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【エムポックス】アフリカでの重症化しやすいタイプの変異株の流行を受けてWHOが緊急事態宣言を発し、各国が警戒しています

2024年08月16日

 いったんは流行が収まったかに見えたエムポックス(サル痘)ですが、現在、アフリカのコンゴ民主共和国(旧ザイール)で重症化しやすいタイプの新たな変異株が猛威を奮っており、子どもを中心に500人超が亡くなり、WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。すでに欧州などにも感染が広がっており、遠からず日本でも感染が広がることが懸念されます。この新たな変異株についての情報をお伝えします。
 

 エムポックスウイルスには、アフリカ中部を中心に発生するコンゴ盆地系統群(クレード1)と、西アフリカ系統群(クレード2)の2種類の系統群があり、クレード1の方が毒性が強く致死率も高いです(クレード2の致死率は致死率が最大1%であるのに対し、クレード1の致死率は最大10%)。今回コンゴ等で猛威を振るっている重症化しやすい変異株は、クレード1の亜種(クレード1b)です。
 2022年以降にMSMを中心に流行した致死率の低い変異株(クレード2亜種)と異なり、今回流行しているクレード1bは、女性や子どもの間でも感染が広がっており、死亡者の大半が子どもだそうです。症例の4割が5歳未満の子どもだという報道もあります。「つまり、性的接触(濃厚接触)ではなく、日常的な接触やエアロゾルによる感染が起こっている可能性が高い」とニューサウスウェールズ大学のC・レイナ・マッキンタイア教授(グローバル・バイオ・セキュリティ学)は述べています。人から人へ感染しやすい変異が起こっている可能性もあるといいます。
 
 コンゴ民主共和国では今年に入って1万5600件以上の感染と537人の死亡が報告されています。これまで感染事例がなかった周辺のケニアやルワンダなどにも感染が確認されています。
 8月14日、世界保健機関(WHO)は専門家による緊急の委員会を開き、テドロス事務局長は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(まだパンデミック状態ではないが、パンデミックになることを防ぐ措置をとらなければならないとするもの)を宣言しました。ただし、感染拡大を阻止するための渡航制限は行なわないよう勧告しています。
 翌15日にはスウェーデンでエムポックス患者が見つかったと発表されました。この地域に滞在していた方だそうで、スウェーデン公衆衛生局によると、旅行者から確認されたのはクレード1bでした。
 16日にはパキスタンでも患者が確認されました。ペルシャ湾岸地域の国の帰国者だそうで、アフリカで流行している変異株かどうかはまだわかっていないそうです。
 外務省は15日、アフリカ中部の7ヵ国に感染症危険情報(レベル1)を出し、渡航者や滞在者に注意を呼びかけています。また、コンゴ民主共和国からの要請を受け、日本で製造されているワクチンなどを供与する準備を進めていると発表しました。
 
 政府は16日、WHOの「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言を受けて関係省庁対策会議を開き、国内の検査や患者受入体制を維持し、感染状況などの情報収集に努めることを確認しました。

 日本では、2022年に欧米のMSMの間で流行した変異株(クレード2亜種)が2023年にじわじわと感染拡大し、数百人の感染が報告されました。これを受けて、エムポックス感染が疑われる患者が都道府県の地方衛生研究所で検査を受け、重症患者が国立国際医療研究センターなど全国7ヵ所の医療機関で抗ウイルス薬の投与を受けられる体制が整えられるとともに、臨床研究として国産ワクチンLC16の接種も行なわれました。

