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大河ドラマ『べらぼう』第2話で平賀源内が「男一筋」だと語る場面が描かれ、話題になりました

2025年01月16日

 貸本屋から始まって“江戸のメディア王”にまで成り上がった蔦屋重三郎の波乱万丈の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK総合ほか)第2話で、平賀源内が「男一筋」だと語る場面が描かれました。


 平賀源内と言えば、日本史の教科書にも登場し、エレキテルや土用の丑の日で知られています。本草学者、地質学者、蘭学者、医者、殖産事業家、戯作者、浄瑠璃作者、俳人、蘭画家、発明家など、様々な顔を持ち、“江戸のレオナルド・ダ・ヴィンチ”とも称されるほど、マルチな才能で活躍した人物です。

 一昨年、たいへんな評判を呼んだNHKのドラマ『大奥』も手がけた森下佳子さんが脚本を書いた『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』。1月12日に放送された第2話では、こんなくだりが描かれました。
 重三郎が案内本の序文を平賀源内に執筆してもらおうと考え、源内を探して江戸市中を奔走し、町の片隅で出会って顔なじみだった男に源内を探していとを告げます。するとその男は「会わせてやるよ」と答え、吉原へ連れて行ってほしいと言いました。「貧家銭内」と名乗るその男を、重三郎は吉原の松葉屋に案内しましたが、銭内が一向に源内に会わせようとしないため、不信感を募らせます。すると、ひょんなことから「銭内」と名乗っていたこの男が平賀源内だったことがわかります。呆れる重三郎に対して源内は苦笑いしながら謝罪、改めて重三郎は源内に序文の執筆を依頼しますが、源内は「真面目な話、俺じゃねえほうがいいと思うんだけどなぁ」「あのさ、俺、男一筋なのよ」と言います。すると重三郎は、うっかりしていたと言わんばかりの表情で「あ…」と声をもらし、源内は爆笑しながら「その顔は忘れてたね?」と言い、重三郎は「はぁ~そうだ…平賀源内っていやぁ有名な男色じゃねえかよ」と返すのです。

 このシーンに対してSNSでは「平賀源内って男色だったのか」「知らなかった」「男女逆転大奥でも源内は女性で女性の恋人がいたね」「大奥の漫画で見たやつ、史実だったんだ」といったコメントが上がったそうで、いろんなWebメディアでも取り上げられています。

 さらに、日本史テーマのWebメディアでも、この放送が話題を呼んだことを受けて、源内が芳町(現在の日本橋人形町付近)の陰間茶屋※2に足繁く通っていて、陰間茶屋を紹介した『江戸男色細見』や陰間の評判記である『男色品定』を書いたことや、女形の二代目瀬川菊之丞を愛していたこと(『べらぼう』第2話でも菊之丞の生前の姿を思い出して源内が涙を浮かべるシーンもありました)など、源内の男色※1をめぐる史実が次々に記事になっています。
 源内は菊之丞が登場する『根南志具佐』という男色の戯作(洒落本、滑稽本、草双紙などの通俗小説)も書いており、それは、とある僧侶が美貌の女形・二代目瀬川菊之丞に夢中になり、貢ぐために悪事を働き、地獄へやってくるが、僧侶が後生大事に持っていた瀬川の姿絵に閻魔大王も一目惚れしてしまうというお話なのですが、なんと、『べらぼう』第1話では重三郎が病床の遊女・朝顔に『根南志具佐』を読み聞かせる場面が描かれました(そのことが源内登場の伏線になっていたようです)
 
※1 男色:ここで同性愛と書かないのは、男色が現代の同性愛とは似て非なるものだからです。男色とは、古代ギリシアのそれと同様、年長者が年少者を庇護・寵愛するもので、性的指向とは関係なく、男性であれば当然する「行為」でした(また、男色が行なわれていたのは女性を抑圧する男社会であったということにも注意が必要です)。世の中には専ら同性に惹かれる同性愛者という人たちがいるということが(性倒錯的な)概念として欧州で成立したのは19世紀になってからです。そういう意味では、ドラマのように源内が「男一筋」の「男色家」というアイデンティティを持っていたかどうかは疑問です。

※2 陰間茶屋:陰間とは歌舞伎の女形の修行中で舞台に立つことがない(陰の間の)少年のことで、陰間が男性客相手に春を売るのは女形としての修行の一環と考えられていました。ただ、実際は、女装ではない男性の姿のままの男娼が多くを占めていたそうです。上方では「若衆茶屋」「若衆宿」と称されていました。


 様々な漫画でも明らかにされているように、日本では神話の時代から連綿と男色や異性装が見られました。特に寺院や武家社会、歌舞伎のような男性のみで構成される社会においては、念者(年長者)が稚児や喝食、小姓、若衆を寵愛する男色文化が特徴的に見られました。武家社会においては、主君と小姓の契りは(森蘭丸が織田信長を命がけで守ろうとしたような)衆道と呼ばれる崇高で精神的な「道」へと昇華していきました。少なくとも江戸時代以前は男色は当たり前のことであり、現代のような同性愛に対する蔑視や差別はありませんでした。
 しかし、男色は明治期に禁じられ、大正期にクラフト=エヴィングの『変態性欲心理』や日本の研究者による『変態性欲論』の影響で同性愛は異常・精神疾患であると見做され、戦後も性倒錯であるとの見方は変わらず、教科書等では注意深く男色の史実は伏せられ(隠蔽され)ました。
 ですから、今回のように、大河ドラマのなかで男色に言及され、世間の人たちに史実が伝わったことや、関連の記事でいかに江戸時代に性が大らかに享受されていたかが広く知られることには意味があると言えます。

  
 


参考記事:
『べらぼう』“源内”安田顕の告白に視聴者ビックリ「知らなかった…」「有名な話なの?」(クランクイン!)
https://www.crank-in.net/news/159566/1
大河「べらぼう」源内(安田顕)の“想い人”瀬川役に注目集まる 幻の2ショットに反響「まさかの」「どうりで所作が美しいと思ったら…」(モデルプレス)
https://mdpr.jp/drama/detail/4472592
大河「べらぼう」 平賀源内(安田顕)「男一筋」で蔦重(横浜流星)ピンチ!「逆転大奥でも同性の恋人が」「漫画で見たやつ、史実だったんだ」(イザ!)
https://www.iza.ne.jp/article/20250112-RZPBEW4GAFAYRG7O2MTEGE7YLI/
『べらぼう』第2話 男一筋・平賀源内を涙させた“花の井”の見事な機転にX「これこそ花魁の実力」「最高の色気」(AllAbout)
https://news.allabout.co.jp/articles/o/89031/
江戸の奇才・平賀源内が早速登場… 吉原との関係に胸が締め付けられたワケ。 NHK大河ドラマ『べらぼう』第2話考察レビュー(映画チャンネル)
https://eigachannel.jp/drama/107373/

大河ドラマ『べらぼう』平賀源内が瀬川菊之丞を登場させたBL戯作『根南志具佐』とは? 閻魔大王が美しき女形に一目惚れする愛憎物語(歴史人)
https://www.rekishijin.com/41178
大河ドラマ『べらぼう』平賀源内と歌舞伎役者らの艶めかしい関係 陰間茶屋で男娼として性を売った美少年たち(歴史人)
https://www.rekishijin.com/41238
大河『べらぼう』で男色家・平賀源内が愛した実在の女形・瀬川菊之丞はお江戸のインフルエンサー(Japaaanマガジン)
https://mag.japaaan.com/archives/238877/3

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