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G7首脳宣言を受け、議長国・日本はLGBT差別のない社会の実現という国際的な約束をどう果たしていくのでしょうか?

2023年05月22日

 LGBTQが差別や暴力を受けない社会を「実現する」と謳ったG7首脳宣言。エルマウサミットで発表された際の「権利保護への関与」より踏み込んだ表現です。他の6カ国と比べて関連法整備が格段に遅れている日本が、議長国としてこの国際的な約束をどう果たしていくのかが問われています。


 首脳声明の発表を受け、「Pride7」が20日、21日に広島市内で会見を行ないました。
 LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は、「差別のない社会の実現に触れた点は評価できる」「議長国として首脳宣言を取りまとめたがゆえに、LGBTQ当事者に対して人権を保護していないという現状が海外に知れ渡った。意識の甘さを自覚して、コミュニケ通りに政策を進めてほしい」と語りました。
 公益社団法人「Marriage For All Japan ―結婚の自由をすべての人に」の寺原真希子共同代表は、「性自認や性的指向による差別のない社会を作るという文言自体は素晴らしい」「日本が議長国として取りまとめた重みは極めて大きい」と述べたうえで、「政府は現実との乖離をどう認識しているのか。声明を具体化するためには、理解増進(法の制定)にとどまらず、差別禁止など人権保障のための法整備が不可欠だ」と訴えました。
 
 また、東京新聞によると、青山学院大の谷口洋幸教授(国際人権法)は、首脳宣言について「国際水準から見れば最低限の内容で、目新しさはないが、結果責任を伴う『実現する』という文言が使われたことは大きな進展だ」と述べています。日本が同性婚を法的に認めず、LGBTQの差別禁止法も制定していないことを踏まえ、「首脳声明は国際社会と市民への約束だ。忠実に守られているか、継続的に監視していくことが必要だ」と語りました。
 
 一般社団法人fairの松岡宗嗣代表理事はYahoo!への寄稿で、G7首脳宣言について、「昨年ドイツで開催されたG7エルマウ・サミットの宣言より踏み込んだ文言となっているだけに、性的マイノリティの人権保障が一向に進まない議長国・日本の「二枚舌」な現状が浮き彫りになっている」と述べました。「LGBT理解増進法案の修正案が国会に提出されたが、内容に大きな懸念もあり、成立の見通しは立っていない。提出だけでは首脳宣言を実行したという「ポーズ」にすらならないことは、すでに諸外国に露呈している」「日本が議長国として取りまとめた宣言だからこそ、G7各国のうち、LGBT差別禁止法も同性間のパートナーシップの保障もなく、法的な性別変更に関する非人道的な要件が残っているのは日本だけ、という"落差"が国際的にも露わになっている」「与党は、LGBT理解増進法案という骨抜きの法案をさらに後退させ、サミット直前に提出という「ポーズ」を見せたが、これでは首脳宣言の「差別や暴力から解放される社会の実現」とはかけ離れている状況だ」
 海外報道を見ると、すでに『ワシントンポスト』紙は、日本がG7で唯一同性カップルの法的保障がない国である点について「LGBTQの権利に関する異端として目立つことになる」と、『ニューヨークタイムズ』紙は、日本で法整備が進まない背景にある神道政治連盟など宗教右派の影響を報道しているそうです。 
 松岡さんは、与党修正案のうち、大きな懸念として挙げられるのが、「性自認」を「性同一性」に修正した点だといいます。「本来であれば、「性自認」も「性同一性」も、ともにGender Identityという概念の訳語であり、どちらも同じ意味だ。しかし、自民党内の会合では、性自認は"自称"で、性同一性は、性同一性障害という概念があることから、医師による"診断"かのような、概念自体を歪める議論が行われていた。もし「性同一性障害」を前提とした理解が広げられることになると、トランスジェンダーの当事者について対象範囲を狭めることになりかねず、むしろ不適切な理解が広げられてしまう可能性がある。与党側は、性同一性でも法的な意味はかわらないと説明しているが、そうであれば、これまで最高裁判決や行政文書、全国各地の自治体条例、さらに企業や学校などでも使われてきた「性自認」という言葉を変える必要はないはずだ。やはり修正の意図を踏まえると、法律ができることでトランスジェンダーのうち一部の人々を見捨てることになってしまうという重大な懸念があると言える」
 また、国民民主党と日本維新の会が「シスジェンダーへの配慮規定」などを盛り込む独自案を検討するとした件については、「トランスジェンダーを差別するための条項」を入れるか検討するということであり、与党の修正案より深刻ともいえる動きだと批判。「シスジェンダーとは、生まれた時に割り当てられた性別と性自認が一致し、違和感がない人を指す言葉で、つまり、トランスジェンダーではない「多数派」を指す。与党の修正案が検討される際、自民党会合で宮澤博行議員は、法案に反対するため「行き過ぎた人権の主張、もしくは性的マジョリティ(多数派)に対する人権侵害、これだけは阻止していかないといけないと思います」と発言している。国民民主党と日本維新の会による独自案の動きは、この発言と同じレベルのものと言える。報道によると、国民民主党の榛葉賀津也幹事長は「シスジェンダーの女性がトイレや浴場、更衣室で不快な思いをすると問題だ」と述べている。しかし、LGBT理解増進法案は、ただ「理解」を促すだけの内容で、個別のケースに対処するものではない。男女別施設の利用基準を変えるものでもなく、当然、性別を"自称"さえすれば利用できることにはならない」「昨今激化するトランスジェンダーへのバッシング言説に煽られ、ただでさえ当事者の権利は保障されないのに、「多数派を配慮しよう」という動きが野党から起こることに驚きを隠せない。このままでは、与党の修正案をより良い方向へ再修正することも厳しくなってしまう可能性がある」
 そして、今後、G7首脳宣言の中身に沿ってLGBT理解増進法が国会で審議されるのであれば、「性同一性」という言葉を「性自認」に戻せるかどうかが重要なポイントとなるといいます。「本来はG7各国と同じように、差別を禁止する法律が必要不可欠だが、LGBT理解増進法案ですら、今国会で成立するかどうか見通しは立っていない。ただでさえ「理解増進」では、首脳宣言の「性的指向や性自認にかかわらず、差別や暴力から解放される社会の実現」には到底及ばないのが明らかだ。骨抜きの法案をさらに後退させ、しかし国会に提出さえすれば、G7広島サミットの首脳宣言の内容を実行したというポーズになる――もし政権がそう考えているとしたら、それは「誤り」であると、すでに海外メディアの報道を見ても諸外国に露呈している。日本が議長国として取りまとめた首脳宣言が「二枚舌」や「外面」「見せかけ」といったレベルにとどまらず「嘘」とならないよう、宣言を実行することが国内外から求められている」


