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すでに最高裁で芸術作品としての公開が認められているメイプルソープの写真集の男性器の写真を理由に映画をAVと同じ扱いとした映倫に対し、配給元のアップリンクが損害賠償を求めて提訴しました

2024年11月22日

 米国の伝説的な写真家、ロバート・メイプルソープの長編ドキュメンタリー『メイプルソープ:その写真を見る』について、男性器などの写真に修正を求めた映画倫理機構(映倫)の判断は表現の自由を保障する憲法に違反するとして、配給元のアップリンクが21日、映倫に対し、計330万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴しました。


 ロバート・メイプルソープはパティ・スミスのデビュー・アルバム『Horses』のジャケット写真(たった12枚しか撮らなかったそうです)や70年代NYのゲイシーンの空気感(レザーマンやBDSMカルチャーを含む)や黒人男性の美しさを写し出した作品で有名になり、アート界の寵児となりながら1989年にエイズで亡くなった写真家です。2019年のNYのワールドプライドの時期にはグッゲンハイム美術館で大規模な回顧展が開催されました。ゲイ・エロティック・アート(絵画)の世界でトム・オブ・フィンランドがアイコンとなっているように、写真の世界ではメイプルソープが代表的な作家として認識されているのではないでしょうか。
 『メイプルソープ:その写真を見る』は『パーティ☆モンスター』や『インサイド・ディープ・スロート』を手がけたフェントン・ベイリー&ランディ・バーバートが監督を務めた2016年の作品です。メイプルソープについてのドキュメンタリーは、彼を見出した美術コレクターのサム・ワグスタフとの関係に主軸に置かれた『メイプルソープとコレクター』(2007年)が先行作品としてありますが、今作は、メイプルソープ財団の協力のもと未発表の写真や映像、新たに発見された彼自身へのインタビュー音声が用いられたドキュメンタリーで、ベイリー&バーバート監督は「メイプルソープの最も衝撃的で禁じられた作品も、アーティストの意図通りにぼかしやカットなしで収録した」と語っています。
(21日に予告編が公開されたので、ご紹介します。※男性器は写っていません)


