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【パリ五輪】開会式にレディ・ガガやドラァグクイーンが登場しました

2024年07月27日

 日本時間午前2時過ぎから始まったパリ五輪開会式。みなさん最後にセリーヌ・ディオンが『愛の讃歌』を歌うのを見届けることなく寝てしまったことと思いますが、ゲイの芸術監督が演出した今回の開会式がどれくらいゲイテイストで多様性に富むものだったか、お伝えしたいと思います。


 まず、 「聖火の冒険」と題するカッコいいイントロの映像に続いて選手団がボートに乗ってセーヌ川をやってきましたが、ショーのパートのオープニングが(出演するのでは?と噂されていた)レディ・ガガでした。ダンサーたちの持つピンクの大きな羽根の後ろからキャバレーガールのような装いで登場したガガは、ジジ・ジャンメールの「Mon Truc en Plume」というクラシックなフレンチ・ポップに乗せて、実にフランスらしいキュートなショーを披露し、喝采を浴びていました。


 「パリの愛」のコーナーで、国立図書館の中でカラフルな服を着た女の子と2人の男の子が、恋愛に関する本のタイトルを見せ合うゲームをした後(「LE TRIOMPHE DE L'AMOUR(LOVE WINS)」という本もありました)、図書館を飛び出し、どこかの建物に入って、男の子と女の子がキスに近い感じで頬を寄せ合い…そして彼らがこれから愛を交わすであろう秘密の部屋の扉を閉めようとする直前、男の子2人も頬を寄せ合って愛を交わすというバイセクシュアリティが描かれていました(トリュフォーの『突然炎のごとく』の映画的な引用もありましたが、同作の三角関係よりもはっきりと男の子どうしの親密な愛が描かれていたと思います)(このシーンの直前、橋の上のダンサーの中にも男性どうしで手をつなぐ二人がいました。キスしたようにも見えましたが…)。彼らが着ていたカラフルで素敵なお洋服は、フランスのクィアのデザイナー、シャルル・ド・ヴィルモランが手がけたものでした。
 
 選手団入場行進の後半には、セーヌ川にかかるドゥビリ橋の上にランウェイが出現し、ドラァグ・レース・フランスのホストをつとめるNicky DollPalomaPicheといったドラァグクイーンやカラフルな装いのモデル(トランスジェンダーのラヤ・マルティニーなど。他のモデルの多くもクィアな方たちだったように思われました)やダンサーがファッションショーやダンスを繰り広げました。センターでDJをしていた女性は自称「太ったユダヤ人でクィアのレズビアン」のバーバラ・ブッチというフランスのLGBTQのアイコンとなっている方だそうです。ショーの中でBALLのヴォーグ・フェムが再現されるシーンもありました(床にDipして周りの人が一斉に「Ahhh!」と叫ぶアレです)。選手団の最後のボートが行くと、ダンスクラシック(ディスコ)だった音楽がクラブミュージックに変わり、大勢のダンサーを乗せたフロアがピカピカ光るボートも合流し、まるでゲイクラブのようなダンスのシーンが展開されました(「Unie dans la diversité (多様性をもって団結する)」というタイトルが映し出されました)。Nicky Dollの最新シングル「I had a dream」が流れ、Nickyがパフォーマするシーンもありました。全世界にドラァグクイーンの姿が大きく映し出されたことも素敵ですし、フランスでいかにドラァグクイーンがメインストリームな存在になっているかということが伝わってきました。


 聖火リレーでは、カール・ルイス、ラファエル・ナダル、ナディア・コマネチ、セリーナ・ウィリアムズというレジェンドがボートで運ぶシーンが映し出されましたが、その聖火を川岸で受け取ったのが、女子テニス界で数々の世界タイトルを獲得したオープンリー・レズビアンのアメリ・モレスモでした。彼女は観客の声援を受けながら川沿いの道を走ってルーブル美術館に入っていきました。他の選手に比べるとかなり長い時間単独で画面に映っていました。聖火はその後、義足や車椅子のパラリンピアンにもリレーされ、アメリ・モレスモらが一緒に伴走するという演出で、感動を呼びました。

 終盤、セーヌ川を馬に乗って猛スピードで走る騎手の印象的なシルバーの衣装を手がけたのは、Jeanne Friotというクィアのデザイナーだそうです。
 
 「自由」「平等」「連帯」などいくつかのテーマに分かれていた開会式ですが、そのうちの一つが「Sororité(女性どうしの連帯)」で、シモーヌ・ヴェイユなどフランス10人の偉大な女性を讃えて金色の彫像が次々に現れる(パリ市内に女性の銅像が少ないことから、そのまま市に寄贈されることに)という演出も素晴らしかったです。
 国歌を歌ったアクセル・サン=シレルやアヤ・ナカムラのような黒人女性のフィーチャーをはじめ、人種的多様性への配慮、尊重も感じられました(図書館のシーンの3人のうちの1人はアジア系男子でした)
 ランウェイに義足のダンサーも登場しましたし、終盤のエッフェル塔の前でのセレモニーの中で手話を使ったダンスパフォーマンスも披露されました。
 演出のトマ・ジョリーが「誰もがリプレゼントされていると感じられるような」開会式にしたいと語っていたように、本当に多様で、素敵で、素晴らしい開会式でした。


【追記】2024.7.28
 ドラァグクイーンらのランウェイでのパフォーマンスのなかで、シンガーソングライターのフィリップ・カテリーヌが全身青塗りで「みんなが裸だったら戦争は起こるかな?」という歌詞の「Nu(裸)」という歌を歌うシーンがありました。これに対して一部の保守的な人々が「『最後の晩餐』の冒涜だ」などと批判しています(ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は「キリスト教徒にとって神聖な物語への嘲笑」であり、開会式は「大規模なゲイパレード」だったと述べています)が、あれは「最後の晩餐」ではなく、ディオニソス(バッカス)や牧神パンなどギリシャの享楽的な神々が飲み明かす「神々の饗宴」で(オリンピックは古代ギリシャに由来しています)、後ろに並んだ人々の真ん中にいるのはイエスではなくアポロンであると指摘されています(こちらこちらをご覧ください)
 芸術監督のトマ・ジョリーは27日の記者会見で「挑発的であったり、嘲笑したり、ショックを与えたりする意図はなかった」「何よりも愛のメッセージ、『包摂』のメッセージを送りたかったのであり、分断させる意図はまったくなかった」と語っています(AFP「仏司教「キリスト教を嘲笑」 五輪開会式、保守層が不満表明」より)
 こちらのblog記事によると、テレビでトマは確かに「神々の饗宴」だと言っています。このパートのタイトルは「Festivité(祝賀会)」であり、ディオニュソスがぴったりだった、オリンピックに関係のあるオリュンポス十二神がパーティを開いているイメージを表現したかったのであって、決してキリスト教をからかうつもりはなく、むしろみんなに仲間だと感じてほしかった、自分が考えたアイデアがヘイトを広げるのに使われることは望んでいない、と語っていたそうです。
 

参考記事:
Nicky Doll stuns in runway segment at Paris Olympics opening ceremony(Out)
https://www.out.com/drag/nicky-doll-drag-race-queens-paris-2024-olympics#rebelltitem2
Queer Olympic opening ceremony director wants ‘everyone to feel represented’ (PinkNews)
https://www.thepinknews.com/2024/07/25/queer-paris-2024-olympic-opening-ceremony-director/

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