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半年に1回注射するだけのPrEP薬の臨床試験で100%の有効性が確認されました

2024年08月09日

 PrEPに新たな選択肢が増える可能性があります。レナカパビルという注射剤をPrEPとして使用する大規模な臨床試験が実施され、その有効性と安全性が確認されたのです。今後、毎日の服薬が苦手な方でも半年に1回注射する方法でPrEPが可能になるのではないかと見られています。
 

 南アフリカのケープタウン大学感染症・分子医学研究所デズモンド・ツツHIVセンターの副所長であるリンダ・ゲイル・ベッカー教授によると、ウイルスが増殖するためには細胞に感染した後にその遺伝情報を細胞内の染色体に注入する必要があるが、この時、遺伝情報はカプシドと呼ばれるタンパク質の殻に包まれており、レナカパビルはカプシドの産生を阻害することでHIVの増殖を抑える効果を持つ薬剤です。レナカパビルの服用は経口服用あるいは皮下注射で行なわれるが、皮下注射であれば半年に1回でも十分な効果が得られるとされており、従来のPrEP薬よりもハードルが低いのが利点です。
 今回の大規模な臨床試験は、社会的な理由からPrEP薬を毎日服用することが困難なアフリカの若い女性5000人を対象に行なわれました。結果、レナカパビル服用群の2134人のうち、HIVに感染した人はおらず、100%の有効性が確認されました(ちなみにツルバダ服用群1068人のうち16人が、デシコビ服用群2136人のうち39人がHIVに感染したそうです)
 ベッカー教授は「私たちは、この新薬がWHOと各国のガイドラインに採用されることを期待しています。また、この薬を現実世界の状況にどのように取り入れていくかをよりよく理解するために、より多くの研究でこの薬がテストされ始めることを期待しています」とコメントしています。
 なお、この研究結果が今年7月のエイズ国際会議で発表されたとき、会場は割れんばかりの拍手に包まれたといいます(感動的…)

 国立国際医療研究センター病院エイズ治療・研究開発センター名誉センター長の岡慎一氏は、「われわれの研究では、ツルバダによるPrEPでも、ちゃんと毎日服用できていれば、予防効果は100%であった。しかし、服薬アドヒアランス(服薬遵守。毎日薬をきちんと飲み続けること)がどうしても低下するために、失敗例が出てしまうのである。とくに女性では、HIV感染リスクに対する意識の違いか、服薬アドヒアランスが低く、男性同性愛者に対するPrEPほどの効果は得られていなかった。この問題に対し、注射剤であれば、服薬アドヒアランスという障壁はなくなることになるのである」とコメントしています。ただし、薬剤が実用化されたとしても、実際に入手可能になるためには、経済的な障壁を乗り越える必要があるとも指摘されています。 
「新しい科学技術の粋を尽くして改良された注射剤によるHIV予防の一番の問題点は、薬剤費であろう。ツルバダ錠であれば、日本でもジェネリック薬を個人輸入すれば1ヵ月5,000円程度で入手可能で、タバコ代などと比べても手の届く範囲の金額である。ちなみに、カボテグラビルやレナカパビルは、治療用の注射剤として日本でも保険収載されているが、カボテグラビルの2ヵ月分の薬価は約25万円であり、レナカパビルの6ヵ月分の薬価は、約320万円である。まずは、米国での普及を見守りたい」


 このお話とも関連しますが、今年2月にPrEP利用の承認申請が行なわれていたツルバダが8月2日、厚生労働省の専門家部会で承認されました。今後、正式に薬事承認され、ツルバダはPrEP(HIV予防)にも使える国内初の抗HIV薬となると見られますが、予防目的だと保険適用されないため、このままだと薬価が非常に高くなることが予想されています。(SH外来も行なってきた)国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センターの水島大輔治療開発室長は「承認されれば、医師らが予防法として情報提供しやすくなる。感染リスクが高い人が確実に服用するには、公費助成の仕組みも必要だ」と述べています。岡先生もおっしゃっているようにPrEPは予防効果100%ですが、ツルバダが高すぎて一部の人しか買えないというのでは普及は見込めません。必要としている人たちの手に届くような状況になることを祈ります。

 

 
参考記事:
世界では、HIV予防は新しい時代へ(解説:岡 慎一 氏)-1848(ケアネット)
https://www.carenet.com/news/clear/journal/59034
臨床試験で100%の有効性を示した新たなHIV予防薬「レナカパビル」とは?(GIGAZINE)
https://gigazine.net/news/20240711-hiv-prep-100-percent-effective/
年2回レナカパビル投与で新規HIV感染ゼロ(MEDICAL TRIBUNE)
https://medical-tribune.co.jp/news/2024/0807563999/
シス女性のHIV曝露前予防、レナカパビル年2回投与が有効/NEJM(ケアネット)
https://www.carenet.com/news/journal/carenet/59022

予防目的の抗HIV薬使用、承認へ 国内初 感染リスク99%減(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASS823FZYS82UTFL00RM.html

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