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カナダのトランス男性歌手、ビザが下りず米国でのツアーを断念

2025年04月15日

 カナダのトランス男性のアーティスト、ベルズ・ラーセンが、トランプ政権による反トランス政策のせいでビザが下りず、米国でのツアーを断念しました。
 
 トロントでアーティストと作家の家庭で育ったベルズ・ラーセンは、8歳の誕生日にギターを与えられたそう。そうして自身でギターの弾き語りをしたり作曲をするようになり、2022年には初恋の「死」をどうやったら葬ることができるのかについての探究を綴ったデビューアルバム『Good Grief』をリリースしました(公式サイトより)。そして今月、性別移行によって自身の声が低く変わっていくことをテーマにした(実際に低い声と、元の高い声の両方を使って歌っている)新曲「Might」を含む2枚目のアルバム『Blurring Time』をリリースするとともに、5月から6月にかけてボストン、NY、LA、サンフランシスコを含む全8都市の北米ツアーを予定していました。
 しかし4月11日、ベルズはツアー中止に至った経緯を自身のインスタグラムで公表しました。
「僕は今春に予定していたアメリカでのライブをキャンセルしなければならなくなりました。払い戻しもできるはずです。火曜日にAFM(米国音楽家連盟)から『ビザの申請ができない』というメールが届きました。アメリカの移民局が、出生時に割り当てられた性別と一致する身分証明書しか認めないせいです。今の社会・政治的な状況では、『今はアメリカでツアーができない』なのか『もう二度とアメリカでツアーができない』なのか、どう伝えればいいか正直わかりません。皮肉なことに、新しいアルバム発売日のちょうど2週間前に、この発表をしなければなりません。私の性別移行にまつわるアルバムです。ここ数週間、ツアーをこのまま続けるべきか、それとも今のうちに中止すべきかで迷っていました。国境での恐ろしい経験、心配する家族や友人からの安否確認メッセージ、ニュースや政府公式サイトでの渡航に関する警告が次々と出てくるなかで、不安や悪夢が次から次へと押し寄せてくるのです。僕は、トランスジェンダーとしての自分の経験を通じて、海外でも仕事をしようとしています。国境で人々が尋問され拘留されているのにどうやって無事に国境を越えられるという期待を持てるでしょうか? 今週、移民専門の弁護士2人にも相談しましたが、AFMからのメールを受け取り、前進の余地はないことが明確になりました」
 この投稿には、アメリカ国内からも「(反トランス政策は)腹立たしい」「悲しい」といった声が寄せられています。なかには、アメリカやカナダで活動する複数のタレントもいたそうです。


 トランプ大統領は2月、「ロサンゼルス五輪出場のために入国を試みるトランスジェンダー選手にはビザを発給しない」と述べていましたが、今回のベルズ・ラーセンへの対応を見ると、本当にビザが下りないのでは…と思えてなりません(IOCや欧州各国が闘うだろうとは思いますが、果たして…)。LGBTQのアスリートにとってソチ五輪以来の悪夢の五輪になるかもしれません。
 なお、米国の女子スポーツ界のトランスジェンダー排除の動きについて、元フィギュアスケート選手でジャーナリストのタリア・バーリントンが解説する記事がYahoo!ニュースに掲載されていました(元記事はこちらです)。「私たちは何世紀も前から、男性は狩猟者の子孫であり、強さの面で女性に勝ると考えてきた。だが、すでにその考えは誤りであることが、米人類学者たちによって明らかにされている」
 
 
 先月には欧州の複数の国が渡米を予定しているトランスジェンダーの国民に向けて渡航ガイダンスを改訂し、入国を拒否される可能性があると警鐘を鳴らしました。
 デンマークは自国民向けのガイダンスに、米国のビザを申請する際には「M(男性)」または「F(女性)」の2つの性別しか選択できないことを新たに明記しました。デンマークの外務省は、パスポートの性別欄に「X」と書かれている場合、あるいは性別変更歴がある場合は、渡航前に米国大使館に連絡し、手続きの進め方について指導を受けるよう促しています。デンマークのLGBTQ支援団体「LGBT+デンマーク」が同国の外務省に対し、渡航に関する勧告を更新するよう求めたことを受けて実施されたものです。同団体の事務局長スザンネ・ブラナー・イェスパーセンは「人々が空港で引き止められたり、入国を拒否されたり、不快で侮辱的な目に遭ったりしないかを懸念している」と述べました。「LGBT+デンマークとしては、トランスジェンダーの人々が米国への入国を申請しようとする場合に何が起こりうるのか、その明確な答えを知りたい。そのためにも、我々は米国大使館に直接問い合わせる予定だ」
 フィンランドでも、申請者のパスポートに記載された性別が出生時の性別と異なる場合、入国を拒否される可能性があるとの警告が発出されました。上記に該当する場合は、米国当局に事前に入国要件を確認することが推奨されています。なお、フィンランドのパスポートに「X」の性別表示はありませんが、二重国籍者が「X」表記の入ったパスポートを所持している場合は、米国当局に入国条件を確認するのが望ましいと新たなガイダンスに記載されています。
 ほかにも、英国は、入国要件を満たさなければ逮捕や拘留の可能性があるとの警告を発出しました。
 ドイツも、たとえビザやビザ免除措置の対象であってもアメリカへの入国が保証されるわけではないと通達しています。
 今後もさらに多くの国が渡航ガイダンスを更新するとみられています。
 トランプ政権はアメリカを、同性愛や異性装を犯罪として扱う国々やロシアなどの反LGBTQ法を持つ国々と同様、渡航が危険視されるような国に変えてしまったのです。かつて“自由の国”と呼ばれたアメリカは、一体どこへ向かうのでしょうか――
 
【追記】2025.4.17
 ブラジル連邦下院議員でトランスジェンダーのエリカ・ヒルトン議員が、ハーバード大学などで予定されたイベントに公務として参加するため、性別を女性に変更した出生証明書などの書類を添えて在ブラジル米国大使館に渡航ビザを申請したところ、米国政府から“男性”と記されたビザの発給を受けたそうです。渡航を取りやめたヒルトン議員は16日、Xに「懸念しているのは、ある国が公式文書を無視し、その時の大統領の主張や願望に従って権利を奪っていることだ」と投稿しました。今後は国外でも活動し、トランプ政権を批判していくそうです。

 
 
参考記事:
トランプ政権による影響で「ビザが申し込めない」→トランスジェンダー歌手、米国でのツアー中止を発表(BuzzFeed Japan)
https://www.buzzfeed.com/jp/mychalthompson/bells-larsen-cancels-us-tour-1

「トランス女性はオリンピックに出さないでほしい」米国でトランスジェンダー排除の動きが。公平性は?米専門家が解説(ウィメンズヘルス)
https://news.yahoo.co.jp/articles/c02902088c48ff1c7f19e40f492ea12da53a5ee0

欧州、LGBTの米国渡航に注意喚起 入国拒否や拘束懸念(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN23F8F0T20C25A3000000/
米国に渡航するトランスジェンダーの人々に注意呼び掛け デンマーク(AFP=時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=20250324047183a
トランスジェンダーは入国拒否の恐れ...デンマークとフィンランドが米国渡航に警鐘鳴らす(ニューズウィーク日本版)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2025/03/543263.php
デンマーク、米渡航のトランスジェンダーに大使館への連絡を勧告(ロイター)
https://jp.reuters.com/world/us/AE62WJMIBZPPTGYRWILIWQSYHQ-2025-03-24/

米発給ビザの性別に反発 トランスジェンダー議員 ブラジル(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025041700204


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