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LGBT法連合会など3団体が会見し、LGBT差別禁止法などの法整備を訴えました

2023年02月07日

 荒井前首相秘書官の差別問題について2月7日、LGBT法連合会、一般社団法人「Marriage For All Japan -結婚の自由をすべての人に」、国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の3団体が厚生労働省で記者会見を開き、当事者の尊厳を傷つけ、差別を助長する問題発言だとして、あらためて抗議し、日本が議長を務める今年5月のG7広島サミットまでにLGBT差別禁止法などの法整備をするべきだと訴えました。MFAJは6日に同性婚の法整備などを求める要望書を提出しています。LGBT差別禁止法、婚姻平等(同性婚)、性同一性障害特例法の改正または新設という3つの法整備を求めるオンライン署名も行われており、本日21時時点で4万筆超に達しています。
 
 会見では、荒井前秘書官の発言を受けた当事者のコメントが紹介されました。
「いつ自分が『見るのも嫌だ』という言葉で突然傷付けられるのかと、外に出るのも怖くなりました」
「総理がおっしゃった『社会が変わってしまう』というお言葉はとても重かった」
「学校や職場で、荒井元秘書官のような差別発言を聞いては、顔では笑いながら、心は切り裂かれていました」
「一番多いのは諦めの声。私たちが普通に暮らしていくのはやはり難しい」
 
 こちらの記事でもお伝えしたように、当事者団体は以前からLGBT差別禁止法の必要性を訴えてきました。しかし、与党が議員立法に向けて動いているのはLGBT理解増進法です。「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されない」と明記した罰則規定がない理念法で、LGBTへの理解を推進する啓発の内容にとどまるものです。(2/21訂正:LGBTQコミュニティや野党が推している差別解消法も刑事罰を科すような規定はありません。なぜ「理解増進」ではダメなのかについては、こちらの記事が決定版だと思いますので、ご覧ください)
 LGBT法連合会理事の安間優希さんは会見で「差別があったこのタイミングで差別を禁止するという形にしないのは、たいへん理解に苦しみます」と訴えました。
 署名立ち上げ人の一人である一般社団法人『fair』代表理事の松岡宗嗣さんは、「理解という言葉がどういう内容なのか考えた時に、今の政府の状況では明らかに性的マイノリティに対する適切な理解よりも、差別的な認識が広がってしまうと感じます」「差別発言があったうえでの立法の議論なのに、禁止を入れないというのは、差別をしたいと言っているようなものだと思います」と語りました。
 MFAJの上杉崇子理事は、「政府や国会が社会の変化から目を逸らし続け、このような人権侵害を続けることを断じて見過ごすことはできません」「首相秘書官という政府高官による差別発言があったことで、日本が性的マイノリティの人権を顧みない国であることが諸外国に知れ渡った」「まだまだ理解が進んでいない、まずは理解から、理解を増進すべきだ。そこばっかりに囚われて、そこで止まる。婚姻の平等の法律は先延ばしにされるだけ」と訴えました。
 ヒューマン・ライツ・ウォッチの土井香苗日本代表は、「G7の中でも日本の法整備はきわめて遅れており、ほとんどない状況です。同性婚も差別禁止法も、市民社会の要求に反して作ってこなかった。こういったこと自体が問われているのであって『包摂的な社会を実現する』という政府の方針は、そういうものがほぼ見えない状況ですし、法律がないことが問われている」と訴えました。
 LGBT法連合会は、3つの法のなかでも性的指向や性自認に関する差別的取扱いを禁止するLGBT差別禁止法があれば、性的マイノリティが直面する学校でのいじめや雇用差別の問題の解決、当事者に多いといわれる自死の未然防止などが期待できると強調しました。また、LGBT法連合会事務局長の神谷悠一さんは、「思いやりで守られるのではなく、かわいそうと思われなくても、法によって守られるのが人権」だと述べ、G7の7ヵ国の中でLGBT差別禁止法や同性カップルの法的保障がないのは日本だけであることに言及し、「法律の状況について各国のチェックリストを作りましたが、仮にG7広島サミットまでにこの理解増進法ができたとしても、このリストにチェックがつくことはないと思います。しっかりと人権を守る法整備をしていくべきです」と語りました。
 