 高知新聞の社説でも、「性自認」を「性同一性」へと書き換えた点について、「文言を曖昧にすることで、対象を狭める意図が透けてみえる」と指摘されたほか、「「不当でない差別」を容認するかのような表現も、理解増進を目的とする理念法になじまないのは明らかだ」と批判されています。「与党からは「立法府の合意をG7各国に示すことが重要だ」との声も聞こえるが、疑問を禁じ得ない。理解増進より一歩進んだ差別禁止を法制化している各国の議論を、こうした認識で主導できるだろうか。経緯を知る各国に、かえって日本の人権意識の遅れを印象づけてしまったのではないか。少なくとも自民党の消極的な対応は、性的少数者への理解が進む世間とのずれを浮き彫りにした。地方議会が理解増進や差別禁止を求め、衆院に提出した意見書は、2023年だけで11都道府県の26件に上る。国政の対応の遅れに対する国内外の厳しい目を認識する必要がある」「法律はポーズではない。性的少数者への理解が実際に進み、さらに差別解消や人権の擁護につながってこそ意義がある。これ以上の後退は許されない」

 また、福島民友新聞は、LGBT法をめぐる動きを県内の当事者がどう見ているかを報じています。
 いわき市で性的少数者の居場所づくりを目指し交流会や相談会を主催する市民団体「さんかく」の代表・かなこさんは、「社会が変わるために、法律があることで理解醸成の機運が高まってほしい」と語ります。性的マイノリティが社会の中で認知されつつあると感じる一方、依然として差別や偏見がなくならない現状を挙げ、「生きづらさを感じている人は少なくない」として、「現状に追い付いていない部分がある。法律も制度も現状を反映して変え続けていく取り組みが求められる」と語りました。
 郡山市の市民団体「ダイバーシティこおりやま」の代表・阿部のり子さんは、「当事者が『これなら』と納得のいく法律ができるのが一番だが、前進することで社会が変わっていくことを期待したい」と語りました。「マイノリティ(少数者)であってもマジョリティ(多数者)であっても憲法の下、人権が尊重されて当然」としたうえで、だからこそ与党案で「差別は許されない」の文言が修正された意図はどこにあるのかと疑問を投げかけます。
 福島大教育推進機構准教授であり「ダイバーシティふくしま」の共同代表も務める前川直哉氏は、「(与党修正案は)後退したと言える」と指摘したうえで、「日本では性的少数者の人権が守られていない。当事者は新しい権利を求めているのではなく、制限されている権利を取り戻したいだけだ」「法案が成立したら終わりではなく、国会で議論して修正していくべきだ。多くの当事者の声を拾ってほしい」と語りました。

 ほかにも、北海道新聞や琉球新報など、複数の地方紙で、国際社会との認識の差が改めて浮き彫りになった、当事者の声を聞き、LGBTQを差別から守る法を成立させるべきだ、と訴える社説が掲載されています。
 



参考記事:
「LGBTも生き生き暮らせる社会」G7首脳声明、日本の現状と乖離(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR5P6SMYR5PUTFK00L.html
LGBTQが差別を受けない社会を「実現する」とG7首脳声明 識者は「大きな進展だが監視継続が必要」(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/251464
日本の「二枚舌」が露呈。G7首脳宣言「LGBT差別から解放される社会の実現」問われるLGBT法案(Yahoo!)
https://news.yahoo.co.jp/byline/matsuokasoshi/20230521-00350470
LGBTQ差別のない社会を「実現する」。G7首脳宣言に「現状との乖離があまりに大きい」の声(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6469a8d4e4b035573936ae9f
【LGBT法案】批判回避のポーズでは(高知新聞)
https://www.kochinews.co.jp/article/detail/651983
納得いくLGBT法に 当事者や支援団体、理解醸成に期待(福島民友新聞)
https://www.minyu-net.com/news/news/FM20230521-778893.php
核やLGBT「失望」 NGOやNPO 声明を低評価(中国新聞ヒロシマ平和メディアセンター)
https://www.hiroshimapeacemedia.jp/?p=132743
「性差別なき社会」遅れる日本 G7首脳声明 認識乏しい与党、「外圧」必至(北海道新聞)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/848942
<社説>LGBT法衆院提出 当事者尊重し差別禁止を(琉球新報)
https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1713954.html

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