 近隣諸国の動きも簡単にお伝えします。
 2020年の新型コロナ禍の際に世界一レベルの予防対策を実現した台湾は、コンゴや周辺国への渡航に対する警戒レベルを高め、現地での予防措置強化を求めるとしています。また、台湾が持つエムポックスワクチンについて、年末に入荷する分を合わせ、のべ7万~8万人が接種できるとしています。
 中国も、エムポックスが発生している国・地域からの渡航者や物品に対する水際対策を6ヵ月にわたり実施すると発表しました。感染発生地域からの渡航者に対し、感染者との接触歴や症状がある場合は入国時に税関に申告するよう義務づけ、感染発生地域から持ち込まれた車両やコンテナ、物品については衛生処理を義務づけます。
 韓国でも16日、国内に流入する可能性に備えて緊急の危険評価会議を開くことが発表されました。海外での発生状況を監視しつつ、検疫などの管理体制を集中的に点検する方針です。

【追記】2024.8.18
 こちらの記事によると、オーストラリアの(大都会シドニーを擁する)ニューサウスウェールズ州でエムポックスの症例の報告が急増しており、今年に入ってからたった1名しか報告がなかったのに、6月以降は93名に上り、その多くが同性間の性的接触によるものだったそうです。これがクレード1bなのかどうか気になって調べたのですが、こちらの記事によると、オーストラリアではまだこの系統のエムポックスは検出されていないそうです(つまり以前MSMの間で流行した系統だということです)。2024年現在も、以前のタイプのエムポックスが再び流行する可能性もあることを示す事例でした。

 まとめると、今回のエムポックス変異株(クレード1b)は、インフルエンザや新型コロナのようにエアロゾル感染し、誰でもかかる可能性がある(MSMの間で流行したタイプとは別物)と見られるため、「第二のコロナ」にならないようWHOをはじめ各国が緊張感をもって注視しています。
 ケンブリッジ大学のブライアン・ファーガソン准教授(免疫学)は声明で、「有効なワクチンは存在するが、量が不足しており、必要な場所に届いていない」と懸念し、ワクチンの生産と配布を世界全体で加速させるように求めています。


 今後、現在流行中のクレード1bの感染経路や、予防法などの詳細も明らかになってくるでしょうから、追ってお伝えします。国内での流行に備えてLC16ワクチンが使われるようになるとして(本当は、LC16は体内で複製される可能性のある弱毒性生ワクチンで、免疫不全の方や妊婦さんなどは使用できないため、そのような心配のない世界80ヵ国以上で使用されているMVA-BNというワクチンを輸入してほしいのですが…)、国民に広く行き渡るくらい十分な備蓄はあるのか、といったことも不安ですよね…。子どもたちが亡くなったりしないよう、国がしっかり対策をとってくれることを期待します。



参考記事:
「エムポックス」感染がアフリカ中部で急拡大 WHOが1年ぶりの緊急事態宣言 感染1万4000人以上・524人死亡(TBS)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1359651
重症化しやすいエムポックス、スウェーデンで確認 アフリカ以外で初(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16012730.htm
エムポックス、スウェーデン初の感染者 欧州拡大を警戒 WHO(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=20240816046328a
パキスタン、エムポックス感染初確認 アフリカ大陸外にも拡大か(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024081600831
欧州当局、エムポックスのリスク引き上げ WHOも感染拡大見通す(ロイター)
https://jp.reuters.com/world/europe/LR4MRGPSYZOJVKMIRB5YIEOT7E-2024-08-16/
エムポックス(サル痘)国内感染に備え 検査など体制確認 政府(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240816/k10014551011000.html
政府、エムポックスで対策会議 WHOの宣言受け、対応確認(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024081600870
WHOが出した「公衆衛生上の緊急事態」─致死率が上がったエムポックス(サル痘)は“第二のコロナ”になるのか(クーリエ・ジャポン)
https://courrier.jp/cj/373495/
エムポックス コンゴへの渡航警戒レベル引き上げ 予防措置の強化呼びかけ(フォーカス台湾)
https://japan.focustaiwan.tw/society/202408150006
中国、エムポックスの水際対策実施へ(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/amp/3534210
韓国大統領室 新型コロナ感染再拡大で治療薬の追加供給へ(聯合ニュース)
https://www.chosunonline.com/m/svc/article.html?contid=2024081680184

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