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韓国最高裁が、ソウル市東大門区と施設管理公団が性的指向を理由に団体の体育館使用を拒否したのは差別だと認めました

2022年08月26日

 韓国最高裁が、ソウル市東大門区と東大門区施設管理公団が性的マイノリティ団体の体育館使用を取り消したのは「性的指向などを理由にした差別行為」に当たるとして損害賠償請求を認める判決を下しました。
 

 性的マイノリティ人権団体「クィア女性ネットワーク」は2017年、クィア女性のスポーツ大会を開くため、東大門区体育館を借りる予約をしていましたが、性的マイノリティの行事であるという理由で苦情が来たことを理由に、東大門区施設管理公団が行事の約1ヵ月前になって、「体育館の天井の工事をしなければならない」などとして取消しを通知しました。その過程で公団関係者が団体側に「良風美俗を害する恐れがある」という趣旨のことを話しています。これに対し、同団体の活動家たちは「体育館の使用取消しは、大会の目的および参加者たちの性的指向を理由にしたもので、性的指向などを理由にした差別に当たり違法である。貸館許可取消しにより平等権および集会の自由が侵害された」として、2020年に損害賠償請求訴訟を起こしました。
 一審は体育館貸館取消しは違法だとしながらも、これによる損害が発生したとは言えないとし、原告敗訴の判決を下しました。しかし、二審は、原告の主張を大部分認めました。控訴審の担当法廷は、「貸館許可取消しは性的指向などを理由とした差別行為であり、団体に対する差別であるだけでなく、スポーツ大会の開催・準備者および予想される参加者に対する差別でもある。したがって、貸館許可取消しにより団体と活動家の平等権がすべて侵害された」とし、それにともなう損害賠償責任も認めました。
 そして最高裁は8月19日、審理不続行棄却で二審を確定しました。審理不続行棄却とは、原審に重大な法令違反など特別な理由がなければ最高裁が本案審理なしに上告を棄却する制度です。

 訴訟に参加したパク・ハンヒ弁護士(希望をつくる法律)は、勝訴を伝えるとともに、「韓国社会に蔓延している公共機関の性的マイノリティ差別に警鐘を鳴らすための訴訟だった。長い裁判を経て、最高裁で最終的に意味ある判決を受けたが、今後も差別に立ち向かってすべての領域での平等を達成するために闘い続ける」と表明しました。

 このニュースを聞いて「府中青年の家」裁判を思い出す方もいらっしゃるかと思います。韓国では、先月ソウルで開催されたプライドフェスティバルとパレードが、「開かれた広場運営市民委員会」の委員の苦情によって6日間で申請していたソウル広場の使用期間がたった1日にされるなど(詳細はこちら)、行政や公共機関が性的マイノリティの権利を守ってくれず、アンチ勢力に押され、差別を容認してしまうような事例が相次いでおり、今回の裁判は、そのようなLGBTQ差別に釘を刺すねらいがあったということで、今回の勝訴によって、そういう差別事案が減っていくことが期待されます。よかったですね。



 最高裁の判決といえば、今年4月、最高裁は、軍人が私的空間で合意の上で同性どうしで性関係を結んだとしても軍刑法で処罰できないとする判断を下しています。
 2017年、陸軍普通軍事法院(軍事裁判所)が、私的空間で業務上関連のない、合意された相手と性的関係をもった同性愛者の軍人A大尉に禁錮6ヵ月の”有罪”を宣告したというニュースをお伝えしていました(詳細はこちら)。憲法裁判所は2016年、軍刑法の醜行罪(「肛門性交その他の醜行をなした者は、2年以下の懲役に処す」)を合憲だと判断しています。
 最高裁は、「私的空間で自発的な意思によって行われる性行為が、軍という共同社会の健全な生活と軍紀を直接的、具体的に侵害したとは考えにくい場合には、軍刑法の当該規定は適用できない」として、軍刑法上の醜行容疑で起訴されたA氏らに有罪を言い渡した原審を破棄し、事件を高等軍事裁判所に差し戻しました。最高裁判事は、「同性間の性行為が客観的に見て一般人に性的羞恥心や嫌悪感を生じさせ、善良な性的道徳観念に反する行為だとする評価は、この時代の普遍妥当な規範として受け入れ難くなっている」「私的空間において自発的合意にもとづく性行為をしたケースを処罰することは、合理的な理由なく、軍人であるという理由のみで性的自己決定権を過度に制限するものであり、憲法上保障された平等権、人間としての尊厳と価値、そして幸福追求権を侵害する恐れがある」とも述べました。
 A氏らを支援してきた軍人権センターのイム・テフン所長は、「大韓民国から、同性間で合意された性関係を処罰する悪法がなくなることになった。憲法裁判所も早期に同法に対して違憲を決定し、不当な差別により前科のついた性的マイノリティ軍人が名誉を回復する機会を作るべきだ」と語りました。

 (どこかの国とは異なり)最高裁が差別は差別だときちんと正当に判断し、人権の砦として機能しているのは素晴らしいことです。まだまだ差別が激しい韓国社会ですが、こうした最高裁の判決が、LGBTQの権利擁護を下支えし、当事者の生きづらさの解消につながることが期待されます。
 



参考記事:
韓国最高裁、性的マイノリティ団体への貸館拒否に「損害賠償」…差別禁止の道しるべに(ハンギョレ)
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/44387.html
韓国最高裁「私的空間で同性軍人の『合意の上での性関係』、処罰できない」(ハンギョレ)
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/43227.html

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