 また、会見では、自民党の西田昌司政調会長代理が本日、LGBT理解増進法案に関して「かつて人権擁護法案やヘイトスピーチ禁止などが議論されてきた。進める人は禁止規定や罰則と言う。それは社会分断させてしまうのでよくない」と発言した件についても言及されました。TBSの報道によると「全体を見てやらないと、その法律がまた逆に違う問題に呼応していく。LGBT問題で、世の中を分断させる道具にさせてしまうと良くない。そうならないようにするということ」と語っています。
 松岡宗嗣さんは、「理解増進法の内容にすら反対するのは、荒井秘書官と同じ認識。政府は率先して差別を広げている」と批判しています。
 西田氏は2021年のLGBT理解増進法の党内での議論の際に「(性的少数者の当事者も非当事者も)お互い我慢して社会を守る受忍義務がある」「こうした“道徳的な価値観”を無視し、差別があったら訴訟となれば社会が壊れる」と発言した人物です(詳細はこちら
 西田氏がLGBTQについて語った動画では、“レズ”という蔑称を用い、トランスジェンダーという名称も言えない、「マイノリティを守ってあげるということを強力にやってしまうと、むしろ毒になってしまう」「社会が窮屈になる」という主張がなされていて、非難の声が上がっています。
 

 首相秘書官差別発言をめぐる新聞各紙の社説も引き続き上がっています。まとめてご紹介します。
 
 東京新聞「<社説>首相秘書官更迭 差別解消、法整備で示せ」では、「問われているのは首相自身の人権意識だ。多様性を尊重するというなら、差別解消に向けた法整備にこそ指導力を発揮すべきではないか」「同性婚法制化で国を捨てる人の行く先はG7には存在しない。法制化で「社会が変わってしまう」との認識こそ変える必要がある」「自民党は2021年秋の衆院選で公約した理解増進に向けた議員立法を、昨夏の参院選で公約から削除するなど、世界的な潮流からは完全に孤立している」「首相自身や政府・自民党が差別解消に後ろ向きな姿勢を変えない限り、丁寧に説明したところで意味がない」など、厳しく批判されています。

 信濃毎日新聞「〈社説〉秘書官差別発言 官邸の人権意識を問う」は、「荒井氏は「(同性婚には)秘書官室は全員反対」と述べている。官邸の日常感覚が表れたとも受け取れる。共通するのは人権意識の薄さだ。昨年8月に杉田氏を総務政務官に、梁氏を文部科学副大臣に起用したのも同様である」と指摘し、「日本はG7議長国として、国際的な公約を果たしていない。差別解消に向け、政府は具体的な取り組みを始めるべきだ」と結んでいます。

 京都新聞「社説:首相秘書官発言 政権の人権意識を疑う」では、「岸田文雄政権の人権意識が欠如している表れではないか」「岸田氏は「内閣の考え方に全くそぐわない」と非難したものの、むしろ根底に同じ認識があるのではないかと疑う」「不快な思いをした人に対して謝罪し、「丁寧に内閣の姿勢を説明する」としたが、口先だけでなく答弁の真意を明らかにすべきだ」と述べられています。

 西日本新聞「同性婚差別発言 政権の「看板」に偽りあり」では、「(荒井秘書官は)同性婚制度が導入されたら「国を捨てる人は結構いる」とも語ったという。ゆがんだ認識で全く理解できない」「国際社会での日本の異質性を一段と際立たせる発言である」といった批判から、「同性婚は親子関係や相続などの制度に絡むが、誰もが幸福を追求できる社会をつくる上で必要な変化だ。国民意識は既に変わりつつある」「首相答弁の「変わってしまう」の「しまう」からは、同性婚の制度化に否定的な姿勢しか伝わってこない」「まずは差別意識に苦しむ当事者に向き合い、自身の無理解を正してもらいたい」と、同性婚実現を求める主張が展開されています。