 しかし、アップリンクがこの作品を日本で配給しようとしたところ、映倫が無修正の性器が写った写真集が映る場面を問題視し、審査マークのつかない「区分適用外」(商業映画館での上映禁止。アダルトビデオなどと同様の扱い)としました。
 提訴後に会見に臨んだアップリンクの浅井隆代表は、「映倫は、作品を『R-18』のレイティングにするには男性ヌードにぼかしを入れろと言っています。アップリンクとしては、最高裁で表現の自由を勝ち取った写真作品および類似作品にぼかしを入れずに『R-18』のレイティングで上映させてほしいと主張しました。ぼかしを入れれば芸術作品としての価値は100%損なわれます」と力説し、映倫の審査の不当性を訴えました。
 問題とされた「メイプルソープ写真集」(アップリンク発行)は、浅井氏が2002年2月、10年にわたる法廷闘争の末、最高裁で「風俗を害すべき書籍、図画には該当しない」と認められています(最高裁平成20年(2008年)2月19日判決)。実際に2017年3月には銀座で展覧会が開催されるなど、展示公開もされています。それだけに浅井氏は、「最高裁判決により国が『風俗を害すべき書籍、図画等ではない』と認めたにも関わらず、民間団体の映倫がいまだ映画にぼかしを入れなければ審査をしないという判断は、表現の自由に関して大きく後退した判断。強い憤りを感じます」「映倫に対しては、ぼかしを無修正で『R-18』とするレイティングの要求と、『審査適用外』という映倫の判断により、作品の商業映画館での上映ができないことで被った被害の賠償を請求したい」と訴えました。
「2017年の展示会では、メイプルソープの作品以外の男性ヌード写真も多く展示されていました。当時から数年経ち、社会におけるわいせつと芸術の概念も変化があると思われます。そもそも映画館は、見る人をゾーニングで限定しやすい空間でもあります。最高裁判所が認めたメイプルソープ写真の表現の自由という点において、無修正での『R‐18』レイティングをお願いします」「アップリンクは、映倫審査に反対しているわけではなく、映画を観るまで内容がわからない表現形態であるので、ガイドラインとしてのレイティングには賛成という立場です」 
 さらに、浅井氏のnoteではこのように書かれています。
「アップリンクにおいて、表現の自由の闘いは1987年の会社設立当初に遡ります。
 私は、1987年にアップリンクを設立し、映画の輸入、配給業務を開始しました。第2回東京国際映画祭(87)で上映されたデレク・ジャーマン監督作品『ラスト・オブ・イングランド』は映画祭では無修正で上映されましたが、アップリンクで配給するために再度輸入手続きをする際には男性器が写っているシーンは関税定率法21条により輸入禁止処分を受け、やむを得ず該当箇所にいわゆるボカシを入れて輸入し、上映しました。その後も、映画の内容には関係なく、性器が見えるということだけで輸入禁止の処分を受け、ボカシの作業を自主規制で行い、輸入する映画作品がたびたびありました。
 1992年にある男性の方がホイットニー美術館で催されたメイプルソープ展のカタログをDHLで輸入しようした際、関税定率21条により輸入禁止処分を受け、行政訴訟を起こしたことを知りました。
 メイプルソープの写真でさえ輸入禁止になるという日本の文化状況、それならメイプルソープの写真集を日本で出版しようと思いました。輸入がだめなら和書としてきちんと出版しようということです。
 まず、アメリカのランダムハウスから日本販売の権利を取得し、1994年11月にアップリンクより国内での販売を始めました。そして国内での販売を 5 年間行い、警察の取締まりを受けることなく販売をしたという実績を作りました。
 そして1999年10月にアメリカに商用で見本品として一旦持ち出し国内に持ち込んだ際、税関にこの写真を没収されました。関税定率法21条により輸入禁止の処分にするという通知が後日きました。
 このことは想定済みのことで、猥褻事件で被告にならず、私自身が原告になり国を訴えるにはどうすればよいかということを、ホイットニー美術館のカタログで輸入禁制品として輸入禁止となって裁判を起こしたケースで知りました。和書の発行においても、一旦国外に持ち出し、輸入禁止の処分となれば行政訴訟を起こすことができると考えたのでした。その際に、裁判を有利に運ぶためには、まず国内での販売実績を積み、国内の風俗を乱していないという事実をまず築く必要があるため5年間発行を続けました。朝日新聞の朝刊の下の書籍広告、サンヤツの広告も出稿し、世間に広く告知を行いました。ホイットニー美術館のカタログは最高裁で輸入禁止と処分を受け、アップリンクのメイプルソープ写真集は問題なく国内で販売を行っていました。
 その矛盾を国に問いただしたいという思いがあり、裁判を起こしました。2000年にはギャガ配給の大島渚監督『愛のコリーダ』の宣伝を協力する機会を得ました。1976 年製作の映画が、2000年の時点でも多くのボカシをしての上映を余儀なくされ、映画監督の意図した映像を日本の観客に観てもらうことができないのは非常に残念で憤りを覚えました。
 2008年2月19日最高裁判所において、アップリンク発行のメイプルソープ写真を私が国内に持ち込もうとして国が輸入禁止をした処分の取り消しを求めた行政訴訟に勝訴しました。
 何が決め手になったかはわかりませんが、アップリンクで出版した『メイプルソープ写真集』は国会図書館に納品し所蔵され、誰でもが閲覧することができる状態にありました。その写真集を輸入禁止にするという処分が取り消された判断は真っ当な判断と思いました。
 今回、メイプルソープのドキュメンタリーで映倫を民事で提訴したのは、映倫という民間の団体が、最高裁で表現の自由を認められた写真と類似した作品を修正せよというのはおかしいと思ったからです。
 消滅時効の関係で訴えるのは、映画倫理機構と映画倫理委員会の委員長濱田純一氏(東京大学名誉教授)のみですが、当時修正しなければ「審査適応外」とした委員は表現者としての文筆業をされている吉永みち子氏(副委員長)、社会構想大学院大学学長の吉國浩二氏(委員)、ショートショート フィルム フェスティバル&アジア代表の別所哲也氏(委員)、弁護士の緑川由香氏(委員)でした。委員の方々は、最高裁の判例をどのように捉えて、当時「審査適応外」としたのか疑問に思います。個々の意見は違い、多数決で決まった結論なのか報告を得ていませんのでわかりませんが。
 最後にもう一度、私の憤りを整理して述べます。
 自分自身は映画からボカシを無くしたいという一念で10年に渡る裁判でメイプルソープの写真の表現としての自由を最高裁で勝ち取りました。その裁判の結果を受けて展覧会などの表現の自由の枠が広がったと思います。
 国が最高裁でも認めたにも関わらず、民間の団体である映倫がいまだに映画にボカシを入れなければ審査をしないという判断は表現の自由に関して大きく退行した判断に強く憤ります。
 映倫に対しては、ボカシなしの無修正での「R-18」のレイティングを要求、そして「審査適応外」という映倫の判断により、本作品の商業映画館での上映ができないことに被った被害の賠償を請求したく思います」


 g-lad xxでも以前、「メイプルソープ写真集」の裁判についての意義をこちらに書きました。10年近くも裁判を闘い、男性器が写っていたとしても「芸術的観点から編集されたものでわいせつにはあたらない」との判決を最高裁で勝ち取ったことは、本当に賞賛に値します。一律NGではなく芸術作品だと認められればOK!ということになったのです。勝訴を受けて浅井氏は「映画祭で上映されるような映画で局部が見えているからというような一律の理由で輸入禁止するということがなくなり、写真集などでも、局部を黒く塗りつぶしたり、ヤスリで削っての輸入、出版がなくなる方向に大きくわいせつの基準が変わったと思います」とコメントしています。日本で現在上映されている映画で男性器が見えていても作品の意図を尊重してそのまま上映されたり、写真集や写真展でも黒塗り等がなく鑑賞が可能になっていたりするのは、浅井氏の闘いのおかげです。
 そんな浅井氏が再び立ち上がり、不当な映倫審査と闘います。今後必ず『メイプルソープ:その写真を見る』が改竄なしに映画館で上映される日が来ると信じますし、そのときは拍手を贈りたいです。
 
 
 
参考記事:
性器の写真修正求めた映倫を提訴 メイプルソープ映画配給元(共同通信)
https://nordot.app/1232271131109999485
「上映不適切」判断、映倫を提訴(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16089723.html
国も認めた芸術作品が「18禁アニメ」「アダルト・ビデオ」と同じ扱い? 映画の配給元が「映倫」を訴えた理由(弁護士JPニュース)
https://www.ben54.jp/news/1702

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