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【追悼】クィアカルチャーの礎を築いた前衛映像作家、ケネス・アンガー

2023年05月25日

 クィアカルチャーの礎を築いた伝説の映像作家、ケネス・アンガーが亡くなったことを、所属ギャラリーであるSprueth Magersが5月25日に発表しました。96歳でした。

 ケネス・アンガーは1927年、カリフォルニア州サンタモニカに生まれました。
 1947年、彼が17歳の時の処女作『花火』は、世界初のゲイ映画と言われており、ジャン・コクトーやテネシー・ウィリアムズらも絶賛しています。性的な妄想にとりつかれた少年をアンガー自身が演じ、大挙して押し寄せる水兵たちに暴行を受けたり、ペニスが花火に変わったりといった性衝動のイメージが描かれています。しかし、作品が発表されるや、アンガーはわいせつ罪で逮捕され、事件はカリフォルニア州最高裁判所に持ち込まれますが、裁判所はポルノではなく芸術であると見なし、無罪となりました。この作品をきっかけにアンガーは性科学者アルフレッド・キンゼイと交流を始め、1956年にキンゼイが亡くなるまで友情を育みました。
 ほかにも、バイカーたちの日常をフェティッシュに描いた『スコピオ・ライジング』や、ピチピチのシャツとジーンズのイケメンがバイクの剥き出しの内部を柔らかなパフで磨くだけという『K.K.K. Kustom Kar Kommandos』などでゲイのエロスを追求しており、生涯に30本以上の短編映画を制作しています。
 その前衛的で実験的な作風は、マーティン・スコセッシ、デビッド・リンチ、デレク・ジャーマン、ライナー・ベルナー・ファスビンダー、デニス・ホッパー、ガス・バン・サント、ニコラス・ウィンディング・レフンなど、時代やジャンルを越えて、名だたるクリエイターに多大な影響を与えました。
 また、オールディーズの「Blue Velvet」(のちにデヴィッド・リンチが『ブルーベルベット』で使用)など数々の音楽に乗せてバイクを愛する青年をフェティッシュに映像化した『スコピオ・ライジング』をはじめ、魅惑的な音楽と鮮烈なイメージを組み合わせた映像作品は、現代のミュージックビデオやCMの元祖と言われているそうです。
 日本では、三島由紀夫がケネス・アンガーの『スコピオ・ライジング』をニューヨークで観て感銘を受け、当時新宿に開館した日本アートシアター・ギルド(ATG)の映画館「アートシアター新宿」を「蠍座」と命名したという逸話が残っています。
 
 1959年にはハリウッド映画界の虚飾を暴露したゴシップ本『ハリウッド・バビロン』をパリで出版。数々のセレブ俳優について記した同書は母国では長いあいだ発売されず、アンガー自身も映画製作を断念せざるをえませんでした。

 2006年に製作されたドキュメンタリー『アンガー・ミー』には、アンガー自らが生い立ちや映画人生、自作について語る姿が収録されています。

 アンガーは、豪華絢爛な映像、ポピュラー音楽そしてクィアネスを通じて、20世紀後半の前衛芸術シーンに大きな影響を与え、現代のクィアやユースカルチャーの基礎を築きました。
 監督、プロデューサー、俳優、撮影、美術、衣装、編集のすべてを自ら担ったアンガーは、二重露光、ファウンド・フッテージ、フィルムの物質性を生かした視覚表現の実験者だったと同時に、欧米圏のキリスト教的規範に対するカウンターを実践するサタニストとしてのアイデンティティを有し、神聖に対する不敬、カウンターカルチャー、旧態的な映画への侵犯の姿勢は、その生涯に一貫する表現様式であったとされています。

 


参考記事:
前衛映像作家ケネス・アンガーさん死去、96歳(映画.com)
https://eiga.com/news/20230525/15/
前衛的な映像を手がけたケネス・アンガー死去、「ハリウッド・バビロン」著者(映画ナタリー)
https://natalie.mu/eiga/news/525908
映画監督のケネス・アンガーが96歳で死去。『花火』『ルシファー・ライジング』のほか、書籍『ハリウッド・バビロン』など発表(Tokyo Art Beat)
https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/kenneth-anger-died-news-202305

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