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トランプ大統領が署名した海外援助停止の大統領令によって世界55ヵ国の人々へのHIV治療薬提供が途絶えて生命の危機に瀕する懸念がなされていましたが、国務長官の「緊急人道的免除」によって支援が継続されることになりました

2025年02月02日

 米大統領令で途上国のHIV陽性者の命が危ぶまれていましたが、治療薬の支援が継続されることになりました
トランプ大統領が署名した海外援助停止の大統領令によって世界55ヵ国の人々へのHIV治療薬提供が途絶えて生命の危機に瀕する懸念がなされていましたが、国務長官の「緊急人道的免除」によって支援が継続されることになりました


 トランプ大統領が1月20日の就任初日に海外援助を90日間停止し、内容の見直しを行なうとする大統領令に署名したことで、多額の援助を受けて医療サービスを行っているアフリカの国々で混乱と懸念が広がっていました。ロイター通信は28日、トランプ米政権がHIV治療薬などを途上国に分配するのを停止する方針だと報じ、世界保健機関(WHO)は同日「感染者らの疾病や死亡のリスクを増大させ、感染予防の努力を損ねる恐れがある」として深い懸念を表明しました。WHOによると、2023年末時点で世界のHIV感染者数は3990万人に上りますが、米国は「米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR※)」という国際支援プログラムによって55ヵ国で2600万人の命を救ってきました。(なお、ご存じのように、トランプ大統領はWHOからの脱退を表明しています
 NHKによると、南アフリカは1年間におよそ3億ドル(460億円余り)の援助を米国から受けてエイズ対策などを進めています。南アフリカでは人口のおよそ12%にあたる780万人がHIVに感染していて、そのうち550万人が抗HIV薬による治療を受けています。ケープタウンに住むブイウェ・マピパさんは17年前にHIV感染がわかり、12歳の息子も感染しているといい、「もし薬が手に入らなくなれば死を待つのみです。米国政府や国際社会にはどうか私たちを苦しめず、なんとかしてほしいと願っています」と話しました。南アフリカではエイズの治療などを行なう医療施設の一部が援助の停止を理由に休業する事態も起きています。エイズ対策に取り組むデスモンド・ツツ健康財団のリンダ・ゲイル・ベッカーCEOは「最大の懸念は、治療から脱落する人が現れ、新たに治療すべき人も見つけられなくなることです。抗ウイルス薬を服用しないと患者の体内でウイルスは増殖します。そうなるとHIV感染がまたもや広がることになります」と述べました。

※米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)はブッシュ政権下の2003年にグローバルHIV/エイズ対策を目的としてスタートしました。一国が取り組む単一の疾病に対する対策としては最も大きな公約といえます。2024年12月1日の世界エイズデーにブリンケン国務長官は、「国務省は、PEPFARとそのパートナーを通じて、HIV/エイズの蔓延を抑え、55ヵ国で2600万人の命を救ってきた。世界エイズデーにあたり、これまでの成果を守りつつ、HIV/エイズの流行終結に向けたさらなる前進を目指して取り組み続けるPEPFARの活動を誇りに思う」とポストしました。なお、同性愛が犯罪と見なされている国も多いアフリカで、果たしてこの支援がLGBTQコミュニティにも差別なく届いているのだろうかと思う方もいらっしゃるかもしれません。在ボツワナ米国大使館は2018年、「PEPFARはLGBTQを含むエイズ対策のキーポピュレーション(HIVの流行に大きな影響を受けている層)にリーチし、命を救うための予防や治療にコミットし続けることを再確認する」「PEPFARのキーポピュレーションっへのコミットは強力であり続けている。最も脆弱な人たちが差別なく予防や治療にアクセスできるよう360万ドルまで資金を拡大するつもりだ」とコメントしています。
 
 事は数千万人の人命に関わること。何とかならないのか…と世界中の多くの人々が願っていたところ、さすがにこれは問題だと政権も認識したのでしょう(ロイターでも「政権がこの計画の見直し作業に入った」と報じられていました)、1月29日、マルコ・ルビオ米国務長官が「緊急人道的免除」を承認し、PEPFARによる国際支援が継続されることになりました。(本当によかったです)

 UNAIDS(国際連合エイズ合同計画)はこの決定を受けて、「生死にかかわるHIV治療の継続に関する米国国務長官決定を歓迎し、HIVサービスへの影響の評価と緩和に向けてパートナーが結集するよう求める」声明を発しました。以下、コミュニティアクションによる日本語訳をご紹介します。


生死にかかわるHIV治療の継続に関する米国国務長官決定を歓迎し、HIVサービスへの影響の評価と緩和に向けてパートナーが結集するよう求めるUNAIDSプレス声明

「ジュネーブ、2025年1月29日 - 米国政府による対外支援資金の9日間停止方針に対し、マルコ・ルビオ米国務長官は「緊急人道的免除」を承認しました。これにより、米国の資金提供でHIV治療を受けてきた世界55カ国の人びとが治療を継続できるようになります。米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)は世界を主導するHIV対策プログラムであり、抗レトロウイルス治療を受けている世界のHIV陽性者の3分の2にあたる2000万人以上に直接の支援を提供してきました。
「何百万というHIV陽性者が、米国の対外開発援助の評価期間中も、命を救うために欠かせないHIV治療薬を継続的に受けられるようになる。このことを保証する米国政府の免除をUNAIDS は歓迎します」とUNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は語っています。「この緊急決定はエイズ対策におけるPEPFARの重要な役割を再確認するものであり、HIV陽性者は希望を取り戻すことができました」
 米国務省はつい先日、PEPFARが支援する資金とサービスを含め、すべての対外援助資金を90日間、即時停止するとしていました。米国の新政権が「プログラムの効率性、および米国の外交政策との整合性を評価するため、対外開発援助を90日間停止する」という大統領令を発表したからです。新政権にとってこれは、最初の主要な外交政策の決定の1つでした。今回の免除により、HIV治療を含む重要な救命医療と医療サービス、およびそうした援助の提供に必要な物資を対象とした「救命人道援助」の継続または再開が承認されることになります。
 UNAIDSは、HIV陽性者やHIVの影響を受けている人たちが、だれでもサービスを受けられるようにすること、およびPEPFARによるサービス提供やHIVの予防とケア、孤児や弱い立場にある子どもたちへの支援など、命を救うために必要な対策が継続されるよう努力していきます。
 UNAIDSは、世界中のパートナーと政府、コミュニティを動員し、招集し、活動停止による重要なHIVサービスの継続への影響を各国レベルで評価し、緩和する重要な役割を担っています。
 UNAIDSはエイズ終結という共通目標の達成に向けて、米国政府が世界のHIV対策にリーダーシップを発揮するようドナルド・J・トランプ大統領に求めています。」



参考記事:
トランプ政権の“海外援助停止”にアフリカで混乱と懸念広がる(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250201/k10014709581000.html
米、HIV治療の支援停止か 死亡リスク増とWHO懸念(共同通信)
https://www.nippon.com/ja/news/kd1257141280636633864/

生死にかかわるHIV治療の継続に関する米国務長官決定を歓迎し、HIVサービスへの影響の評価と緩和に向けパートナーが結集するよう求める UNAIDSプレス声明(コミュニティアクション)
http://www.ca-aids.jp/features/350_unaids.html

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