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米最高裁がトランス女子の中学生が陸上の女子チームに参加することを認め、バイデン政権は自認性でのチーム参加を一律に禁止することを規制する案を発表しました

2023年04月07日

 米連邦最高裁が4月6日、トランス女子生徒が陸上の女子チームに参加することを一時的に認める判断を示しました。また、バイデン政権は同日、トランスジェンダーの生徒が学校でスポーツに参加する際、自認性でのチーム参加を一律に禁じてはならないとする規制案を発表しました。


 ウェストバージニア州の中学生、ベッキー・ジャクソンさん(12歳)は小学校4年の頃から女性として生活し、名前も変更し、第二次性徴の発現を防ぐホルモン療法も受けてきました(つまり、体格的にも女性と大差ありません)。しかし、ウェストバージニア州ではトランス女子生徒が女子チームに参加することを禁止する州法があり、ベッキー・ジャクソンさんはこれに異議を唱えて連邦地裁に提訴していました。連邦地裁は、「彼女はトランスジェンダーの中学生の少女で、この時期は人生の中で思い出深く重要だ」と指摘し、「社会の『性別二元論』に当てはまる人たちだけでなく、その枠の外にいる人たちのユニークな違いを祝福することには公共の利益がある」と強調しましたが、「一部の女性は男性を上回ることができるかもしれないが(生物学的な)男性は女性を運動面で上回ることが一般的に認められている」などとして、最終的に州法を容認しました。
 ジャクソンさん側は控訴し、連邦控訴裁は、審理の期間中は州法の履行を一時的に停止するよう命じました。州側は、ジャクソンさんの女子チーム参加によって他の少女たちが不利になる懸念を指摘し、最高裁に控訴裁の決定を覆すよう仮処分を申請していました。そして最高裁は6日、州側の申請を却下しました。これにより、州法の履行の停止が継続し、ジャクソンさんは女子チームへの参加を妨げられませんが、実質的な審理は控訴裁で続けられます。
 米連邦最高裁は昨年、中絶の権利を覆して世界に衝撃を与え、次は同性婚だと判事の一人が名指すなど、反動的な姿勢が目立っていました。それだけに、今回の裁定は少々意外でした。そんな保守的な最高裁ですら、トランス女子中学生が学校でのスポーツ参加を禁じられるのはさすがにひどい、不平等が過ぎると判断したということなのではないでしょうか。
 
 同じく6日、バイデン米政権はトランスジェンダーの生徒が学校でスポーツに参加する際、生徒が自認する性別のチームに入ることを一律に禁じてはならない、とする規制案を発表しました。ただし、高校や大学での競争の激しい競技では、学校による規制も許されるという見解も示しました。規制案は連邦政府の教育省が発表したもので、30日間にわたり、パブリックコメントを受け付けます。
 規制案では原則として、連邦政府の資金を受ける学校については、トランスジェンダーの生徒が性自認に沿ったチームに参加することを「全面的に禁じる」ような画一的方針をとることは認めません。ただし「競技の公平性」や「ケガの防止」といった観点から、スポーツの種類やレベル、学年に応じて柔軟な規制を学校が定めることは容認します。小学生のうちは自認性と一致するチームに入ることに一般的には問題はないが、高校や大学レベルで競技上の勝敗が特に重視される状況のもとでは、トランスジェンダーの一部の生徒の参加を制限する基準を設けることも認めるそうです。
 
 

 米国では1972年に制定された法律で、教育における性差別が禁じられていますが、トランスジェンダーの生徒のスポーツ参加については法で明確に定める基準はありませんでした。
 バイデン大統領は2021年1月の就任直後、職場でのLGBTQ差別を禁じる大統領令を発しましたが、住居や公共の宿泊、教育など広い範囲でLGBTQ差別を禁止するためにはイクオリティ・アクト(平等法)の制定が必要だったため、同年2月、同法案を下院に提出し、賛成多数で可決されました。が、(共和党議員の反対によって成立が難しいと判断される)上院ではまだ可決には至っていません。3月にはすべての児童・生徒に性別、性的指向、性自認に基づく差別をなくすような教育環境を保障することを教育省に求める大統領令を発し、6月には教育省が、学校でのトランスジェンダー生徒のスポーツ参加を支援する方針を発表しました。
 しかし、連邦法であるイクオリティ・アクト(平等法)が未だ成立に至っていないため、ウェストバージニア州のように、州法でトランス女子生徒が女子スポーツ競技に参加することを禁じる差別的な州法が成立してしまうと、その州の当事者の生徒は、いかに女子として周囲に認められていてもスポーツ競技には参加できなくなるという不条理に見舞われることに…。全米にそうした州が20州もあります(多くは共和党が優勢な保守的な州です)
 
