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埼玉県の大野知事が同性カップルの権利保障の早急な議論と対応を国に要望しました

2024年05月10日

 埼玉県の大野元裕知事は9日、内閣府を訪れ、工藤彰三副大臣に同性カップルの権利保障を要望しました。


 大野知事の要望書は、国が同性婚を認めないのは違憲であると判断した今年3月の札幌高裁の判決犯罪被害者給付金同性パートナー支給訴訟最高裁判決を踏まえ、「同性パートナーが異性婚と比べて不利益を被ることのないよう、国において早急に真摯な議論と対応を行い統一的な見解を示すべき」と意見し、また「性的マイノリティは、性的マイノリティ以外と比べ、孤立感あるいは自己否定感が強い状況にあり、令和2年度に県が実施した「埼玉県多様性を尊重する共生社会づくりに関する調査」の結果では、「死ねたらと思った、または自死の可能性を考えた」といった経験がある割合は6割を超えており、命に関わる困難を抱えております。性的マイノリティの多くは、周囲からの差別や偏見を恐れ、当事者であることを隠して生活しており、性の多様性に関する国民の理解増進が求められています」と訴えるものでした。
 札幌高裁の画期的な判決の後、札幌弁護士会が直ちに同性婚法整備に着手することを要望し、大阪市議会も「同性婚や事実婚を認める新たな法制度の確立に向けた議論の促進を求める意見書」を可決していますが(詳細はこちら)、埼玉県知事がこのように国に要望したのも決して小さくない動きだと言えるでしょう。婚姻平等の実現に向けて「早急に真摯な議論と対応を」行なうべきだとの声が各方面から上がり、「結婚の自由をすべての人に」訴訟の最高裁判決を待たずに国が同性婚の法制化に着手してくれたら、そのほうが望ましいですよね。
 
 一方、大野知事が埼玉県としての同性パートナーシップ証明制度の導入を頑としてやらないことに対しては、県内の当事者からも批判の声も上がっています。これまでの知事の同性カップルの権利保障に対する姿勢はどこかアンビバレントというか、矛盾したものがあるのではないかとの見方もありました。
 昨年4月、埼玉県は事実婚のカップルが利用できるさまざまな制度や手続きを見直し、(県職員などではない一般の県民に関する)43件のうち県立病院の治療に家族として同意できる権利や県営住宅の入居者資格など33件について同性カップルにも適用したことを明らかにしましたが、同性パートナーシップ証明制度の導入については「法的効果がない」として改めて否定しました。
 4月18日の定例記者会見で大野知事は「自治体ごとに宣誓制度のあり方も異なっており、例えばですけれども、県外の市町村で宣誓をされ、その方が県内に転居された場合、これは婚姻と違って、例えば住民票が移動するわけではありません。そこで、仮に他県の制度で宣誓が行われたとしても、それを埼玉県においては県内の自治体であろうがなかろうが、等しく同様に取り扱うこととするべきだというふうに考えたところでございます。そこで、県では先ほど申し上げた通り、宣誓宣言あるいはその宣誓制度や届出は県の役割ではありませんが、この届出があろうがなかろうか、あるいは県内の市町村であろうがどのような形であろうが、自治体が認めたものについては、これらについて実効性のある措置を講じることといたしました」と述べています。他の自治体で宣誓や登録、届出をされたパートナーシップはすべて県で有効だと認めるというのは、転居に伴う不便さや、個々の制度の微妙な差異がはらむ問題を一気に解消する斬新な施策だと言えそうです。
(なお、この時点ではまだ県内で制度が導入されていない自治体も結構あったため、制度が利用できず取り残されている人たちもいるではないかという批判もあったのですが、現在は川口市を除く全62市町村が導入済みで、もうすぐ全自治体で導入される見込みです)
 東京新聞の記事「同性カップルの権利擁護へ 治療同意など33件を埼玉県が適用 知事、パートナーシップ制度導入は否定」によると、「レインボーさいたまの会」の鈴木翔子共同代表は「制度に法的効力がないことは嫌というほど知っている」「もしもの時に関係性を証明する手段として、県の制度導入を期待しているのに」と憤り、県に制度導入を求める6400人分の署名を提出した竹乃娘さんは「(制度や手続きの見直しは)知事なりの方法なのだと思うが、条例が施行されたことすら知らない県民が多い。他県と足並みをそろえた制度があることで、より多くの人に当事者の存在を知らせることができる」と、パートナーの汐恩さんは「(制度を)設けない方が正しい」「県として何の権限もない」との知事の言葉にショックを受け、具合を悪くしたといい、「制度が利用できて心が楽になった、と話す友人の存在を否定されたようだ」と竹乃娘さんに話したそうです。
 
 同性パートナーシップ証明制度は法的な拘束力はなく(法的効果はゼロに等しいです)、しかも自治体ごとに制度が異なっており、転居に際して申請のやり直しが求められる場合も多々あるという問題もあるのですが、公に同性カップルを承認することによって世間の人たちのLGBTQへの態度がサポーティブに変化したり、当事者が安心感を得たり、生きやすさにつながるという社会的、心理的な効果はとても大きいと言えます。
 一方、自治体によっては、ただ証明書を発行するだけというところもあり、パートナーシップ証明を受けたカップルが公営住宅に入れるようになるなどの具体的な行政サービスが整備されなければ、中身のない制度になってしまいます。大野知事は、具体的に同性カップルが事実婚のカップルと同等の待遇を受けられるよう、中身のほうを整備し、外側の証明書発行の部分は「形」だと割り切って、自治体ごとに微妙に異なるその外側の「形」は問わない、すべて承認するという考え方を採用したのだと思われます。ある意味、コペルニクス的転回といいますか、実によく考えられた施策と言えるかもしれません。
 また、世間の一部の人たちの間で「同性パートナーシップ証明制度があれば事足りるじゃないか」という誤った見方もあるなか、同性パートナーシップ証明制度が同性婚法制化の免罪符になってはいけないという知事の考えには、県内の当事者の方からも「理解できる」との声が上がっています(上記の東京新聞の記事より)
 大野氏は昨夏の知事選に際して同性婚について尋ねられ、「憲法や法の有権解釈権がない自治体が賛成、反対を表明すべきものではない」とし、個人としての賛否は示さなかったものの、「自治体は事実婚と同程度、同性婚に関わる制度を整えていくべきであり、差別を放置すべきではない」と回答していました(東京新聞より)
 また、先月の会見でも、県としての制度導入について「戸籍と同様、国の制度として基礎自治体に委託するべきだ」と述べていました。
 大野知事は、同性カップルの権利保障については(法制度に関して自治体は何も権限がないのだから)あくまでも国が同性婚を法制化するべきだ、その代わり、自治体でできる範囲の、同性カップルも事実婚カップルと同様に取り扱われるような施策(によって当事者の生きやすさを支援すること)には全庁を挙げて取り組むぞ、という考えをブレずに貫いてきた方なのではないでしょうか。
 そう考えると、今回の要望も筋が通っています。
 テレ玉によると、知事は「先頭に立って国に要望していきたい」と話したそうです。
  
 

参考記事:
大野知事が性的少数者の支援を国に要望/埼玉県(テレ玉)
https://news.yahoo.co.jp/articles/2001da2011fdc5b2bc058b762381bd4661f1dbd0

同性カップルの権利擁護へ 治療同意など33件を埼玉県が適用 知事、パートナーシップ制度導入は否定(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/246539

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