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大きく後退したLGBT法修正案に抗議する緊急院内集会が開催、「このままでは“差別増進法”に」

2023年05月17日

 自民党の総務会が16日に了承したLGBT理解増進法案の修正与党案の内容が、2年前に自民も含む超党派議員連盟を中心に作成して与野党合意を見た法案から「大きく後退している」として、LGBTQや支援者の方々が同日、衆院議員会館で抗議集会「LGBTQ+緊急国会 〜LGBT法案の後退に抗議します〜」を開きました。全国52のLGBTQ団体が抗議に賛同しました。
 
 
 法案は自民党内の保守派に「配慮」して改変され、「差別は許されない」という文言が「不当な差別はあってはならない」に、「性自認」という言葉が「性同一性」に、また「子どもに教えると混乱する」などという声を受けて「学校の設置者の努力」という独立した項目を削除して事業者の項目と一体化させる修正もありました。

 Transgender Japan共同代表の浅沼智也さんは、「『正当な差別』の存在を認めている。「性同一性」への変更についても、性自認は「自称」だという誤った説を踏まえている、理解増進を進める前提として、大きな影響がある」「早期成立に向けた意気込みは積極的に評価してきたが、国際社会に向けた『やってる感』を演出するだけ。これでG7サミットをやり過ごそうとするのは到底許されない」と批判しました。
 2月の元首相秘書官による差別発言を機に法整備を求める署名活動を立ち上げた松岡宗嗣さんは、「議論するほど後退し、デマや差別的な発言が広げられていく状況」「修正はいずれも、どうにか差別する余地を残したいとしか思えない、そういうものになっています。このままでは理解増進法ではなくて理解抑制法、さらにいえば差別を増進するような法律になってしまうのではないか」「これがG7の議長国を務める日本の姿」と批判しました。
 超党派LGBT議連のメンバーである立憲民主党の西村智奈美議員は、「岸田総理が『社会が変わってしまう』という答弁をして、そこから荒井総理大臣秘書官が更迭された、この流れでどうしてまたバックラッシュ的なことが起きてしまうのか」と怒りを込めて話しました。
 文京区職員として差別禁止条例の制定に関わった経験のある鈴木秀洋・日本大教授は、「『性自認』はすでに自治体の条例、行政計画、判例で広く使われている。一方『性同一性』は使われていない」と述べ、具体的な中身の議論と詰めが必要だと話しました。

【追記】2023.5.19
 最後にスピーチしたTransgender Japan共同代表・畑野とまとさんの訴えをぜひ聞いてください。今回の理解増進法与党修正案の「不当な差別」という文言の存在によって、最高裁が婚姻の不平等について「不当な差別とまでは言えない」と判断してしまうことも考えられます。 




 追手門学院大の三成美保教授(ジェンダー法)は、「ジェンダー・アイデンティティは性別の自己認識を指す。この訳語が性自認で、憲法13条が保障する幸福追求権の一つである人格権ととらえる表現だ。これに対し性同一性は主に医学分野で性同一性障害(GID)に関連して用いた訳語だ」として、LGBTQの人権を保護する目的がある法案では、これまで国などの政策で広く使われてきた性自認を用いるのが適切だと述べています。
 修正与党案の他の変更箇所で三成氏が問題視するのは、国に推進するよう求める多様性の「調査研究」を「学術研究等」に改めたことと、国や地方自治体、事業者、学校などに相談体制整備の努力義務を課す項目を削除したことです。
 調査研究に関しては、法整備が進んでいる欧州で、ジェンダー問題に関する統計をつくることが国の責任になったのをきっかけに、差別解消に必要な政策が明らかになったと指摘。学術研究という表現では「国などの公的機関が政策立案の基礎として調査し、データを蓄積するようになるとは限らない」と話します。
 相談体制整備は別の条文に盛り込まれましたが、独立した項目としては消滅し、国などが啓発活動に当たって取り組む「必要な施策」の一つにとどまります。三成氏は「このままでは当事者が救われる仕組みはつくられない」と訴えています。

 また、毎日新聞は社説で「どんな形であれ、差別は許されない」と訴えています。
「当事者たちは差別にさらされ、生きづらさを抱えている。世論調査で同性婚の法制化に賛成する人が多数派となるなど、社会の意識は変わってきた。経済界からも、国の取り組みを求める声が相次いでいる。にもかかわらず、自民党内の議論は、こうした現状と懸け離れている。同性婚に反対するなど、性的少数者の権利保障に消極的な考え方も影響している。根深く残る偏見が改めて露呈したと言える」
「国としての対応は喫緊の課題だ。自民には政権与党として、性的少数者の人権を尊重する法制度を早急に整える責任がある」 



参考記事:
“保守派配慮”のLGBT法修正案 与党正式了承で今週国会提出へ 性的マイノリティ当事者「差別を増進するような法律に…」(TBS)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/488855?display=1
LGBT理解増進法・自民党修正案に『LGBTQ当事者たち』は…(MBS)
https://www.mbs.jp/news/kansainews/20230516/GE00049905.shtml
LGBT法案、当事者「後退」 国会内で集会(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230517/ddm/012/010/045000c
「差別を増進する法律に」 LGBT理解増進法案、後退に抗議(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR5J658KR5JUTIL01S.html
「『やってる感』だけ。許せない」LGBTQ理解増進法案の修正に当事者ら抗議集会(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/250384
 
実効性が低下する懸念…LGBTQ理解増進法案 自民、公明が修正合意 識者はその内容をどう見る?(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/250377
LGBT法案の修正 偏見露呈した自民の議論(社説)
https://mainichi.jp/articles/20230517/ddm/005/070/076000c

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