、抜粋してご紹介します。
 任天堂の発表は大阪地裁の同性婚を認めないのは違憲ではないとの判決の数週間後に届いた、首相はこの判決についてこう述べている、小池都知事は今年11月に都全体でパートナーシップ制度を導入すると発表している、といった日本の同性カップルの権利保障についての現状が説明されています。
 続いて、海外のLGBTQコミュニティにとって任天堂のゲームがどのような役割を果たしてきたか、について語られます。
「スーパーマリオに登場するBirdetta/Birdo(日本名はキャサリン)は、メインストリームのビデオゲームに初めて登場したトランスジェンダーのキャラクターだと言われている。1988年の「SUPER MARIO BROS.2』のブックレットでは、Birdettaが「自分が女の子だと思っている男の子」だと書かれていて、トランスジェンダーだという示唆として受け取られた。BirdettaはLGBTQのゲーム空間におけるトランス・アイコンとなった」
「任天堂は心からLGBTQを受容し、そのゲーム空間はLGBTQのセーフスペースの役割も果たしてきた。「あつまれ どうぶつの森」のようなゲームは、クィアのゲーマーがそこに出入りしてクィアである自分を安全に楽しむことができた。例えば『クィア・アイ』のボビー・バークなども「あつ森」のファンで、仲間のプレイヤーのためにインテリアデザインについて語るTwitterのスレッドを立てたりしている」
「LGBTQコミュニティは、ドンキー・コングがトランス・アライであるというアイデアも歓迎している。ユーチューバーでトランス活動家のハリー・ブレウィス(別名HBomberGuy)は、トランスジェンダーへのチャリティとして「ドンキーコング64」のプレイのライブ配信を行ない、16万ドルを集めている」
 日本ではたぶんこうした側面はあまり知られていなかったと思うのですが、海外の(ゲーマーも多い)LGBTQコミュニティのメンバーにとって、任天堂のゲームが様々に支援的な役割を果たしてきた様子がうかがえました(なお、この記事では「トモダチコレクション」の炎上の件には触れられていませんでした)
 
 
参考記事:
任天堂、同性パートナーも婚姻と同じ扱いに 「アウティング」も禁止(ITmedia)
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2207/14/news165.html
任天堂、「同性パートナー」および「事実婚関係の異性カップル」を社内制度で法律上の婚姻と同等に扱う「パートナーシップ制度」を公式サイトで紹介(電ファミニコゲーマー)
https://news.denfaminicogamer.jp/news/220713g
任天堂がダイバーシティ施策を強化する意味(オルタナ)
https://www.alterna.co.jp/50666/

Nintendo recognises same-sex partnerships in Japan after court rules equal marriage ‘unconstitutional’(PinkNews)
https://www.pinknews.co.uk/2022/07/13/nintendo-same-sex-marriage-japan/

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