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法的性別変更に不妊手術を必須とする現行法について最高裁大法廷が改めて憲法判断へ

2022年12月07日

 トランスジェンダーの方が戸籍上の性別を変えるために生殖機能を失わせる手術を要件の一つとする現行法の規定が憲法に違反するかどうかについて最高裁が7日、裁判官15人全員で審理する大法廷(裁判長:戸倉三郎長官)で判断することを決めました。2019年には最高裁の小法廷が「現時点では合憲」と判断しましたが、「憲法違反の疑いが生じていることは否定できない」という補足意見もつきました。今回、改めて憲法判断が示されることになります。
 

 2003年成立、2004年施行の性同一性障害特例法は、性別変更の要件として「18歳以上」「未婚であること」「未成年の子がいない」などとともに「生殖腺や生殖機能がないこと」を定めています。しかし、国際社会では、性別変更に当たって卵巣や精巣を摘出する性別適合手術を必須要件とするのは不妊(断種)の強制であり、人権侵害であると見なされるようになっています(2014年にWHOなどが廃絶を求める共同声明を出し、2017年には欧州人権裁判所が欧州人権条約に違反すると裁決しています)。先日のトランスジェンダー国会でも杉山文野氏が「自分が体さえ切れば戸籍性を変えられる…という強迫観念に苛まれて手術を受けてしまう人も少なくない」ということや、ご自身のパートナーの方の親御さんに「手術を受けて戸籍性を変えたら結婚を認める」と言われた(手術かパートナーかを迫られた)経験を語っていましたが、これまで多くの当事者、GID学会などの団体、有識者の方たちが不妊手術の強制をやめるよう訴えてきました。
 
 今回の裁判の申立て人はトランスジェンダー女性の方で、「体の危険を伴う外科手術を強制するのは性同一性障害者への不合理な差別だ」として、個人の尊重を定めた憲法13条、法の下の平等を定めた憲法14条に違反すると家裁に申し立てていました。一審の岡山家裁、二審の広島高裁岡山支部は、手術を受けていないことを理由に性別変更を認めませんでした。申立て人の方は手術が必要な特例法の要件は違憲だとして特別抗告していました。これを受けて今回、最高裁第一小法廷(深山卓也裁判長)は、審理を大法廷に回付しました。
 別の申立人に対する2019年の第二小法廷の決定は、手術要件について「変更前の性別で子どもが生まれれば、親子関係の問題や社会の混乱を生じさせかねない」などとして、「現時点では合憲」と判断しました。ただし、社会状況の変化に応じて判断は変わりうるとし、「意思に反して身体を冒されない自由を制約する面は否定できない」と指摘し、手術を要件とすることには「不断の検討を要する」とも述べています。2人の裁判官は「憲法違反の疑いが生じていることは否定できない」という補足意見も述べました。
  
 戸籍の性別を変更すること自体は20年も前に認められていて、ただ法的性別変更に課された要件が(当時はともかく今となっては)人権侵害と見なされるような重大な問題となっている、健康上のリスクを冒して手術に臨む人もいるし、手術をあきらめたり拒んだりして望む性を生きられない当事者の方たちも多く、身分証と見た目の性別が異なることで生活に支障をきたしたり、苦しんだりしている現状がある、それは憲法で保障されている「個人の尊重、生命、自由及び幸福追求の権利(13条)」や「法の下の平等(14条)」に照らしてもおかしいのではないか、であれば、この要件を見直し、当事者が苦しみを解消し、自身が生きたい性を生きられるように保障すべきだという話です。
 最高裁大法廷が違憲と判断し、現行法改正に道筋をつけてくださることを願います。
 
 なお、当事者団体や有識者の方々は、手術要件だけでなく、子なし要件(未成年の子がいると性別変更できない。この規定があるのは日本だけ)、未婚要件(結婚している人が性別変更するためには離婚しなくてはならない)についても改正を求めていますが、今回審理されるのは手術要件だけになります。
 
 
 
参考記事:
性別変更要件“生殖機能なくす手術必要”最高裁大法廷が改めて憲法判断へ(日テレ)
https://news.ntv.co.jp/category/society/b2b8a37fab824a3b9e59435076ca5697
性別変更に必要な手術の要件 改めて憲法判断へ 最高裁が大法廷で審理(テレ朝)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000278906.html
性別変更要件 最高裁大法廷が憲法判断へ(読売テレビ)
https://www.ytv.co.jp/press/society/177579.html
性別変更手術、憲法判断へ 最高裁、判例変更の可能性(共同通信)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/218562
適合手術要件、憲法判断へ 性別変更規定巡り大法廷に 最高裁(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022120700901
性別変更に手術の必要性、憲法判断へ 最高裁(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF07B0H0X01C22A2000000/
性別変更条件、憲法判断へ 最高裁大法廷 「手術要件」焦点に(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20221208/ddm/041/040/105000c
「性別変更に手術必要」、最高裁大法廷が憲法判断へ 19年は合憲(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASQD76CVMQD7UTIL017.html
性別変更「手術要件」の合憲性、最高裁大法廷が改めて判断へ…社会状況の変化踏まえ(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20221207-OYT1T50184/

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