 米国では2015年6月、米国全土での婚姻の平等(同性婚)が認められると、それまで「伝統的な家族観と相容れない」などとして同性婚実現を強硬に阻止しようとしていたアンチLGBTQ(主として宗教保守)の人たちが矛先をトランスジェンダーに変え、攻撃を始めました。
 オバマ大統領は公立学校でトランスジェンダーの生徒が自認性に基づいてトイレや更衣室を使用することを認めるよう求める通達を出していましたが、2017年1月に就任したトランプ大統領はすぐにこれを撤回し、7月にはトランスジェンダーの従軍を禁止すると述べ、翌年には性別変更を禁じる法案を準備し、トランス女子の学生が女子競技に参加することは女性の活躍の機会を奪うことになるとしました。トランスジェンダーへの直接的な暴力も激化し、2020年には40名超が殺害され、史上最悪となっていました。
 こうしたトランプ政権下でのトランスジェンダーへの差別や暴力、排除が激化した流れのなかで、2019年、複数の州で、トランス女性の生徒が女子として競技に参加することを禁じる法案が可決されてしまいました。
 アンチ派がたびたび槍玉にあげるのが、2017年に開催されたコネチカット州の陸上大会でトランス女子生徒が1位2位を獲得したというケースです。複数のシスジェンダー女子生徒が自分たちの入賞や奨学金の機会が奪われているとして裁判を起こしたのですが、結局、被害の事実が示せなかったとして訴えは棄却されています。なお、提訴の数日後に行なわれたレースでは、提訴したシスジェンダーの生徒の1人がトランスジェンダーの生徒の1人に勝利しています。
 現時点で、トランスジェンダーの生徒の女子スポーツ参加を全面禁止すべき理由を示した科学的データは1つもありません。
 IOCは2016年に「性自認が女性であることの宣言」「出場前1年間はテストステロン値が10nmol/L未満に維持」をクリアしていればトランス女性が女性競技に参加できると決めました(東京五輪が(開催されれば)史上初めてトランス女性選手が参加する輝かしい大会となります)
 国際スポーツ医学連盟は今年3月に発表した声明で、「トランス女性が女子で競技をすることを不平等とする証拠はなく、体格などの外見は性別に関係のない個人の特徴である」と謳っています。
 大阪府立大准教授の熊安貴美江氏は「現在は医学的には男女の境界線は分けられないということが明確になりました。にもかかわらず、近代スポーツは性別の境界線を維持しようとする最後の社会装置かもしれないです」と述べています(西宮市『女性とスポーツ「より速く、より高く、より強く」って何だ!』より)

 生物学的に“男性”として生まれたトランス女性が、体格面で(“本質的に”)生物学的な女性に優ってしまうため、五輪などエリートスポーツの国際大会などではシスジェンダー女性が不利になるとする見方は根強く、昨年6月には国際水泳連盟がトランス女性の選手が“男性”としての思春期をわずかでも経験した場合は女子競技への出場を認めないことを決めたり、今年3月には世界陸連が同様の方針を決めていました。
 このような国際大会はともかく、学校でのスポーツにトランスジェンダーの生徒が参加できないというのは教育の権利に関する不平等であり、人権問題だという認識が共有され、差別的な州法が撤廃されてほしいですね。
 


参考記事:
出生時男性も女子競技参加可 最高裁が暫定命令―米(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023040700648
米最高裁、陸上女子チームにトランスジェンダーの参加認める(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230407/k00/00m/030/069000c

トランスジェンダー生徒のスポーツ参加、自認する性のチーム「一律禁止ダメ」米政権が規制案(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15605070.html

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