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カンヌ国際映画祭で多彩なクィア映画が上映されました

2025年05月26日

 第78回カンヌ国際映画祭が24日、フランス南部カンヌで閉幕しました。
 今年のクィア・パルム(最優秀クィア映画)はハフシア・ヘルジ監督の『La Petite Dernière』とアナント・スブラマニアム監督の短編『Bleat!』が受賞、そのほかにも何本もクィア映画が上映されました。


 今年のクィア・パルムは、クリストフ・オノレが審査委員長を務め、16の長編映画とすべての部門の短編映画が候補となり、ハフシア・ヘルジ監督の『La Petite Dernière』とアナント・スブラマニアム監督の短編『Bleat!』がクィア・パルムに選ばれました。

 ハフシア・ヘルジ監督(フランス)の『La Petite Dernière』は、オフィシャルコンペティション部門にも出品された美しい作品です。フランス系アルジェリア人でおてんばな雰囲気を持つ17歳の少女ファティマはイスラム教を信仰しており、結婚を望む青年と関わっていますが、レズビアンであることを自覚し、自身のアイデンティティと信念との調和を図る必要に迫られ…という物語です。「17歳のファティマは末っ子。姉妹と郊外に住み、愛情あふれる幸せな家庭を築いている。成績優秀な彼女はパリの哲学大学に入学し、まったく新しい世界を発見する。若い女性としての人生を歩み始めた彼女は、家族とその伝統から解放される。ファティマは自分のアイデンティティに疑問を抱き始める。自分の信仰と芽生えつつある欲望をどのように調和させることができるのか?」
 この作品に主演したナディア・メリッティは、今回、主演女優賞にも輝いています。プライドパレード中に行なわれた公開キャスティングで見出されたフランス系アルジェリア女性で、自身もれずビアン。気張ることなくキャラクターの複雑さを表現し、見事俳優賞を獲得しました。

 
 アナント・スブラマニアム監督(マレーシア)による短編『Bleat!』は、マレーシア人とタミル人のカップルが育てている雄ヤギが、生贄にされる寸前、妊娠していることがわかり、カップルはカラッパスワミの神の罰を避けるために真実を探し求める…という数奇な(クィアな)物語です。マレーシアの短編作品がカンヌで選出・受賞されるのはこれが初めてで、アナント・スブラマニアム監督は実は東アジア・東南アジアの映画人育成プログラム「タレンツ・トーキョー」修了生なんだそうです。


 それから、第一次世界大戦に引き裂かれた淡くも深い男性同士の恋愛を描いた『The History of Sound(原題)』という作品がプレミア上映されました。
「舞台は1919年のアメリカ、メーン州の田舎町。フォークソングを収集する旅に出た2人の青年、ライオネルとデヴィッドは音楽を通じて心を通わせていく。ライオネルはケンタッキー出身の農家の息子で、「音楽が見える」という才能を持ち、奨学金でニューイングランド音楽院へと進学する。一方のデヴィッドは、裕福な家庭に生まれ育ち、洗練された物腰と音楽への情熱を併せ持つ人物である。2人はボストンのバーで出会い、そこでフォークソングをきっかけに交流が始まり、やがて友情は恋情へと変わっていく。しかし、戦争が2人を引き離す。デヴィッドは徴兵され、ライオネルは視力の問題で兵役を免れる。デヴィッドからの連絡は途絶え、ライオネルは再び故郷へと戻る…」
 Hollywood Reporterによると、「当時の同性愛者が直面した社会的抑圧を直接描くのではなく、自然の中で自由に愛し合う時間が中心となっている。静かな幸福の記録として、音楽と共にある愛が綴られている」そうで、「近年のLGBTQ映画の中でも、とりわけロマンチックで、芸術性の高い一本である」とのことです。「『ブロークバック・マウンテン』と比較されることも多いが、本作はより静かな余韻と「記憶の中の愛」を描くという点で独自の魅力を放っている」
 ベン・シャタックによる短編小説を南アフリカ出身の監督オリバー・ハーマナスが映画化し、静謐で詩的な世界を丁寧に映し出しています。主演はポール・メスカルとジョシュ・オコナーという実力派俳優です。
 間違いなくいい作品だと思われます。日本での公開が待ち遠しいです。