 神戸新聞「社説 首相秘書官更迭/政権の差別意識あらわに」では、「最側近によるあからさまな差別発言は、政権の体質と首相自身の人権感覚を疑わざるを得ない深刻な事態だ」と指摘され、「日本の法整備の遅れは明らかだ。5月にあるG7広島サミットの参加国で同性パートナーへの法的保障がないのは日本だけだ。自治体では同性カップルを公認するパートナーシップ制度の導入が広がり、同性婚を巡る訴訟でも法整備を促す判断が相次ぐ」「多様な価値観を認め、差別のない社会に変えていくのが政治の役割ではないか。任命責任を感じると言うなら、首相はまず自らの姿勢をただす必要がある。性的少数者への差別を禁じ、同性婚を認める法整備に踏み出す機会とすべきだ」と述べられています。
 
 福井新聞の論説「首相秘書官の差別発言 更迭だけでは済まされぬ」では、「岸田政権の人権感覚が問われたのは今回だけではない。昨年の内閣改造で過去に性的少数者を「生産性がない」などと述べていた杉田水脈衆院議員を総務政務官に任命したが、結局、更迭に追い込まれた。そんな人権意識の持ち主を要職に起用する首相の判断を目の当たりにしていた荒井氏は何を学んできたのか」と指摘され、「「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と首相は述べたが、「社会は既に変わってきている」との認識を持ち、選択的夫婦別姓問題などを含め、自身と政権の姿勢を改めるべきだろう。G7の議長国として大きく傷ついた対外的なイメージを払拭するくらいの大なたを振るう必要があろう。少数者を守るのは政治の要諦であり、差別や偏見に毅然と立ち向かう覚悟と行動が首相に求められている」と結ばれています。

 
 こうして見ると、もはやLGBTQ団体が述べている内容と、新聞社の社説が主張している内容にほとんど差がないことがわかります(時代はここまで進んだのです)。G7サミットまでに差別解消法や同性婚の法整備をすべきだとの世論の流れが確実に形成されています。この声が政権に聞き入れられることを願います。
 
 

参考記事:
性的マイノリティー当事者らが法整備など訴え 前首相秘書官の差別的発言など受け(日テレ)
https://news.goo.ne.jp/article/ntv_news24/nation/
ネックは「差別禁止」 “LGBT法案”自民党内に温度差 G7までに…総理急ぐ(テレ朝)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000286641.html
「顔は笑い心は切り裂かれた」LGBT当事者らが総理秘書官の差別発言受けて緊急会見(毎日放送)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/316884
性的少数者への差別禁止を 支援団体、法整備求め会見(共同通信)
https://www.47news.jp/8912236.html
LGBTQ当事者「荒井元秘書官と一緒」 法案反発の保守系議員を批判(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230207/k00/00m/010/201000c
「G7で法整備されてないのは日本だけ」LGBT支援団体が政府に差別禁止など早急な対応要請(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/229863
いつまでも「差別禁止」の法整備をしない自民党。「差別をしたいと言っているようなもの」と有識者(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_63e1eebde4b04d4d18eeac89
「G7で日本だけ、性的マイノリティ守る法律ない」 首相秘書官の差別発言めぐり当事者支援団体が抗議(弁護士ドットコム)
https://www.bengo4.com/c_23/n_15633/
LGBT支援団体、サミットまでに政府に法整備要求「一般社会との乖離を見ようとしていない」(日刊スポーツ)
https://news.goo.ne.jp/article/nikkansports/nation/f-so-tp0-230207-202302070001009.html

<社説>首相秘書官更迭 差別解消、法整備で示せ(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/229754
〈社説〉秘書官差別発言 官邸の人権意識を問う(信濃毎日新聞)
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2023020700115
社説:首相秘書官発言 政権の人権意識を疑う(京都新聞)
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/968841
社説 同性婚差別発言 政権の「看板」に偽りあり(西日本新聞)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1050561/
社説 首相秘書官更迭/政権の差別意識あらわに(神戸新聞)
https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202302/0016028587.shtml
首相秘書官の差別発言 更迭だけでは済まされぬ(福井新聞)
https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1721215

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