 それから、「ある視点」部門に出品された『Pillion』は、クィアコミュニティを背景にひとりの青年のアイデンティティの模索と成長を描いた作品です。「内向的な若者コリンが、カリスマ的なバイカー集団のリーダー、レイと出会ってその『サブ(服従者)』となる。二人の関係はBDSMを通じて深まっていく」というお話だそう。アダム・マーズ=ジョーンズの小説『Box Hill』をベースに、今作が長編デビュー作となるハリー・ライトンが脚本も手がけ、映画化しました。ライトンはオックスフォード大学で文学を専攻しながら短編映画の制作を始め、2017年の短編『Wren Boys』で第71回英国アカデミー賞(BAFTA)短編映画賞にノミネートされるなど、注目を集めた期待の新人。本作は米国での配給権をA24が取得したことも話題になり、日本での配給も決定しているそうです(楽しみですね)

 
 時事通信によると、今年のカンヌは、米映画界のレジェンドらが強権的なトランプ大統領を相次ぎ批判したことでも話題になりました。13日の開会式で生涯功労賞に当たる「名誉パルムドール」を受賞した名優ロバート・デニーロは、スピーチでカンヌを「(映画)芸術を愛する人々のふるさと」と讃える一方、トランプ大統領を「俗物」だとし、「当たり前と思ってきた民主主義のため、皆が必死に闘っている」「映画は人々を結び付け、多様性を受け入れる。独裁者やファシストにとって脅威だ」と述べ、国境を超えた共闘を呼びかけました。
 ジョディ・フォスターも映画祭に参加し、仏メディアのインタビューで「私は自分の国を誇りに思う」「反民主主義的(政治)階層の出現を見るのはつらい」と語りました。
 

【追記】2025.5.30
 タイ映画『A Useful Ghost』がカンヌ国際映画祭の「批評家週間コンペティション」部門で最高賞を受賞したそうです。
 この作品は、元レディボーイであった人が購入した掃除機が、夜中に咳き込んだりするので、修理の人を呼んだところ、やってきたハンサムな修理技師が、この掃除機には、大気汚染のせいで亡くなった女性の霊が憑依している、その夫の元に掃除機として帰ってきた“彼女”は、夫の母親の経営する工場に現れて業務を妨害する元従業員の幽霊と戦い、夫との愛を証明しようと奮闘し…というお話を物語るという奇想天外なストーリーです。クィアのキャラクターが前面に出ているとともに、全体としてもクィアなアレゴリーになっている、とのことです。
 タイ映画が同映画祭のコンペティション部門で選出・受賞を果たすのは、タイ映画史上初のパルム・ドールを受賞した『ブンミおじさんの森』以来15年ぶりだそうです。(『ブンミおじさんの森』はアピチャッポン・ウィーラセタクンというゲイの監督による作品です。『ブンミおじさんの森』がクィア映画かどうかは解釈が分かれるところです)




参考記事:
カンヌ国際映画祭2025:クィア・パーム賞はハフシア・ヘルジ監督の『La Petite Dernière』が受賞(SORTIRA)
https://www.sortiraparis.com/ja/pari-de-nani-o-suru-ka/eiga-shirizu/articles/294212-kan-nu-guo-ji-ying-hua-ji2025-ku-ia-pamu-shanghahafushia-heruji-jian-duno-la-petite-derniere-ga-shou-shang
【今年の傾向を読み解く】 第78回カンヌ国際映画祭 受賞結果を総チェック(MEN'S CLUB)
https://www.esquire.com/jp/entertainment/movies/g64870510/cannes-2025-film-festival-winners/

映画人育成プログラム「タレンツ・トーキョー」修了生が躍進、カンヌで3作品が受賞(ORICON)
https://www.oricon.co.jp/news/2387147/

『The History of Sound』レビュー:ポール・メスカル×ジョシュ・オコナーが紡ぐ美しき同性愛映画(The Hollywood Reporter Japan)
https://hollywoodreporter.jp/movies/112782/

公開が待ち遠しい。カンヌで話題&高評価された作品5選。(FIGARO)
https://madamefigaro.jp/culture/2025-527-talked-about-movie.html

米映画界「トランプ批判」展開 今年も政治色濃く 仏カンヌ(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=202505250027

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